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99話:ミュゼルワール

 魔王の正体とミュゼルワールの目的。

 その両方を知った俺はミュゼルワールに連れられ魔王城の地下へと向かっていた。薄暗く長い階段は、じめじめとしており今の気分と相まって不快指数はMAXだった。


「おい、一体どこまで下るんだ?」

「一体どこまで下るんですか? だろ。口の聞き方に気をつけろ、さあもう一度言ってみようか」

「っ! ……一体どこまで下るんですか?」

「はい、良く出来ました。礼儀は大事だよピクルス軍師。少しでも対等ぶりたいという気持ちは分かる、でもそんな小さなプライドは早く捨てた方が楽だよ」


 くそ! 本当にムカつく奴だ。言葉づかいで優位性を誇示しようとしているのはてめぇだろ。

 魔王の正体には驚いたがミュゼルワールの目的自体は想像の範疇だった。誤算だったのはこいつの戦闘能力。正直、力の弱いダークエルフだと高を括っていた。

 装備品にしてもそうだ、俺はどんな装備品でも扱う事ができたし聖水結界の影響も受けなかった。同じ異世界人のミュゼルワールにも同様の可能性がある事くらい少し考えれば分かったはずなのに……魔物が持つ超越技能(イレギュラースキル)と同質の物だと勝手に思い込んでいた俺のミスだ。


 しかし悔いている時間はない。暗殺に失敗はしたが幸いな事にミュゼルワールは俺を殺さなかった。つまり俺に利用価値があると考えているという事だ。

 それならまだチャンスはある。取りあえず従ったフリをしておいて寝首をかいてやる。


(とはいえ、俺が単独で勝つのは難しいな……できれば勇者を上手くコイツにぶつけて……)


 その時、ミュゼルワールがピタリとその歩みを止める。どうやら階段を下りきったようで、俺たちの目の前には赤い扉があった。


「さあ、着いたよ。実は君に見せたいものがあるんだ」

「……見せたいもの?」


 そう言ってゆっくりと扉を開ける。


「これは!?」


 扉の先はバルコニーのような作りになっていた。薄暗がりの中、手すりのある所まで誘導され歩いて行くと、下は奥が見えない程の広大な広場になっていた。そしてそこには不気味に光る無数の光……


(げっ!?)


 光の正体は魔物の目。眼下には地面が見えない程の大量の魔物で埋め尽くされていた。

 しかも通常の魔物と違い、騒ぐでも、叫ぶでもなく、まるで感情を持ち合わせていないかのように列をなして静かに座っている。


(数千……いや数万はいるのか!? しかもあの天井に吊るされているでかい水晶って……)


「そう琺魔水晶さ」


 俺の視線を読み取ったのか、ミュゼルワールがその水晶の名を口にする。


 ……やっぱりそうか、どうりで下にウヨウヨいる魔物たちは呪術軍の魔法生物とよく似ているわけだ。それにしてもでかい琺魔水晶だな、レモンバーム城で見た十倍はあるぞ。


「結局、呪術軍と同じように自分の魔力を使って魔物を生成しているって事か」


 まあ魔王があんな状態なら仕方ないのか。しかしこれだけの数を一人で生成したのか? どんな魔力量だよ。


「それは違うなピクルス軍師。そんな肉体労働を私がするわけないだろう?」

「え……? でもこの魔物は……」

「そう、琺魔水晶で生み出された魔物さ。ただし私の魔力ではないがね」


 薄笑いを浮かべて下を指さすミュゼルワール。

 指した方向には何か山のようなものが見える……って、あれは……!?


「人……!?」


 そう、人だった。ゴミのように捨てられた人の山。白骨化しているものも数多くあったが山の上の方にはまだ腐敗がはじまっていない原型を留めた死体も転がっている。

 そして死体には何か管のような物が刺されたままになっていた。


「琺魔水晶を扱えるのは呪術軍の一部の者だけ。だがそれは『魔王軍の中では』なんだよ。レベルの上がった人間の魔法使いなら十分にその力を使う事ができる。ならば攫って来てその魔力が出涸らしになるまで使い潰せばいい。私は合理主義者なんだよ」


 あの管のような物を通じて魔力を奪っているって事か……悪趣味な。 

 腐臭のする中で、俺はせめてもの反抗とミュゼルワールを睨む。


「なんだいその目は? 私と同じ立場なら君もコレと同じ事を考え付いたはずだよ。そして同じように実行したはずだ。この後に及んでまだいい人ぶるつもりならやめろ」


 いい人ぶる? 違うな。俺がお前を睨んだのは自分を合理主義者などと言ったからだ。真に合理主義者の俺がお前の立場ならこの絶対安全な魔王城で魔物に食事だけ運ばせて、ずーっと寝て過ごすわ!

 ……それにしてもあの死体の山、おかしいぞ?


「別にそんなつもりはない……しかし攫うと言っても限度があるんじゃ? 高レベルの魔法使いは大体名高い勇者についているし……」

「よく、研究しているな」

「……死体の数が合わない。こんなに高レベルの魔法使いがいるはずがない」

「ふふ、その通り。半分以上は自前さ」


 自前?


「エルグランディス計画……君も知っているだろ? 勇者育成プロジェクトと銘打ったあれの応用さ」


 応用……か、なるほどな。


「魔法使い育成プロジェクト……って事か」

「本当に話が早くて助かるよ。あれは元々この世界の人間たちの精神コントロールが可能であるかの確認と、レベルアップの概念を把握する為の計画だからね。当然イレギュラー因子は出ないよう十分配慮して育成をしているよ。まあ術者以外は魔力の供給源として使い捨てるだけの燃料みたいなものだが」


 全てを見通しているかのようなミュゼルワールの物言いに虫唾が走る。

 確かにあの計画にはそういう側面もあるのだろう、だがあの計画自体は間違いなく失敗のはずだ。こいつはプロジェクトレポートで異能の手駒を作りたがっていた。しかし結果としてその異能に目覚めたのは処分対象の勇者もどきで、しかもそのもどきにエルグランディスたちを統率されてしまったんだからな。


 その失敗をまるで計画の範囲内という口ぶりで語るこいつはやはりプライドが高い。俺の事を言えないくらい小さなプライドがな。


「……しかしいくら魔王城が安全だと言ってもこんな地下に魔物を置いておくより、非常時に備えて各所に配置しておくべきでは?」


 俺の質問を待っていたかのように、口元を緩めて語るミュゼルワール。


「この広場の地面には巨大な魔方陣を敷いてあるのだよ。魔王城に入って来た時と同じ類の魔方陣だ。その気になればいつでもこの大量の軍勢を地上に放つ事ができる。もっとも魔方陣が描かれている場所でないと無理だが。そうだな……」


 そしてわざとらしくポンッと手を叩く。


「そうそう、例えばミックスベリー城の近くとかかな。魔物が足りなくなったら遠慮なく言ってくれ。すぐにでも手配しよう」


 ぐっ、こいつ! なんでこんな場所まで連れて来るのかと思っていたがそう言う事かよ。逃げ場などない、逆らうだけ無駄、そう言いたいわけだ。

 やり場のない苛立ちに強く唇を噛む。


「ここで作った魔物は自我など持たない、ただ指示通りに動くそれなりの駒だ。だが私が魔王の力さえ手に入れればこの魔物たちの力も必要なくなる。当然、君が頭の悪い魔物たちに悩まされる事もなくなるわけだ。素晴らしい事だと思わないか?」

「……それは、まあ……良い事かもな」

「くはは、随分と苦労しているようだからなピクルス軍師は」

(うるせぇ)

「念を押しておくがくれぐれも先の戦争のような勝手な行動は慎んでくれよ。君のせいで私の計画に狂いが生じてしまうからね。それに軍師が自ら戦地に赴いて戦うなんて、指揮能力が低いと言っているようなものだよ」


 見下したように笑うミュゼルワール。

 本当にイライラさせる奴だ。こいつと歩む未来なんて考えただけで吐き気がする。そもそも従ったからと言って俺の安全が保障されているわけでもない。


(やはり殺すしかないな……)


 状況は最悪……だが打つ手がないわけではない。俺にはこいつを倒し得る勇者に心当たりがある。

 殺る決意を固めた俺は拳にグッと力を入れる。

 ミュゼルワール、いい気になっていられるのも今の内だ。せいぜい吠えてろ。


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