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20話:勇者の少女

「ショーグン!」


 ん? なんだ? 


 研究室と実験の様子しか映っていなかったさっきまでの映像が一旦途切れる。

 そして少し間をおいて画面が切り替わると、五歳くらいの金髪で青い目をした小さな女の子がトコトコとカメラに向かって歩いて来る様子が映し出されていた。


「この子……ですか?」

「ソウダ……私には見た物を録画スル機能もあってネ。先ほどのまでの映像ハ魔王軍師の報告書を拝借したものダガ、ここからは私の映像、イヤ……記憶と呼んでもいいカモ知れないナ」



「ショーグン。おうまさんになって~」

「ハハ、仕方がナイ子だなポシェットは」



 室内でプラムジャム将軍と遊ぶポシェットと呼ばれる女の子。


「先程の報告書にもあったようニ、『エルグランディス計画』デ課題となったのハ、躊躇わず戦闘ヲ行う事ができる精神の教育ダッタ。その為、将軍でアル私自ラが幼少メンバーの教育係を引き受ケ英才教育を施していたト言う訳ダ」


 まるで本当の父と娘の様に遊んでいる。そんな微笑ましい光景であった。


「ショーグン、ショーグン! じゃーつぎは複雑な形の海水魚リーフィッシードラゴンになって~」

「ハハ、複雑な形の海水魚リーフィッシードラゴンは無理ダヨ。物知りダね、ポシェットハ」

「ね~ね~……複雑な形の海水魚リーフィッシードラゴンに……ヒック……なってよ……」

「マ、待テ、泣くナ。分かっタ分かっタ、複雑な形の海水魚リーフィッシードラゴンだナ。オイ! そこのカラクリ兵ヨ、トンカチとのこぎりを持ってコイ!」

「え? 何に使うんですかプラムジャム将軍?」

「いいカラ持ってコイ。複雑な形の海水魚リーフィッシードラゴンにもなれずに将軍が務まるカ!」


 その後映像からは一人部屋に籠って作業をしたであろうプラムジャム将軍の

 「ギャアァァァァ」と言う悲痛な叫び声だけが聞こえて来た。

 プラムジャム将軍視点なので知る由もないがどうやら彼は彼で第二フェーズへの移行を余儀なくされたようだ。


「ハァ……ハァ……お待タセ……ポシェット。サア、複雑な形の海水魚リーフィッシードラゴンだヨ」

「わぁ~い。きもちわるい~」


 キャッキャと笑う少女ポシェット。

 映像を見るとポシェット以外にも何十人かの小さな子供が取り囲むようにプラムジャム将軍の周りで騒いでいた。


「あ~ズリィよポシェットばっかりー! ショーグン先生、今度は僕らを連れてきてくれた船になってよ~」

「オ、お安いご用ダ……」


 トンカチとのこぎりを持って部屋に戻るプラムジャム将軍。

 またしても映像から絶叫がこだまする。


 ……やっぱり微笑ましい光景とは言えないな……よく死ななかったなこの将軍。

(っていうかこんな映像を延々と見せられるのか!?)


「ちょ、ちょっといいですか!」

「ン? 何かネ」

「この映像って早送りとかできないんですかね? 重要な点だけ見たいというか……」

「アア、できるゾ。じゃあメカチックシティ主催のお遊戯会まで飛ぼうカ」

「いえ、それも飛ばしてください」

「ナニ? デハ秋ノ運動会まで飛ぶノカ? それデは子供たちノ成長過程ガ観察できないゾ?」

「い、いや~それもまたの機会にしておきます。今は時間もないのでさっきのレポートにあった最終フェーズって所からお願いします」

(いいから早く重要な所まで飛ばせやこのポンコツロボが!!)

「ム……そうカ。では二年前の映像カラ映すことにしヨウ」



 パッと映像が切り替わるとそこには成長したポシェットの姿があった。とはいえまだ幼さ残る少女であった。二年前だとまだ十二歳だから当然か。


「ショーグン! 私今日レベルが一個あがったんだよ~」

「オォ! そうカ! ……レベル幾つになったんだったカナ」

「へへ~。レベル12だよっ! 褒めて褒めて~」


 ヒョコッと突き出して来たポシェットの頭を撫でながらもプラムジャム将軍の目線はどこか虚ろであった。


「……? どうしたのショーグン? お腹でも痛いの?」

「イヤ……なんでもナイ。それよりドウだ? 変わった事は無いカ? 例えば何か魔法を覚エタ、とか」

「う……魔法ですか。知ってると思うけど昔から使えないんだよ~。意地悪で言ってるでしょ?」

「ソウカ……」

「ショーグンの学級卒業してないのって私含めて三人だけになっちゃったもんね~。ショーグンと離れるのはちょっと寂しいケドやっぱり早く皆みたいに卒業したいな~」

「……」

「やっぱり何か魔法覚えないと駄目なのかな? でも魔法覚えなくて卒業したコもいたような? あ~あ、皆元気にしてるのかな~」

「……今日は訓練で疲れたダロウ。もう休みなサイ」

「は~い。って!? まだ17時だよ~?」



 相変わらず明るい声でプラムジャム将軍に話しかける少女ポシェット。

 経過は飛ばしたものの彼ら彼女らにどのように接して来たかがこの一幕だけでも分かる。そして当のポシェットはレベル12にもなって勇者の証である慈愛(バファリン)どころか魔法の一つも使えないようだ。


 成程。確かにプロジェクトレポートにもあったように魔物に教育を任せた意味は全くと言っていい程なかったようだな。

 勇者になるかならないかは本人の資質だから仕方がない。しかし実験用のモルモットとして連れて来ておいて情をかけているようでは管理する立場として失格だ。

 結果としてもっとも残酷な教育になっている事にこのブリキの将軍は気づいていないのだろうか? 

 いや二年前にようやく気付いたのか……だから悩んでいるという事か、ブリキなのに。


「ポシェットを含ム私ガ管轄してイタ残りの三名ハ勇者の適性無シとの烙印を押されタ。本来でアレバ私の権限でドウとでもできるのだが『エルグランディス計画』についテの最終決定権は魔王様にある。魔王様が駆除対象と言えばソノ命令ニ逆らう事はできなイ……」

「……そうですか」

「ソレに私の学級を無事卒業シテ行った皆はイズレは私と同じ魔王様を守ル戦士ニなるものダト信じていタ……」


 そして『エルグランディス計画』は最終フェーズへ移行された。


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