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107話:プラムジャム

 昼もなく、夜もなく、ただひたすら走り続けてイーシオカ大陸の南へと向かう。

 向かう先は当然プラムジャム将軍の居るという森。正確にはポシェットが居る森というべきか。仲間も、武器も失った俺に残された最後の手段はポシェットの強制交友(フレンド)しかなかった。


(トレスマリアの情報だとアールグレイ城跡から北に行った森だと言っていたな……トレスマリア、か……あいつ等大丈夫かな)


 俺を助ける為にレモンバーム将軍に反旗を翻した3人の馬鹿な魔物の姿が目に浮かぶ。

 ちっ、本当にどうしようもない奴らだ。命まで取られないにしても今の地位を剥奪されるのは確実なのに、二つ返事で俺に協力しやがって。自分の害になる存在なら例え誰であっても切り捨てればいいのに……これじゃあずっと裏切りを続けた俺が小物みたいじゃねーか!


 胸に形容し難い感情がこみ上げる。

 ……とにかく今はミュゼルワールだ。あいつを仕留めさえすれば何とかなる。

 そう自分に言い聞かせながらほとんど休息を取る事も無く三日三晩走り続けた。



 ――――アールグレイ城北の森


「ショーグンお昼ご飯できたよ~」

「アア、すまないナ。ポシェット、すぐに行くヨ」


 ポシェットの明るイ声が森の中に響ク。今日はポシェットがお昼当番の日だったナ。お昼と言うにはあまりに遅い時間ダが、きっと頑張って作ったのだろウ。彼女はあまり料理が得意デはないからナ。しかし私はブリキの体。彼女たちには何度も言っているガ専用オイルさえあれば事足りル。逆ニ普通の食べ物、特に香辛料が入っているカレーなど食べた日には体に異常をきたすまでアルのだ。

 私は甘い匂イに誘われテ、ポシェットたちの待つ食卓へと足を運ブ。


「じゃじゃ~ん、今日のお昼ごはんはカレーだよ~」


 カレーだっタ。


「遅くなってごめんねショーグン。でも今日のカレーは自信あるんだ~」


 得意気ニ話すポシェット。指は絆創膏だらけでカレーとの死闘を物語っていタ。


「遅いよーポシェット! 今何時だと思ってるのさ?」

「……ポシェットは朝起きてから2食目がお昼ご飯という概念を捨てた方がいいの……」


 クレスタと巫女姫ガ待ちくたびれたように声ヲ出す。


「ごめんってば。今度は朝6時には起きて準備するから」

「それは早すぎだって! 別に私らそんなにグルメじゃないんだからテキトーでいいのに」

「……でもポシェットにしてはまあまあなの、一応カレーの色をしているの……」


 確かニ。今までポシェットが作ったカレーは緑色ヤ青色ヲしてイタが。今回のカレーは綺麗な赤ダ。イヤ、これは血の色より赤い真っ赤……まさにキングオブレッドだ。


「うーん、でもこれちょっと赤すぎない? ちょっと食べる勇気でないなー」

「だ、大丈夫だよ~!? せっかく作ったんだから一口だけでも食べてみてよ~」

「……じゃあ巫女姫はお米の部分だけを頂くとするの……」

「うん、私もそうするわ。お米はよく炊けてて美味しそー」


 逃げるように米へト走るクレスタと巫女姫。その様子を泣きそうナ顔で見つめるポシェット。


「頑張って作ったのに……」

「甘えは駄目だよポシェット。友達を殺してまで食べさせていい料理なんてないんだからね!」

「……ポシェットが作っているのは料理じゃないの、兵器なの……」


 遠慮なイ言葉をぶつける二人。



「べ、別に食べても死なないよ~!?」

「なら先生で試してみようよ」


 ナヌ!? 

 試す……ダト!? クレスタの口かラ耳を疑うような言葉が飛び出ス。


「……それがいいの、今までのポシェットのカレー兵器も先生が全部食べてくれていたの……」

「い、イヤ巫女姫。私は以前も言ったト思うが専用オイルがあれば生命活動に支障はきたさないのダ。も、モウ今日の分は飲んデしまってお腹がいっぱいなのダ」

「またまたー先生、そんな事いいながらいつも食べてくれてるじゃん」


 い、言えナイ……いつも食べたフリをして超古代文明の粋を集めた体内浄化機能ですべて喉を通る前に食材を原子分解していたなんテ……


「えっ、でもやっぱり悪いよ。ショーグンお腹いっぱいなんでしょ?」


 上目使いにこちらヲ申し訳なさそうニ見るポシェット。

 し、仕方ガない。またいつもの様に体内浄化機能デ……


 ……い、イヤ待て、待つんだプラムジャムよ。ソレで本当にいいのか? その場しのぎでこんな事を繰り返していても彼女の為になるというのカ!? 今まで私が卑怯な手を使っテ、ポシェットの料理から逃げていたカラこそ、彼女の料理の腕が上達しないのでハないのカ? 

 わ、私ハ何という過ちを犯していたのダ……教育者としてキチンと食しテ、その上で「マズイ」と言ってあげる事こそガ、本当の意味で彼女を思いやるという事ダ!!


「……スプーンを貸しなさイ」


 私はポシェットに右手を差し出ス。

 パアッと溢れんばかりの笑顔デ私にスプーンを渡すポシェット。


「おぉ、さっすが先生!」

「……なんだか先生が聖人のような顔をしているの……」


 スプーンでゆっくりと鍋の中からキングオブレッドをすくい取る。粘り気のあるルーがこれでモかというくらいスプーンにこびり付ク。


「ショーグン、美味しくなかったらちゃんと言ってね?」


 不安そうな顔でこちらヲ見つめるポシェット。当然ダ、私はお前の為にあえて鬼トなろう。

 意ヲ決してキングオブレッドのドロッとしたルーを口の中に入れル。


 ズガガガ――ン!!

 雷撃魔法をくらったような衝撃ガ口の中に広がり予想以上の威力に言葉を失ウ。


 か、辛イ! 辛すぎル! なんだコレは、純度100%の唐辛子じゃないカ!? ルーの要素が微塵もナイだと!?

 そして少し遅れて高レベルの炎熱魔法がごとく口と喉に灼熱のマグマが煮えたぎる。

 グ、グアアア……だ、駄目ダ、体を溶かすかのようナ熱。とても耐えきれん。た、体内浄化機能を発動しなくてワ……


 その時、祈るように私の顔を覗き込むポシェットの姿が目に映る。

 イヤ、駄目ダ! 耐えるんダ、私にハ彼女の為に真実を伝える義務があル。例えここで死んだトしても悔いはナイ!


 ボシュ―ボシュ―

 体内から熱ヲ逃がそうト頭から蒸気が噴射すル。


「ちょ、ちょっと先生大丈夫!?」

「……なんだか凄い事になっているの……」

「ショーグン、美味しくなかったら無理しなくていいから吐き出して!」


 私は心配をかけまいと両手デ蒸気の噴射口を押さえつけル。蒸気による冷却ができなくなった体ハ熱を帯び赤く染まっテ行く。

 ま、負けナイ。この子たちの未来の為に、こんな所で私ガ屈してたまるカァァァ!!


 ボシュゥゥゥゥン……


「しょ、ショーグン!?」


 固まったように動かなくなった私に心配そうに声ヲ掛けるポシェット。気ヲ失ってはならない。伝えるのダ、彼女に。


「ポシェット……」


 これは人が食べるモノではなイ。ましテやブリキに食べさせていい物ではナイ。世間に出回れば強力ナ毒として多くの命ヲ奪うだろウ。


「ど、どうだったかな。ショーグン」


 唇を震わせテこちらの反応ヲ待つポシェット。

 味でいうなら0点だ。いや、並ノ採点者なら味の採点前ニ事切れるだろウ。だが……


 料理とハ何か? 

 ただ生きる為に栄養を補給すルだけナラいくらでも方法はあル。もっと効率的に十分なバランスで栄養ヲ取る方法がナ。

 だが違うのダ。料理とは自分の時間を犠牲にシ、時には指に傷ヲ負ってでも、食する相手の笑顔ヲ思い勇気を持っテ食卓に並べル事……そういう意味でハ……


「100点ダ……ポシェット」


 ポシェットの顔から満面の笑みがこぼれる。


「ほ、本当に!?」

「……アア、美味しすぎて全機能ガ停止するかと思ったゾ」


 小さく「よしっ」とガッツポーズを見セるポシェット。

 これでイイ、これでイイのダ。 


「だ、だかラもうカレーは免許皆伝ダ。今度からハ別の料理ヲ……」

「聞いた聞いた~クレスタ~巫女姫~。ショーグンが美味しいって、100点だって~! これはもうカレー屋さんを開くしかないね!」


 私ノ次の言葉を聞く事なく飛ビ跳ねながら二人に報告する。


「へーあの点数に厳しい先生が100点か」

「……なら少し頂いてみるの……」


 クレスタと巫女姫がキングオブレッドへと手ヲ伸ばす。


「や、ヤメロォォォ!!」


 私は咄嗟に鍋の中にあったキングオブレッドを全テ口の中へと注ぎ込ム。

 ズガガガガガガ――――ン!!

 今までに受けタ事がない衝撃が全身ヲ駆け抜ける。回路がショートし、生命維持の危険域に入った私ハたまらずその場に倒レ込む……


「ちょっと、先生全部食べちゃったよ!」

「……先生食いしん坊なの……」

「も~嬉しいけど、二人にも食べて欲しかったな~」


 よ、良かっタ……今度かラ料理の当番制は廃止にしよウ……

 

 ガサッ……


 ン? 薄れゆク意識の中デ、草陰から物音が聞こえル。

 人、いや魔物カ。そのフォルムには確かに見覚えガあった……あれハ……


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