(番外編)新たな軍師
「それではエントリーナンバー1番ウィズィリア様お入り下さい」
サイ君がそうアナウンスすると会議室のドアがバンっと勢いよく開く。長テーブルに並んで座った俺達の前でタキシードに身を包んだ小柄な魔法少女がニヤリと笑う。
「ピクルスさん達、今までお勤めご苦労様でした。これからはゆっくりひまわりの種でも食べてくつろいでいて下さい」
高らかに宣言するウィズィの顔は自信に満ち溢れていた。
何故呪術軍のウィッチーズであるこいつがミックスベリー城まで来ているのか。それは城主であるミックスベリー将軍の会議でのとある一言から始まった。
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「次世代を担う軍師を育成しようと思うのだ」
『ビースト軍、秋の健康管理について』と銘打ちされ開かれた軍師会議でミックスベリー将軍はポツリと発言する。
「な、何故ですかぁ!? 私のオペレーション『プロテクション』がお気に召しませんでしたか!? い、いや、じ、実はこの案は、そ、そうピクルスです。ピクルスが発案した案を、か、滑舌が悪いからと私が代わりに申告しただけですぞぉ!」
滑舌悪く弁明するキツネ。俺が目の前にいるというのにいい度胸だな。
ちなみにこの『プロテクション』なる案はビースト軍全員の食事に毒物を盛り、耐性を得る事で丈夫な身体を作っていこう! というテロである。
「ほほ、キュービックよ。ミックスベリー将軍がそんな狭量なわけがないじゃろう。次世代軍師の件はな……わしが進言したんじゃ。もう歳も歳じゃ、そろそろ次の芽を育てるべきじゃと思ってのぅ」
そう言ってゴホゴホと少し咳き込むヤギ爺。
「スクエア殿!? ま、まさか」
ガタンと大きな音を立ててその場に立ち上がるキツネ。無理もない、俺も少し驚いている。ヤギ爺がこんな殊勝な事を言い出すなんて……意外だ。もしかして自分の死期を悟って……
「ほほ、次世代の軍師を育てる事でわしが軍師総長へと格上げされる。これぞ『新入社員大作戦』じゃ!」
「おぉ! それは素晴らしい策ですな! つまり私は軍師大総長になるという事ですな!」
いや、当分死にそうにないなこのヤギ。そして他の軍師を採用したら速攻でクビになる筆頭がお前ら二人だと思うのだが。
……だが、これは悪くない案だ。秋の健康管理の議題と全く関係ないとかは置いておいて、俺の手足として動く軍師の部下が出来るのは悪くない。
俺はワイワイと盛り上がる馬鹿二軍師をよそに、一考した後話を切り出す。
「いいんじゃないですか『新入社員大作戦』。賛成です」
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「私が軍師になったら皆さんが快適にお仕事が出来るように仕事環境から見直します!」
「なるほど。ウィズィリア様、何か具体的な案はあるのですか?」
「まずはこの古くなったミックスベリー城を私の魔法でぶっ壊します! そしてひまわりの種を植えます!」
「なるほど」
そして来たのがコイツである。
(いや、もっと他にいるだろ、シャーマとか! サイ君もなるほど、じゃねーよ!)
「ちなみに勇者への対策はどのように考えられているのですか?」
「ふっふっふ〜! それですよサイさん。そもそも『勇者』って呼び方はもう古いというか、時代にあってないんですよね〜。私が軍師になったあかつきには勇者の事は『主人公』と呼ぶ事をここに宣言します!」
(いや、その宣言は絶対にダメだろ!)
豪を煮やしてウィズィの話を遮ろうとした俺よりも一瞬早く隣に座っていたヤギが唾を飛ばしながら勢いよく長テーブル越しにウィズィに問い掛ける。
「はっはっはー! 娘ぇ! 色々と考えては来たようだなぁ! 偉い、偉いぞぉ! だが、所詮は口先だけの、勢いだけの策に過ぎん。実現させてこそ本物の軍師というものだぞぉ!」
勢いだけのキツネに言われてるぞウィズィ。だが確かにこのキツネ、実行力だけはあるからな。その策でどれだけの仲間が犠牲になった事か……。
「安心してくださいキュービックさん。そんな事を言われるんじゃないかと、ここに来る前に大規模魔法陣を展開しておきました。中心はこのミックスベリー城。後5分もあればチャージ完了! いつでもこの城を吹き飛ばせます!」
「ほぅ……(ニヤリ)」
「ほぅ……じゃねぇぇぇぇ! 何認め合った感じになってんだ! 絶対打つな絶対打つなよ!
誰かコイツをつまみ出せぇぇ! そしてエントリーナンバー2の人ぉぉ、早くコイツと代わってぇぇ!」
そして俺はまたもビースト軍最大の危機を救ったのであった。