21話:強制交友
「卒業オメデトウ、ポシェット。今日からは君モ勇者エルグランディスを名乗りなサイ」
「ありがとうショーグン!」
「イヤ……元気で頑張るんダゾ」
「うん! 卒業したけどこれからもちょくちょくショーグンのとこに遊びに来るからね!」
「ソウカ」
「ちょっと淋しいかもしれないけど立派な勇者になって戻って来るから待っててね!」
手を振りながら笑顔で少女ポシェットは答える。そして向かい側にある白い高層の建物の中に入って行った。
「私はポシェットを含む残った三名ヲ勇者の資格である、慈愛を体得したと報告し学級から卒業させタ」
つまりは虚偽報告と言う奴だ。気持ちは分からないでもないが将軍ともあろう者が何をしているんだか……
「『エルグランディス計画』は最終フェーズに移行していた。勇者となった彼ら彼女らに近隣の町を襲わせ壊滅させる事……そしてその成果を持って本計画は完了する予定だった」
レモンバーム将軍が静かに口を開く。
「クェ―。俺たち魔物は町に撒かれている聖水結界のせいでそう簡単に町内部には侵入できないからな」
「だから魔王の軍師の案で手駒にできる人間を……勇者を育成しようという計画が持ち上がったわけだ」
成程……単純に強い手駒を増やすというだけの目的ではなかったって事か。
で、やっぱり発案者は例の軍師様……ですか。最終フェーズは駒が盤上で思い通りに動いてくれるかの最終確認って事ね。
「……にも関わらず人間を襲う教育もろくにできていない、しかも出来そこないの勇者もどきを三人もこのブリキは無理矢理捻じ込んでくれた……という訳だ」
「そう言うなレモンバームよ。何度も言うがプラムジャム一人に計画を任せ切っていた我々にも責任はあるのだ」
「そうだな。それに苦しい事は五人で分け合えば五分の一。そして楽しい事は五人で分かち合えば五倍だ! 勇者エルグランディスを倒して最高の喜びを手にしようクェ!」
ドヤ顔を決めるアールグレイ将軍。
恰好をつけるのは構わないが勝手に俺を数に入れるのはやめて貰いたい。
まあ、だが協力はしないでもないかな。放っておけばそのうち身に降りかかる火の粉でもあるしな。
「じゃあ映像の続きを……」
「必要ない。ここから先はただの茶番劇だ」
レモンバーム将軍が厳しい口調で言い放つ。
(今までの映像も結構茶番劇だったんですけど……)
「結論から言うと彼女は最終フェーズである殲滅訓練の際にある異能を発現させた」
「異能?」
「そうだ。現在この世で確認できている魔法は120。そのどれにも当てはまらない異能だ。」
「……どんな魔法なんですか? まさか死者を蘇らせる……とか」
チラリと隣に座っている死体、青い髪のエルグランディスを見る。
死者を生き返らせる魔法……そんなものがもし使えるとしたら脅威だな……。
「魔法……とは呼べないな。まさに異能だ。先程も言ったが彼女は死霊魔術師なんて可愛いものじゃない」
「クェ―俺達は彼女の能力を強制交友と呼んでいるんだがな」
強制交友?
「ポシェットの強制交友ハ相手を強制的ニ自分ノ仲間にしてしまう能力ダ」
「自分の仲間に……ですか?」
(……なんだ……ただの魅了能力って奴の一種じゃないか)
「発動条件は彼女と握手すること。そしてその有効範囲は人間、魔物、動物……そして死体に至るまで脳の機能さえ完全に破壊されていなければその者の全ての所有権は彼女の支配下に置かれるのだ」
え……死体に至るまで?
「クェ―それだけじゃないぞ。支配下に置かれた者は自分の頭で考え行動するらしい。自分の意志で勇者ポシェット=エルグランディスの為に戦うんだとよ。まっ死体になっちまった奴はある程度機械的に動くだけみたいだがそれでもほぼ不死身だから強いんだな~これが」
「厄介なのはたとえ死体になっても人間であればレベル上がって行くという所だ。元々最初に強制交友を発現した際にレベル30近い勇者エルグランディスを十数名は従えているからな、こいつ等だけでも十分な脅威だ」
「しかも強制交友に堕ちた人間と握手しても同様に強制交友が発動されるからな~。困ったもんクェ」
なんだそりゃ!? ねずみ算式に仲間が増えていく超絶チート能力じゃねーか!!
しかもレベル30って勇者ファーウェルクラスの配下がすでに十数名いるのかよ……。
更にそいつらの手に触れたら駄目とか無理ゲー過ぎるだろ!!