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51話:超超全滅

 俺は勇者ノワクロ討伐の為に大軍を率いてカタラニア大平原の入口まで来ていた。


 『魔王空軍』と『ビースト軍』の魔王連合軍。その数は四千を超える。

 比率は魔王空軍が大半を占めているもののビースト軍も四獣王を筆頭に少数精鋭の強者揃いとなっている。当然これは万が一に備えて俺の安全を確保する為の手駒として配置しておりノワクロを削る役目は魔王空軍に担ってもらう予定だ。


 これだけの兵を見通しのよいカタラニア大平原に投入すると流石に王都カレンダも異常に感づく。ないとは思うが結託されても厄介なので同時刻にはカレンダにも通常より少し多めの魔物で攻める手筈となっている。意識を自国に集中させるという理由よりは単純に魔物という障害物を作りこちらの動向を悟らせない為だ。


「ピクルス様。全軍進攻準備は整っております。このまま王都ウエディを攻めますか?」


 モルフォが作戦の指示を仰ぎに鱗粉を飛ばしながらやって来る。

 今回のノワクロ討伐の副指揮官にはモルフォを任命していた。こちらの大陸で俺の世話係をしてくれた彼女は気もきくし魔王空軍の中でも高い戦闘力を有している。使うにも捨てるにも実に都合がいい存在なのだ。


「いや、もう少しこの平原入口付近で待つ。できればノワクロの逃げ場所になる王都ウエディとは離れた場所で戦いたいからな」


 王都ウエディにだけはこちらの大軍が攻めてくるという情報と方角を三通目の内部文書を掴ませ知らせてある。王都ウエディ付近で戦いたくないのはあちらも同じはずだからな。


(と、なるとそろそろ来ても良い頃だ……)


 ファーゥオォーー! ファーゥオォーー! ファーゥオォーー!


 魔王連合軍の先頭付近で角笛が三度鳴る。


「……!? この鳴らし方は!」


 モルフォの蝶顔に緊張が走る。

 それもそのはず、事前に決めていた角笛の取り決め。一回は進軍の合図。二回は後退の合図。そして三回は……勇者発見の合図。


「……来たな」


 俺は指揮系統の本陣でもある最後方の移動用荷台から降りると同じく荷台で呑気にも寝ているニュウナイスに声をかける。


「ニュウナイスよ起きろ。勇者ノワクロだ」

「むにゃむにゃ~……もう王都ウエディに着いたでちゅか?」

「いや、ご丁寧に出向いて来てくれたようだ。念のため確認したい。上空まで連れて行ってもらえるか?」

「お安い御用でちゅ」


 そう言ってニュウナイスは足で俺の肩をガシッと掴む。


「モルフォは上空からの私の指示に従い軍を指揮せよ。ノワクロには聞きたい事もある。可能であれば生け捕れ」

「かしこまりました」


 俺はそのままニュウナイスに連れられ上空へ舞い上がる、


(うぉぉぉ!? 地面遠い! 怖っ! ていうか速っ!)


 初めて飛ぶ空の広さと高さに動揺する俺。しかもニュウナイスの速度は絶叫マシーンのソレを遥かに凌駕するものだった。


「にゅ、ニュウナイス、ちょっと速すぎるぞ! ゆっくり飛べ!」

「……? ゆっくり飛んでまちゅよ? 」


 そうなんだ……空の体感速度って凄いな……予行演習くらいしておくべきだった……


 高さ150メートルほどの所で空中静止してカタラニア大平原を見渡す。

少し離れた場所にこちらへと歩いて来る人影が見える。俺は手持ちの望遠鏡を懐から取り出しその人物を観察する。


 あれが勇者ノワクロか……

 銀髪の髪に動きやすそうな白い鎧。歳は二十代後半くらいか?


(勇者観測記にもあったノワクロの外見とも一致する……思惑通り一人で戦地に赴いてくれたようだな)


 それじゃあまず三大勇者の実力の程を見せて貰おうかね……

 

 俺は手を大きくグルンと回し地上にいるモルフォへと合図を送る。

 その指示を受け魔物の軍はその隊列を横長に展開、そしてノワクロを囲むような布陣を取る。

 地上の魔物は非常に多種だ。トカゲ、ムカデ、サソリ、蜘蛛、等など……魔王空軍ならぬ昆虫軍ともいえる前方に固めた魔物が次々と距離を詰め襲い掛かる。


(さて、どう出るノワクロ?)


衝撃抜刀(インパクトエッジ)


 勇者ノワクロは腰にある剣に手を掛けると抜刀と同時にビュンッと居合の要領で襲ってくる魔物を薙ぎ払う。そしてそのまま高速の剣技を披露し次々と魔物を撃退していく。振った剣からは衝撃波が走り雑魚魔物は余波で近寄る事もできない。


(やるな。この程度の魔物では時間の無駄か)


 俺は右手を大きく振り下ろし次のサインを送る。

 先ほどの昆虫の魔物と入れ替わる様に地上からはオークやグリズリーそして低空で待機していたガーゴイルや火を噴くハエの魔物が空からノワクロを強襲する。


「はあっ!!」


 掛け声と共に勇者ノワクロはまずグリズリーに飛びかかるとそのまま心臓を一突きし絶命させる。そしてグリズリーを剣に突き刺したまま振り回しオークの斧や火から身を守りつつ一体一体確実に仕留めて行く。


 なるほど、グリズリーを盾として使うのか、戦い慣れているな。

 レベル99(カンスト)は伊達ではないという事だな。……しかしなんだこの違和感は。


 その後も魔王連合軍はノワクロに休む間を与えず攻めたてる。

 三百体ほどの魔物を一人で倒したノワクロだが流石に疲労が見えている。俺はすかさず左手を振りおろし指示を出す。今度は魔王空軍の中でも強種に位置するコンドルの魔物とハヤブサの魔物が隊列を組んでノワクロに突撃する。

 その素早い動きはノワクロといえど捉える事は容易ではなく鎧の隙間である肩口や足を鋭いクチバシで食い裂かれ徐々に白い鎧が赤く染まって行く。


「おおおぉぉぉぉ!! 旋風刃(センプウジン)


 ここまで聞こえてくる雄叫びと共にノワクロは風車のように剣を回転させ斬撃面積を広げる。そしてそのまま剣を上空へ掲げながら突進しコンドルとハヤブサの魔物の翼を切り裂いた。


「はぁ……はぁ……」


 そしてそのままガックリと膝を落とすノワクロ。


(どうやら限界のようだな……)


 大したものだ。一人でこれだけの数の魔物を相手にここまで長時間戦い続けられたのだからな。

 流石は三大勇者。そして危険度Aと言った所か……



 ……いや、待て……危険度A……これが危険度Aだと?


 先ほどから感じていた違和感。確かにノワクロは強い、単騎の力なら勇者ファーウェルを凌ぐだろう。

 だが所詮は強力な剣技を使う勇者という程度。同じ危険度Aのポシェットの厄介度はコイツの比ではなかった。それにここまでの戦闘でノワクロは魔法を一度も使っていない、明らかに不自然だ……


「どうしたでちゅか? ピクルスちゃん?」


 パタパタと飛びながら心配そうにニュウナイスが声をかけてくる。


「いや、なんでもないのだ」


 ……まあいい。このままなら生け捕りも可能だろう。後からゆっくり吐かせてやるか。

 俺は地上に向け勇者ノワクロの生け捕り指示を出す……その瞬間!


「ゆ、勇者ノワクロが逃げたぞぉ――!!」


 地上から大声があがる。


(え? ノワクロが……逃げた?)

 

 俺は急いで望遠鏡を覗き込む。

 そこには確かに王都ウエディへ向かって必死に遁走する勇者の情けない姿が映っていた。


 っ……!? しまった、これは予想外だ!

 王都城内に逃げ込むという可能性も一応考えてはいたがそれはあくまで王都ウエディと連携して回復の時間を取るという戦術的方法として、だ。

 一人戦地にやって来た事を考えてもノワクロはすでに王都ウエディから邪魔者扱いされており戻って来られても迷惑な存在なだけのはず。


「ちっ! 逃がすな! 追え!! それとモルフォ! 弾幕の為に王都カレンダ側へも二百体ほど魔物を差し向けておけ!」


 俺は大声で魔王連合軍に指示を出す。


 ノワクロは追撃してくる魔物を剣で振り払いながら必死に王都ウエディを目指している。

 ここで逃がしたところでノワクロ自体に脅威はない。だがノワクロの謎も分かっていない上にこちらが戦術を使って戦ったという事が人間側にバレるのはマズイ。なんとしても殺しておかなくては……


 角笛が大きく一度鳴らされ魔王連合軍は王都ウエディへ向け進攻する。




 ――――なんだ……これは……


 ノワクロを追い王都ウエディに着いた俺の目に飛び込んで来たものは無残に壊滅した町の姿だった。


 あちこちから火の手があがり、空から視認できるほどの死体の山が町中に転がっている。そして奥に見えるウエディの城も完全に崩壊していた。


(全滅……しているのか? 王都ウエディが? なんで……!?)


 先に着いた魔王連合軍は王都ウエディ城門前で戸惑いながら右往左往している。

 ……俺の指示なく勝手に攻め入ったわけではなさそうだ。そもそも俺が到着するまでの短時間で王都ウエディを落とせるはずもない……


 つまりこれは俺たちの……魔物たちによるものではない。という事は……

 俺は心に一瞬よぎった考えにハッとする。


 まさか……ノワ……クロ……!?


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