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天才軍師はフェレットでも構わない~ブラック企業勤務の俺でも無双できる世界~  作者: 赤城 マロ
魔王編

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101話:グラン峡谷

 グラン峡谷。

 王都カレンダ跡地の北東にあるイーシオカ大陸最大の谷。大昔からある人里離れたこの渓谷は全てを飲み込むような底の見えない深さとなっており、毎年何人もの人や魔物が転落死している。神が住む場所とも悪魔が生まれる場所とも言われており、できれば近づきたくない場所だ。

 そしてこの峡谷。先の戦争でチェーンソーの勇者バッサイザーの消息が途絶えた場所でもある。

 

 ウィズィと合流した俺たちは海を渡り、バッサイザ―の手がかりを探しにこのグラン峡谷までやって来ていた。

 

「ピクルスちゃん。何か見つかりまちたか?」

「う~ん。やっぱり暗くて良く見えないな。サイ君~! もうちょっと下まで灯り降ろせないかな~?」


 ニュウナイスを翼にして谷の中層まで来ていた俺は上を向いて大声を出す。その声の振動でロープに吊るされた灯火がゆらゆらと揺れる。


「すいませ~ん。もうこれ以上はロープの長さが足りませ~ん」

「そっかー。仕方ないな、ニュウナイス、一旦上がるぞ」

「了解でちゅ!」

 

 数日に渡ってこのグラン峡谷の調査を行っているが依然手がかりはない。そもそもバッサイザ―がこの峡谷に落ちたのなら探すという事自体無謀だ。こんな広範囲でしかも深い谷底、人一人を見つけるというのは無理がある。それにこの高さ、落ちていたなら生きてはいまい。


「ちっ、今日も収穫なしか。このままじゃ埒があかないな」


 地上まで上がって来た俺はその場で寝そべる。


「でも今日は惜しい感じがしたでちゅ。珍しい虫とかも見つけましたち。サイちゃんにも見せてあげたかったでちゅ」

「へぇ~そんなに珍しい虫だったんですか。それならここまで来た甲斐もあったってものですねピクルス様」


 趣旨変わってるぞ。成果みたいに言うな。

 だが正直なところ別にバッサイザ―など見つからなくてもいいのだ。これはあくまで渋々ながらも仕事をきちんとこなしているというアピール。ミュゼルワールに信用されていない以上建前は必要だからな。


「そういえばトレスマリアはどこに行ったでちゅか?」

「あぁ……彼女にはちょっと別の場所を探してもらっているんだよ……」


 そう、今はたっぷりと時間を稼ぎながらバッサイザーを探せばいい。トレスマリアが奴らの尻尾を掴むまでの間はな……

 俺は一人ほくそ笑む。


(だがあまり成果が無さすぎるのもよくない……さてどうするか)


「ピクルスさん、どうしました? 何かお困りごとですか?」


 ウィズィがひょいっと俺の顔を覗き込む。


(……腐ってもウィッチーズ。一応聞いてみるか)

「ウィズィ。お前、空を飛ぶ魔法とか使えないか?」

「え、空飛ぶ魔法ですか?」

「もし二人で手分けして谷を探せるならと思ってな……やっぱり無理か?」


 まあ空飛ぶ魔法なんてどんな文献にも載ってないしな。近しい魔法で瞬間帰還(サトガ・エリ)くらいだが、あれも自由自在に飛び回れるような魔法じゃないし。


「ピクルスさん……私を誰だと思っているんですか。呪術軍の誇る天才魔道士に不可能な事などありません」


 ウィズィが自分の杖に跨りながらそう呟く。どうやら彼女のよく分からないプライドを刺激したようだ。


「いやぁ、魔女が空も飛べないなんて笑っちゃいますもんね。ハエでさえ飛べるというのに……」


 いや、その比較はおかしい。


「おいおい、あまり無茶は……」

「止めないでください! 飛べない魔女はただの豚だぁ!」


 そこまで言ってないから。


「天翔る龍よ、魔道により空への道を開け。風を裂き、天を食い破り何人も侵入する事を許さぬ無空の彼方まで昇れ、地は我の物、天は我の物、唸れ! 黒水晶大爆発(クォーツビックバン)!」


 結局黒水晶大爆発(クォーツビックバン)じゃねーか!

 ウィズィの足元に強力な魔力球が放たれる。そして地面へぶつかった魔力衝撃の爆風で上空へと高々とぶっ飛ばされ、幼きウィッチーズの少女はイーシオカ大陸の星となった。

(今星になられても困るんだけどなぁ……)


 ドグチャ……

 数十秒後、超上空から鈍い音とともに地面に叩きつけられるウィズィ。


「おーい、生きてるか?」


 血だらけになりながらドヤ顔でこちらに向けて親指を突き立てる。


「……ふふふ、どうですピクルスさん。これがウィッチーズの実力、そしてこれが大空を自由に飛び回る超魔法、その名も不死鳥跳躍(フェニックスジャンプ)!」


 跳躍(ジャンプ)言うとるがな。

 満足そうな笑顔を浮かべ、そのまま気絶するウィズィ。


(やっぱりこいつは放っておこう)


 そういえばバッサイザーの奴はチェーンソーを纏って空を飛び回っていたな。便利そうだったけどあれも魔王の力の一部か。初撃のレーザー砲や時間を止める効果なんかもあったし……やはり魔王の力が完全にミュゼルワールの物になったらいよいよ打つ手がなくなるな。急がないと……


「よし、サイ君、ニュウナイス。日が暮れる前にもう一回だけ降りるぞ」

「あ、はい。でもウィズィリア様が失神されてますが……」

「ウィズィちゃん放っておけないでちゅ! 手当してあげないと」

「大丈夫大丈夫。ウィズィには超回復魔法、おまじないがあるから」


 そもそもウィズィは捜索の役にまったく立っていないしな。


「おまじない? でちゅか」

「そうそう、だから大丈夫。ほら行くぞ」

「それどんな魔法でちゅか!? 知りたいでちゅ!」


 妙な所に食いついて来るニュウナイス。


「いや、痛いの痛いの飛んで行け~とか、そんなのだよ」

「ふわ~凄いでちゅ! 流石ウィッチーズでちゅ! そんな魔法もあるんでちゅね」

「その通り! 私だけが使える奇跡の魔法なんですよ!」


 得意気に口元に手をやって、いつの間にかニュウナイスの横に陣取るウィズィ。

 ……もう回復したのかよ、馬鹿は頑丈だな。


「凄いでちゅウィズィちゃん! 僕にもなにかおまじないを教えて欲しいでちゅ!」

「う~ん、そうですねぇ~。あ、そうだ! 初心者でもできるお勧めの超おまじないがありますよ」

「本当でちゅか!? 教えて欲しいでちゅ!」

「流れる星に向かって三回お願い事をするとその願いが叶うという超おまじない、いえ超魔法です!」


 なんてお手軽な超魔法だ。


「す、凄い! 凄すぎまちゅ!」

「でもそれだと夜まで待たないといけないですねー」


 サイ君の何気ない一言にウィズィの顔つきが変わる。


「ふふ……サイさん。私を誰だと思っているんですか? 呪術軍の誇る天才魔道士が星を作るのに昼も夜も関係ありませんよ」


 どうやらまたもや彼女のよく分からないプライドを刺激したようだ。


「ふっ、私自身が星となり願いを叶える神となりましょう! ……天翔る龍よ、魔道により空への道を開け……」

黒水晶大爆発(クォーツビックバン)はやめろぉぉ!」


 詠唱するウィズィの腕をガッシリ掴む。


「やだなぁ~ピクルスさん。不死鳥跳躍(フェニックスジャンプ)ですよぉ」


 どっちでもいいからやめろ。危ないだろ。

 はぁ~コックリがいないと大変だな。でも今回は連れてくるわけには行かなかったし……多少の騒ぎは諦めるか……


 ……ジャリ

 その時後方の岩陰から物音が聞こえる


「っ!? 誰だ?」


 俺は腰の九蓮宝刀(チュウレンポウトウ)に手をやる。

 ちっ! さっきの黒水晶大爆発(クォーツビックバン)の爆音でこちらに気付かれたのか?


「魔物……と、女の子?」

(ん……?)


 岩陰から出て来たのは可愛らしい黒髪の修道女だった。


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