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 (番外編)ビーストハロウィン

「ビーストハロウィン?」


 ミックスベリー将軍の口から聞き慣れているような聞き慣れていないような単語が飛び出したのは冬越しに備え食料調達対策会議と銘打たれたいつもの大広間での会議中の事だった。


「うむ、秋の収穫祭の一環なのだがな。毎年この時期は冬越しの為の食料を大量に備蓄しておく必要があるのだ」


「はぁ、それはまあ分かりますが食料の備蓄とハロウィンに何の関係性があるのですか?」


 ハロウィンってあのハロウィンだよな? この世界にも仮装お祭り行事があるのは意外だったが何かとイベント好きなビースト軍からすればその祭りを行う事自体は不思議ではない。だが今は冬越しに向けての会議だぞ? まーたお得意の趣旨がブレブレ会議なのかよ。

 毎度のことながら開催意義の問われる会議内容に思わず溜息が漏れる。


「はっはっはーー! 相変わらず頭が悪いなピクルスよ! ビーストハロウィンの重要性をまるで理解していないではないか!」


 真向いに座るキツネが高笑いしながら勝ちほこった表情で俺を見てくる。うぜぇ……


「ほほ、キュービックよ。ピクルスはまだビーストハロウィンに参加したことがないのじゃ。あまり苛めるでない」


 ヤギ爺にフォローされるとそれはそれで釈然としないな。


「ちっ……で? そのビーストハロウィンってなんなんですか?」


「とりっくおあとりーとという魔法が使えるようになる不思議時間の事だぞぉ!」

「ほほ、何故か女の子にちやほやされる夢の祭典のことじゃ」


 言ってることバラバラじゃねーか!

 ……でもどうやらビーストハロウィンは俺が認識しているハロウィンと相違はなさそうだ。だが、だとすると尚更今回の会議で出す話題じゃないよな。


「秋の収穫祭における食料供給率の6割はこのビーストハロウィンによるものなんですよピクルス様」


 は……?

 隣に座っていたビースト軍の良心ともいえるサイ君の口から不穏な言葉が飛び出す。


「サイ君、今何て?」


「すいません、聞こえにくかったですかね。ビースト軍の秋の収穫祭は各地で作っている農作物の収穫とビーストハロウィンにおけるお菓子の収穫、この二つで構成されているのですがその比率は4:6。ですから冬越しの為にはここで頑張らないと、死、あるのみです」


 死、あるのみなのかよ!

 っていうか構成比おかしくね!? なんで軍の食糧の大半をハロウィンで貰えるお菓子に頼ってんだよ! もっと農作物の収穫頑張れやぁぁぁぁ!!


「はっはーー! ようやく理解したかピクルスよ。呑気者だなぁ貴様は」


「ほほ、自制しておった色欲を解放すべき時は今。ということじゃ」


 お前等こそ何も分かってないだろ、いい加減にしろ! 

 ……? ちょっと待てよ。食料を調達するためのイベントがビーストハロウィンなんだよな。ってことはビースト軍内部の行事ではなくもしかして……


「ふむ、それでそのビーストハロウィンなのだがな。実は先遣隊がすでに人間の町まで繰り出してトリックオアトリート中なのだが、思うように結果がでていないのだ。死傷者の数もすでに1000を超えており早急な対策が必要と……」


「すぐ撤退させろやぁぁぁぁ!!」


 俺は机を破壊する勢いで叩きながら声を荒げる。

 何やってんだよマジで! なんで自分達で勝手に戦力削って行くの? 馬鹿なの? いや馬鹿なのは知ってるんだけど程度ってもんがあるだろ、この頭パンプキン共が!


「何を言っておるのじゃピクルス。四足歩行でメェ~メェ~と言っておるだけで、可愛い!本物みたい! と女の子が自ら寄って来る夢舞台なんじゃぞ。退路などあるわけがないじゃろ」


 お前プライドとかないのかよ!


「そうだぞピクルス、我々が魔法使いになれるのはこのビーストハロウィンの期間だけ、それを逃せば齢30を超えた純潔戦士になるまで待たねばならんのだぞぉ?」


 なん……だと……まさか伝説は本当だったのか? それなら俺も後数年で魔法使いになれるのか!?

 いやいや、今はそんな事よりビースト軍の兵を回収する事が優先だ。こいつ等の話から察するに先遣隊の兵は町へ侵略ではなく物乞いに行っているに過ぎない。無抵抗で魔物が町をうろついてたらそりゃ恰好の的だ、被害が拡大しない内になんとかしなくては。


「……四獣王で兵を回収させましょう。あいつ等の武力なら町中で力が落ちても十分戦えるはず。多少の危険は伴いますが退路だけは開かせましょう」


「四獣王か。だがそれは無理じゃ。わしはちやほやされるので手一杯じゃからのぉ」


 てめぇは含んで言ってねぇんだよ色ボケヤギが。


「そうですね。今回四獣王の皆さんはビーストハロウィン不参加ですし」


「はぁ? なんでだよサイ君。ビースト軍の一大行事なんだろ?」


「はい。それはそうなんですが、あいにくトレスマリア様は冬眠の準備があるので動けず……」


 ウサギのくせに冬眠すんのかよあいつ!?


「ニュウナイス様は山へ芝刈りにベンガルト様は川へ洗濯に行っていますし……」


 ふ、ふざけんなぁぁぁぁ! なんでこのタイミングで日本昔話的な行動してんだよあいつ等ぁぁ!


「っ……それであればミックスベリー将軍、すぐにレモンバーム将軍に連絡を……」


 次の手を即座に考え早急に指示をしようとした俺だったが、その声を遮るかのようにミックスベリー将軍がゆっくりと口を開く。


「ふむ、魔法使いといえばそろそろ着くころかもしれぬな」


「着く? 何がですか?」


 俺は自分の言葉を一旦飲み込んで将軍に問う。


「うむ。実は秋の収穫祭に向けて人手が足りなかったものでな。レモンバームに声を掛けて人を借りたのだ」


「……! まさか、それって」


「ああ、ウィッチーズだ」


 よっしゃあぁぁぁぁ! ナイスだ将軍。人の姿に限りなく近い彼女達なら町への侵入は容易だろう。あとは上手く退路を先導してくれれば被害は最小限で済むかもしれない。丁度俺が頼もうとしていた事を……いいタイミングだ!

 俺は声を弾ませながらミックスベリー将軍に話しかける。


「それは心強い! で、到着予定はいつごろですかね? できればすぐにでも会議に参加して貰って今の現状を……」


「ふっふっふ~その必要はありませんよピクルスさん」


 会議室のドア越しから得意気な声が聞こえて来る。

 そしてギィィと軋んだ音を立てながらドアが開くとそこには壁にもたれ掛りながら両腕組み魔法帽を目深に被った少女が一人。


「話は全て聞かせてもらいました。ご安心くださいビースト軍団の皆さん、この私ウィチーズの至宝ウィズィちゃんが来たからにはもうこの件は解決したも同然です!」


 お、お前じゃねぇぇぇぇ! 

 よりにもよって一番いらねぇ奴来ちゃったよ。コックリはどうした? シャーマは? お前だと戦力にも癒しにもならないんだが。


「な、なんだ貴様ぁ! 室内で帽子を被っていると髪に良くないのだぞぉ!」


「あ、キュービック様は初めてでしたね。この方は呪術軍最高戦力であるウィッチーズの最年少魔術師ウィズィリア様です」


 サイ君がウィズィを席へと誘導しながら簡易な紹介をする。そうかこの馬鹿二人は初顔合わせだったか。ウィズィはとことこと席に向かいながら軽い口調でこちらに手を振る。


「お久ですサイさん。それに問題児のピクルスさんもご無沙汰でーす」


 ぐっ……そういえば俺もあの時以来か。少し借りを作ってしまっているようでバツが悪いものの、ここで弱みを見せてはならないと意にも介さぬ無関心な表情を装い淡々とウィズィに話しかける。


「まさかお前が派遣されてくるとはな。一人か? コックリ達は?」


「コックリ様達はお留守番です。私はつい先日レモンバーム様の大事にしていたお皿を割ってしまいそれを隠ぺいする為に城の中のお皿全てを割って回っていたところ運悪くレモンバーム様本人に見つかるという不運に合い、私は、今、ココニイル」


 うん、それはお留守番とは言わないな。ただお前が島流しにあっただけだ。


「それで、ドア越しに話は聞いていたという事でいいんだな」


「はい、そりゃもうバッチリですよ」


 自信満々に答えるウィズィ。確かに半分人間の血が入っているこいつには今回の任務は適任なのかもしれない、あくまで見た目という意味に絞っての話だが。


「はっはっはーーこのお嬢さんは大口が上手だぞぉ。今の会議の内容を外から聞いて理解していただとぉ? ……ふざけるなぁ! 名軍師たるこの私でも今日の会議内容は5分の1程しか把握できていないのだぞぉ!」


 お前は把握できてなさすぎるだろ。まあ俺も別の意味で今回の会議の意味が理解できてはいないが……


「私をそんじょそこらの美少女と一緒にしてもらっては困りますね!」


 美少女というワードを特に強調しつつ胸を張るウィズィ。


「ほほう、ならば言ってみるがいいぞぉ。今回の会議の内容、そしてその解をな!」


 龍虎相打つ的に仁王立ちで向かい合う二人。そして不敵な笑みを浮かべたまま帽子をクッと上にあげ口火を切るウィズィ。


「桃は……」


 桃は?


「桃はお菓子に入るのか……答えはYESです。理由は甘いから」


 何言ってんだこいつ、お前は何の話を聞いてたんだよ!

 唖然とする俺をよそにキツネは優しい微笑みを浮かべながらウィズィに話しかける。


「ふっ、貴様は大した娘だぞぉ。その真理に辿り着いた者はビースト軍でもそう多くはない。 ……さつまいも」


「NO」


「いちじく」


「YES」


「びわ」


「YES……と見せかけてNO」


 そこまで語りあったところで二人は互いに右手を差し出し堅い握手を交わす。彼等の中で確かな信頼が生まれた瞬間だった。

 キツネはくるりと将軍の方へと振り返ると天にも届くほどの声で高らかに宣言する。


「はっはっはー! ミックスベリー将軍! 我々の力が合わされば百人力ですぞぉ、今回のビーストハロウィン、見事お菓子を大量収穫してみせましょうぞ!」


「お~~頑張るぞぉ~~! で、ビーストハロウィンって何ですか?」

 

 何一つ話が進んでねぇ!


「ほほ、若さとは眩しいのぉ」


 その光景を見ながらヤギ爺は自分の乳房をキュッキュしながら遠い目をして呟く。

 どうやら来たるべき聖戦に備え完全なるヤギ化を目指し、自らの乳搾りの練習に余念がないらしい。


「さぁ、行くぞ! ビーストハロウィンだ!」


「「おぉーー!!」」


 ミックスベリー将軍の号令の元、会議室内の士気が最高潮を迎える。

 結局何の解決策も見えぬまま毎年恒例のビーストハロウィンは命懸けで幕を開けたのであった。


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