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天才軍師はフェレットでも構わない~ブラック企業勤務の俺でも無双できる世界~  作者: 赤城 マロ
魔王編

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118話:天才軍師はフェレット

 万を超えるミュゼルワールの魔物。前も後ろも空さえも、俺の視線の先には魔王城から召喚されたミュゼルワールの傀儡たちで溢れかえっていた。九蓮宝刀(チュウレンポウトウ)を抜いた俺だったが左腕を失った激痛から構える事すらできず、そのまま剣を杖がわりにして立っているのがやっとだった。


「こんな状況でまだ剣を抜くとは……ヒロイズムでも気取っているつもりか? 馬鹿馬鹿しい」


 大量の魔物に囲まれながらミュゼルワールが不服そうに声を掛けてくる。

 最後はしっかり自分の目で俺の最後を見届けたいのだろう。距離は少し離れているが、はっきりとその姿は視認できる。もっとも、もう俺に近づいて来ることはないだろうが……


「……馬鹿はお前だ、小悪党一人潰したくらいで英雄なんかになれるわけないだろ……」


 ふらつく足元、気を抜けばすぐにでも事切れてしまいそうな状況の中で精一杯の力を振り絞って悪態をつく。医学に精通しているわけではないが、素人目に見ても俺の左腕から噴き出ている血の量はもうすぐ完全に致死量を超えるだろう。


「本当に救いようのない奴だな貴様は。もういい、殺れ」


 ミュゼルワールの指示の元、周りの魔物が一斉に動き始める。本当に人形のように一糸乱れぬその動きは俺の知っている魔物たちとは大きく乖離していた。俺の良く知っている魔物たち……全然言った通りに動いてくれないし、平気で斜め下のアドリブをかましてかき乱すし、まるで緊張感がなくて普通に自爆するし、そもそも頭が悪いからそれだけで大変だし、本当にどうしようもない……でも憎めない馬鹿たち……

 そこまで思い出した所で今自分の置かれている状況を考えもせずつい笑みをこぼす。


 その通りだよミュゼルワール、俺は救いようのない奴だ。だが、そんな俺を救おうとしてくれる馬鹿たちがいる。だからこれは贖罪ではなくその気持ちに対しての恩返しだ。

 俺は杖がわりに地面に突き刺した九蓮宝刀(チュウレンポウトウ)の柄部分に額を乗せて強く念じる。するとそれに呼応するかのように剣の刀身から眩い銀色の輝きが放たれる。


「な、なんだこれは!?」


 突然の光に困惑するミュゼルワール。


「……本当の本当に最後の手段だよ」


 俺は小さく呟く。先ほど使った脳活性化(フルドライブ)で使い方を覚えたのは何も魔王だけではなかった。いや、脳活性化(フルドライブ)はきっかけにすぎない。白銀色の鉱物(ロンズデーミスリル)にこの使い方がある事は初めから分かっていたのだから。

 予想外の俺の行動にミュゼルワールは声を荒げる。


「貴様、何をしているのだ!」

「……魔王城で高みの見物を決め込んでたお前は知らないだろうよ。白銀色の鉱物(ロンズデーミスリル)は魔力を吸収する鉱物……でも、その吸収した魔力を暴発させる事もできるんだぜ?」

「なん、だと? まさか……!?」


 どこの書物にも載っていない、現場で死線をくぐり抜けて得た知識。そして九蓮宝刀(チュウレンポウトウ)に溜まっている魔力は、以前ロンズデードラゴンから放たれた洞窟を消し飛ばした魔力の咆哮の比ではない。


「大規模消火活動に巨大な猿魔獣、その他もろもろ……俺も遊んでたわけじゃない、この山を消し飛ばすくらい屁でもない魔力量さ……」

「させると思うのかぁぁ!! さっさとこいつを殺れぇぇ木偶どもがぁぁ!!」


 怒り狂ったミュゼルワールの怒声が響く。その号令の元、一斉に襲い掛かって来る魔物。俺は何一つ臆することなく静かに剣の柄を握りこむ。


「ミュゼルワール……馬鹿は伝染するんだよ。だからこの世界はきっとうまく行く。俺たちさえいなければな」

「ふざけるなぁぁぁぁ!! フェレットぉぉぉぉ!!」


 パキィィィン!

 魔力の解放に耐えられなくなった九蓮宝刀(チュウレンポウトウ)が甲高い音を立てて砕け散る。それと同時に暴発した膨大な魔力の奔流が辺り一帯を包み込む。銀色の魔力が弾けて山全体が白い空間に覆われる。円のように広がったその空間はすぐにその規模を収縮させて行き、外円に触れた魔物から次々とその白い世界の中に溶け込むように飲み込まれ消えて行く。そしてミュゼルワールもまた、目を見開き、信じられないという愕然とした表情をしながら白き闇の中に取り込まれて行く。


 やがて白い世界の中心にいた俺の視界から草も、木も、太陽すら見えなくなって行く。音さえも聞こえぬ一人ぼっちの空間……それは己の命の終わりを意味していた。


(多分これで良かったんだよな……)


 そんな時、キラリと光る九蓮宝刀(チュウレンポウトウ)の刀身の欠片が目に入る。そこにはすっかり見慣れた俺自身の姿が映り込んでいた。


 あぁ……そうだ。もしもまた生まれ変わる事ができたなら、フェレットを飼おう。

 俺が住んでいたアパートはあまり広くはないけれど、随分と愛着も湧いてしまったから仕方がない。会社が嫌いで、弱音ばかりで、面倒くさがりで、睡眠を何より愛するどうしようもない俺だけど、その姿を見れば少しは頑張れる気がするから……


 そして俺は白い光の中へと消えて行った――――




次回最終話です

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