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 (番外編)四獣王最強決定戦

 年に一度開催されるというビースト軍の一大イベント。

 その名も四獣王最強決定戦。


 ビースト軍の秘密兵器である四獣王が己の知力と体力を駆使して覇を競うという、文字通り四獣王ナンバー1を決める大会なのだ。

 ミックスベリー城地下に設けられた特設会場には満員の観客がつめかけており、期待に胸躍らせながら四獣王たちの登場を今か今かと待っていた。


「サイ君、俺忙しいんだけど。これ見なきゃ駄目なの?」

「何言ってるんですか、当然ですよピクルス様。この特等席のチケットを取る為に何日並んだと思っているんですか?」

(金取ってるんだ……これ)


 サイ君に言われるがまま観戦に来た俺だったが正直あまり関心がない。ボーッと椅子に肩肘をつきながら特設会場中央に設けられた、四角形の窪地になった闘技場を眺める。

 四隅にはそれぞれ東西南北と書かれた入場口があり、どうやら選手である四獣王はここから登場するようだ。トーナメント式なのかバトルロイヤルなのかは知らないが、どうせこの四人なら優勝はトレスマリアかニュウナイスに決まっている。どっちが勝ってもいいがこんな大会で怪我だけはしてくれるなよ。

 その時パッと会場の明かりが消えて中央の闘技場がライトアップされる。そこにはタキシードを着たキュービックが立っていた。


「はははー! レディースアーンドジェントルメン! 大変長らくお待たせしたぞぉ! これより第51回、四獣王最強決定戦のスタートだぁ!!」


 実況はキツネなのか……


「ここから先は一時も目が離せないぞぉ。皆ぁ、トイレは済ませたかぁ!」


 キュービックのマイクパフォーマンスで会場は一気にヒートアップする。「いぇーい」という観客からの返答に満足そうに頷くキュービック。


「皆ぁ! トイレは済ませたかぁ!」


 気を良くしたのか、もう一度拳を突き上げて同じ言葉を投げかける。先ほどよりも更に大きな声で「いぇーい」と返事をする観客。


「皆ぁ! 本当に済ませたかぁ!?」

(しつけぇぇぇぇ! 何回確認してんだ!? どんだけ心配なんだよ!)


 しかし凄い熱気だな、まるでお祭り騒ぎだ。

 よく見ると闘技場には特定の選手を応援する横断幕なんかも広げられており、会場の盛り上げに一役買っている。


『雄叫びをあげろ! キュービック!』

『正確無比・沈着冷静・キュービック』

『目指せ頂点への実況。軍師キュービック』


 って、実況の横断幕ばっかりじゃねーか! 

 お前等何を応援してんだ!?


「はははー! それでは早速選手の入場だぞぉ!」


 会場のライトが東の入場口を照らす。


「さぁ! まず東門から登場して来たのは、ビースト軍きってのシマシマ、その色鮮やかなシマシマのコントラストは夜道でも安心。若手のホープ、シマシマ白虎のベンガルトだぁ!」


 シマシマしか頭に入ってこねぇよ! 

 もっとマシな紹介の仕方はなかったのか? それに白虎なら方位的に西門から登場しろや!


「さぁ、ベンガルト。今回最年少での参戦となるわけだが、意気込みのほどを語るといいぞぉ」

「そうですね、やるからには年齢は関係ないので勝つつもりです。本当は勝利をコミットしたいところなのですが強い相手ばかりですからね。一番重要なのは今回の戦いを通して自分の在り方をリマインドできれば十分だと考えていますよ」

「ははー! 何を言っているのかさっぱり分からんぞぉ!」


 それは同感だ。


「続いての登場は四獣王の紅一点、玄武トレスマリアが南門から登場だぁ!」


 だから玄武なら北門から登場しろって……


「去年の最優秀耳長賞、ミス四獣王グランプリ、ぴょん流行語大賞、の三冠に輝いたその実力を今年も見せるのかぁ!?」


 全部トレスマリアの為にある賞じゃねーか!

 手を振りながら歓声に応えるトレスマリアにキュービックがマイクを向ける。


「トレスマリア、今回の戦いに向けての意気込みをお願いしたいぞぉ」

「……突然ですが、私好きな人がいます」


 本当に突然の告白に会場がざわつく。

(おいおい、勘弁してくれ)


「その人は、今日会場に……私の為に来てくれています。名前は迷惑になってはいけないので控えますが、イニシャルだけ……その人はピクル○君と言います」


 お前イニシャルの意味分かってるか?


「ピクル○君……もし私がこの大会に優勝できたら……わ、私とぴょんぴょんして下さい!」

「おぉっと! 玄武トレスマリアのまさかのぴょんぴょん宣言だぁ! この会場のどこかにいるピクル○君とやら。この幸せ者がぁ、羨ましいぞぉ!」


 会場から沸きあがるトレスマリアコール。


「いやぁ、凄い展開になって来ましたねぇピクルス様。それにしてもトレスマリア様の好きなピクル○君って誰なんでしょうね?」

「……さぁ」


 サイ君の問いに苦虫を噛み潰したような顔で答える俺。

 これはニュウナイスに死ぬ気で頑張って貰わないと困るな……


 会場の興奮がおさまらない中、今度は西門がライトアップされる。


「そして……おおっとこれは! 西門から朱雀ニュウナイスと青龍スクエア殿が仲良く手を繋いで登場だぁ!!」


 北門は使わねーのかよ!

 歓声に応えながら握った手を高々とあげて入場してくる二人に狂喜乱舞する観客。


「優勝候補と呼ばれる両名、仲良く手を繋いではいるがその心中はいかに!?」


 なに? ヤギ爺が優勝候補?


「では、まずニュウナイスから一言お願いしたいぞぉ」

「そうでちゅねぇ~スクエアお爺ちゃんの51連覇を阻止する為に精一杯頑張りまちゅ」


 ヤギ爺が50連覇してんの!? って事は全部優勝してる圧倒的王者じゃねーか。冗談だろ!?


「ははー! ニュウナイス、良い意気込みだぞぉ。こいつめこいつめぇ」

「や、やめて欲しいでちゅ。くすぐったいでちゅ」

「ははー、こいつめこいつめぇ」

「くちゅ、くちゅぐったいでちゅぅ」


 なにじゃれ合ってんだよ!? 舞台裏でやれや!


「さぁ! それでは最多出場にして最多優勝、四獣王最強の名を欲しいままにして来たスクエア殿……いや、青龍スクエア! 一言お願いできますかな?」

「ほほ、わしももう歳じゃ。最強の看板を背負うのはちと重たくてのぉ。そろそろ降ろしたいもんじゃ……」


 そう言って腰をトントンと叩きながらヤギ爺はキュービックからマイクを奪い取る。そして四獣王の三人に向かってキメ顔で言い放つ。


「わしの連覇、止められるものなら止めてみよ!」


 オォォォォ!! ヤギ爺の挑発に最高潮に上がる会場のボルテージ。

(なんなんだ、このヤギ爺から発する強者のオーラは!? まさか本当は滅茶苦茶強いのか!?)


「はははー! さぁ舞台は整ったぞぉ! 四人の強者たちよぉ、その力を惜しみなく見せてくれ、最高の戦いを期待しているぞぉ!!」


 四獣王! 四獣王! 四獣王!

 四獣王コールが会場からこだまする。あまり興味がなかった俺だが熱に引っ張られてついつい身を乗り出す。


「ん? サイ君、そう言えば四人とも出て来たって事は結局バトルロイヤル形式なの?」

「四獣王最強決定戦はポイント制ですよ」

「ポイント制?」

「知力と体力を使ったいくつかの競技を行ってその総合得点で優勝者を決めるんですよ」


 ふ~ん。単純な戦闘能力で競うわけじゃないのか。それならヤギ爺が歴代優勝者なのも納得……うん、できないな。


「それでは早速第一の競技スタートだぁ!」


 キュービックがマイクを華麗に回しながら場を盛り上げる。戦いを前にして四獣王の面々の顔つきは真剣そのものだ。


「今回の第一競技は……『お裁縫』だぁ!! より早くより美しくお花の模様を刺繍した者に100ポイントだぞぉ!」


 第一競技の発表に沸く会場。

 ……って、いきなり知力も体力も関係ない競技じゃねーか!


 手慣れた様子でお裁縫に取り掛かる四獣王たち。そしてそれを邪魔しないようにシーンと静まり返る会場。チクチクと裁縫するビースト軍の秘密兵器とそれを黙って見守る魔物たち……実にシュールな絵だ。


「痛っ! ふーむ、最近老眼が酷くなってきたせいか上手く縫えんのぉ」

「あ、スクエアお爺ちゃん。そこ難しいから僕がやってあげるでちゅ」

「おぉ、そうか。すまんのぉニュウナイス。ついでにそこと、後そこもやっておいてくれんかのぉ?」

「いいでちゅよ。スクエアお爺ちゃんは医務室で絆創膏を貼ってきたらいいでちゅよ」


(おいぃぃ! ニュウナイス! なんで対戦相手の手伝いしてるんだよ! お前はそれじゃなくても羽で刺繍してるんだから他の奴より不利なんだからな!)


 カンカンカン!

 会場から第一競技終了の鐘の音が鳴る。


「ははー! 第一競技終了だぁ。一位は薔薇の模様を見事に再現したベンガルト! 100ポイントゲットだぞぉ」


 あの短時間でか!? ベンガルトが無駄に凄ぇ!

 ちなみに2位はトレスマリア、3位はヤギ爺、4位はニュウナイスだった。

 ……3位のヤギ爺は医務室に行ってただけだけどな。


「続いて第二競技だぁ! 第二競技は……『お料理対決』だぁ!」


 これ花嫁決める大会じゃないよね?



 その後も魔物としての知力や体力を試される事無く淡々と競技は進んでいった……そして……


「さぁ! 四獣王最強を決める為の競技もいよいよ次でラストだぞぉ! その前にここまでの得点をおさらいだぁ」


 1位 白虎ベンガルト  600P

 2位 玄武トレスマリア 240P

 3位 朱雀ニュウナイス 200P

 4位 青龍スクエア   100P


 ヤギ爺全然駄目じゃねーか!

 次で最後の競技だし、ついに連覇が途切れるのか? そもそも50連覇した力の片鱗を一度も見る事がなかったんだが? それともここから逆転する必勝の策でもあるというのか?

 俺はチラリとヤギ爺を見る。


「わ、わしが最下位じゃと!? ば、馬鹿な……そんな馬鹿な」


 めっちゃ動揺してる!

 まぁ、ここから逆転は物理的に無理、というかベンガルトが優勝で決まりだろ。はぁ~トレスマリアじゃなくて良かった。


「ではいよいよ最後の競技の発表だぞぉ。最後の競技は……『お誕生日』」


 は?


「今日お誕生を迎えた者に1000000ポイント進呈だぁ!」


 はぁ?


「な、なんと……今日、誕生日って。わ、わしじゃ……わしじゃあーー!!」


 両手を天に突き上げるヤギ爺。


「ははー! なんという結末だぁ! 最後の最後で青龍スクエアの大逆転。前人未到の51連覇達成だぁ!」

「き、奇跡じゃ! 奇跡じゃあ!」


 え……なにこの茶番?

 沸き起こるスクエアコール。そしてそのまま会場が暗くなり手拍子と共にバースデーソングの大合唱が始まる。


「お誕生日おめでとうでちゅ、スクエアお爺ちゃん」

「スクエア大先輩、いつまでも僕たちの目標でいてください」

「私たちが祝ってあげてるんだから長生きしないと駄目なんだからね!」


 口々に祝福の言葉を述べる四獣王。そして用意された花束を涙ぐみながら受け取るヤギ爺。


「ほほ、まだまだ若いもんには負けられんわい……皆ぁ、今夜はパーティーじゃ!」


 大喝采の会場に今夜の主役の声が響き渡る。



 って言うかコレただのお誕生会じゃねーか!!



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