(番外編)軍師たちのお年玉
「はははー! ついに勇者殲滅のとっておきの作戦ができたぞ! その名もオペレーション『おとし玉』だぁ!」
とっておきという言葉をとっておいたことがないキツネの声が会議室中に響き渡る。一体どこで日本の文化を耳にしているのかは謎だが、コイツが関わった曲解して捉えた文化は1日を待たずして滅びる。ある種の才能と言っても良い。
「ほほ、おとしだま、とな。わしも聞いたことがあるぞ。古い文献によるとその玉はスーパーボール、ハイパーボールなどいくつか種類があり中でもマスターボールとよばれるおとし玉は全てのモンスターを捕獲するという伝説の……」
……どうやらヤギ爺が読んだ古い文献は国民的ゲームの攻略本のようだ……
「はははー! 残念ながら違いますぞスクエア殿! このおとし玉、なんとお金を相手に渡す事を指しているのです! お金の力は万国共通! これを人間達に配る事で相手の懐に入り込む事が狙いなのですぞ!」
ほう。キツネにしては割とまともな策だな。感心した俺はつい口を挟む。
「なるほどな。つまり人間の……例えば国の要人に金を渡す事で懐柔し相手の情報を引き出すってことか。勇者の動向なんかは人間の方が詳しいだろうしな」
「はははー! 何を言っておるのだピクルス! まったく違うぞぉ!」
違うのかよ。じゃあなんなんだよ。
「はははー! 私からお金を貰った人間はどうなると思う? ん? どうなると思う?」
そんなことも分からないのかといわないばかりにナチュラルにマウントを取って来るキツネに苛立ちを募らせる横でヤギ爺が口を開く。
「ほほ、なるほどな。IDクジの一等の景品で手に入れる……か」
それはマスターボールの入手方法じゃねーか!
「どうやらピクルスもスクエア殿も考えが及ばないようですな。はっはー! まあ仕方ないぞぉ、この作戦は私が編み出した究極の策なのだからなぁ!」
勝ち誇ったようにニヤニヤが止まらないキツネ、くっそ腹立つな。
「御託はいいから早く言え、こっちだって忙しいんだからよ」
「はっはー! では教えてやろう人間達に私がお金を配る事で!!」
瞬間、キツネは頬を赤らめていつになく小さく呟く。
「……に、人間の、と、友達ができたらいいなと思うぞぉ……」
……こいつは金で、もっと言えば軍の金を使って相手に金を配り、見せ掛けの、偽りの、友情と呼べるか分からないようなものを手にしようとしていたのか。なんだコイツ
「ほほ、えーとマスターボールでの友達捕獲率は100%……と」
お前もかよ!? どんだけ人間の友達が欲しいだこいつ等!?
「スクエア殿!」
「キュービックよ……」
二人はがっしりと腕を交差して何かを確かめ合う。そして部屋を出るやいなや軍の運営資金が保管されている金庫へと颯爽と消えて行くのであった。