38話:勝利の定義
「まず一つ目の質問だ。勇者ポシェットとはどのくらいの頻度で会っていた?」
「ナ、なんの事だカ……」
ピューピューと下手くそな口笛を吹いて空っ惚けるプラムジャム将軍。俺は右手に力を込める。
「い、痛い! 本当ニやめて!」
「もうネタはあがってんだよ。お前が呑気にスリープしてる間、勇者ポシェットと話したからな」
「……む、ムう」
ポシェットと話したのは本当だ。だが数回言葉を交わした程度で実際には不明瞭な事が多く全ては推測の域を出ていない。ここは嘘をつかせない為にも全容を把握しているていで情報を搾取すべきだ。
「で、どのくらいの頻度で会っていたんだ?」
観念したようにプラムジャム将軍は話し出す。
「ポシェット本人トハ数カ月に一度といった所ダ……周りの目モあるのデ極力会うのハ避けていたからネ。クレスタ達とは一年ぶりくらいだったカナ」
周りの目を気にするならポシェットたちと相対した時にあの反応は駄目だと思うが……
「普段は強制交友に掛かっているエルグランディスたちを介してやり取りをしていた……そういう解釈でいいんだな?」
プラムジャム将軍は小さく頷く。
思った通り完全に裏で繋がってやがったか。情報不足だったとはいえ気づけなかった俺も相当間抜けだな。
ヒントはあった。死体のエルグランディスが四大将軍会議の時にプラムジャム将軍を椅子として使っていたが何の事は無い、ありゃ椅子じゃなくて馬だ。ポシェットの意識が反映されているのか昔の教え子だったのかは知らないが単にじゃれていただけなのだろう。
「二つ目の質問だ。帽子女と巫女装束女、あの二人はポシェットと一緒に最後までお前の学級に残っていた勇者の資質がなかった二人か?」
「アア、名前はクレスタと巫女姫ト言う。とてモ優しイ子たちでポシェットの親友ダ」
やっぱりそうか。それさえ分かれば二人の異能力はまあ聞かなくていい、か。この状況では今更知ったところであまり意味はないしな。
……さてここからが本題だ。
「三つ目、ポシェットとはいつも何を話していた? どう考えてもお互い戦う気が0だったよな?」
「…そ、その前ニ言葉づかいヲ直したまえヨ軍師クン。一応私は将軍格デ……ッテ、痛イ!」
俺はアイアンクローの爪を立ててブリキ頭に食い込ませる。
「裏切り者は何階級格下げなんでしょうねぇブリキ将軍さん。普通は死罪のところを大目にみてあげてるんですけどねぇ……」
「ギャアア! ヤメテ! お願イ! 痛くしないデェ!」
涙ながらに訴えるプラムジャム将軍。早く言えとばかりに更に右手に力を込める。
「ギャアアァァ! ぽ、ポシェットにはメカチックシティにこのまま隠れてイテ欲しいト! あまり目立った行動ヲ取らナイようにシテ欲しいと伝えていたダケですゥ!」
そこまで聞いたところでパッとアイアンクローを解く。
「ハァハァ……痛かっタ……こんなノ初めテ」
メカチックシティに隠れていて欲しい……か。
「……つまり反転重力場は勇者ポシェットを閉じ込める為のものではなく隔離して魔王軍から手を出せないようにする防護壁って事だな」
「……ウゥ、頼むカラ黙っておいてくれたまえヨ。特にレモンバームには絶対言わないデ! お願いダカラ!」
結局このポンコツは情にほだされて本来の魔物の在り方を捨てたのか。別に知ったことではないが反転重力場をポシェットたちの為に展開した時点でこいつは魔物として死んでたわけだ。
「四つ目、俺をここまで同行させた理由は何だ?」
「……反転重力場を維持するのニ限界ガあるのは本当なのダ。ポシェットたちを匿ういい案ガあればそれと無ク教えテ貰おうト思っていたのダ。軍師クンの噂は聞いていたからネ」
なるほどな。通常将軍のみで行う会議に急遽俺が参加する事になったのはおかしいと思っていたが出席要請を出したのはお前か。
まあ現地についたら元々ある程度情報は開示する予定だったのだろう。そうでなければ頑なに秘密にしていたであろうポシェットたちとの癒着の秘密をこんなにベラベラと喋ったりはしないだろうからな。
「最後の質問だ。ポシェットの強制交友……これはポシェットの意志で解くことはできるのか?」
これには少し考えてからプラムジャム将軍が口を開く。
「い、イヤ。多分無理だナ」
ふん……まあいいか。
一呼吸入れてクールダウンすると俺は優しくプラムジャム将軍に話かける
「……乱暴な口を聞いてすいませんでしたプラムジャム将軍。将軍の本音が聞きたかった為手荒な事もしましたが非礼を詫びます」
「エ……? ア、あア。苦しゅうないゾ軍師クン」
俺の態度の急変に困惑しているブリキ。ちょっと怒りに任せて熱くなってしまったが必要な情報は聞き出せたからな。
「今の話を聞いて得心しました。プラムジャム将軍のお気持ち察します」
「あ、ソウ? 分かってくれるかネ。イヤー流石は我が相棒ダ!」
「プラムジャム将軍、今の話をふまえた上で勇者ポシェットたちを匿う……いや、助ける妙案がございます」
「な、ナンダト!」
十分だ、勝てる。
俺の勝利の定義の範疇ならな。