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97話:お喋り魔王

 魔王の正体に思わず声を出してツッコミを入れてしまった。

 まずい……多分この世界にはチェーンソーという呼び方は存在しない、前回の戦争でチェーンソーの勇者とか言っていたのは俺だけで、それが何を指しているのか魔物たちは最初分かっていなかったからな。


「えー、えっと……そう! チェーンソー、チェーンソーというらしいですねこの武器は、前回の戦争で誰かが言っていました」


 苦しい言い訳をする俺を見ながらミュゼルワールは薄ら笑いを浮かべている、本当に気に食わない奴だ。俺の正体は十中八九バレている。だがそれでもこいつの真意が分からない以上、滑稽であったとしてもまだ惚けておくべきだ。


「そうですか、ではそういう事にしておきましょう」

(ぐっ……)

「そ、そんな事よりこれが魔王様、ですか? 失礼ですが先の戦争で勇者が持っていた武器に良く似ているのですが……? もしかしてそういう種族なのですか?」

「いえ、魔王様は唯一無二のお方。同族など存在しませんよ」


 ってことは……


「そう、貴方は以前に戦っているのですよ魔王様と」


 そういう事になるよな。だが何故だ? ほとんど姿を見せないという魔王を魔物たちが認識できなかったのは仕方がないとしても、何故魔王が敵であるはずの勇者側についていたんだ?

 もしかして魔王って実はただの武器で、勝手に魔物たちが崇めていたとか? 有り得るな……


「ピクルス軍師。そう難しい顔をしなくても、魔王様と話せばすぐに貴方の疑問は解けますよ」


 え、このチェーンソーって話せるの?

 まるで俺の考えを見透かしたようにミュゼルワールはチェーンソーの元へと近づいて行く。そして取っ手部分で何かをゴソゴソと操作すると、ピーっと機械音が鳴る。


 セーフティモード起動します――


「う……ん。なんやもう朝か?」


 エンジン部分がブォンブォンと唸り機械音を発する。

 うぉ、喋った!


「おはようございます魔王様」

「なんや、黒エルフのお兄やんか。しつこい奴やな。わしは崇高なるチェーンソーや言うてるやろ」


 エセ関西弁で怒ったような音を出すチェーンソー。

 しかもこれって……


「ん? そこにおる毛深いお兄やんは誰や?」

「あ、お初にお目にかかります魔王様。私はミックスベリー将軍に仕える軍師ピクルスと申します」

「そんなにかしこまらんでもええ。もっとフランクに話そうや。で、わしに何か用事か?」

「は、はい。実は先の戦争でイーシオカ大陸の魔物が激減しており早急に補充を行いたくお願いに上がりました」


 まあ魔物の数が激減しているのはお前が戦争で大量に虐殺したせいなんだけどな。


「さよか、つまりわしに教えを乞いたいと、そういうわけやな?」

「は、はぁ……? まあ、そう言う事になりますかね」

「よっしゃ、分かったで! 人類の繁栄の為にわしの恋愛テクを余すことなく教えたる!」


 何故そうなる!? チェーンソーの恋愛テクなんて糞の役に立たないと思うのだが……そんな事より魔力で魔物を生成してくれ!


「遠慮せんでもええ! わしはセーフティモード中の暇つぶしお喋り機能や、時間の許す限り伝授したるでぇ」


 暇つぶしお喋り機能ってなんだよ、舐めてんのか?


「ええか? まず基本は同調や。相手の話をまずは聞くという姿勢が大事やで。男はすぐに答えを出したがるからな。女性は男が思っているよりずっと賢い生き物や、本当は答えなんて自分の中で持っとる。男はそれをしっかり聞いてやって必要な時に少し手を差し伸べてやればええんや」


 チェーンソーのくせに割とまともな事言っている!?


「男同士の友情もそやで? どんなに親しくなっても相手を敬う心を忘れたらいかん。人と人との繋がりいうもんは複雑なようで単純なんや。思いやりの気持ちを互いに持つことができれば性別も種族も関係あらへん、世界はラブ&ピースなんやで」


 おいおい、魔王がラブ&ピースとか言うな。そんな理想論が聞きたいわけじゃねーんだよ。


「そ、そうですね。魔王様の言う事はごもっともだと思います。しかし今は一刻を争う事態でして、できれば魔王様の魔力を持って魔物の数を増やしていただければと……」

「分かる、分かるでピクルス君! 君は仕事に真面目なんやな。良い! 良い事や! 真面目は大事や!」

「あ……どうも」

「わしはただの殺戮マシーンやから偉そうな事は言えん。過ちも何度も繰り返して来た身や。ただな、一つだけチェーンソーの戯言だと思って聞いてほしいんや」

「はぁ……」

「なんでも自分で背負いこむ必要はないんやで……しんどい時には人を頼ったらええ、頼ったらええんや」


 だから今お前を頼ってんじゃねーか! なんだこの糞チェーンソーは!!



 ピー……セーフティモード解除されました。


「あ……」


 俺と魔王のやりとりを黙って聞いていたミュゼルワールが静かにチェーンソーの電源を切る。


「どうでしたか? 魔王様の事お分かり頂けましたか?」


 分かるか! と、言いたいところだが、今の話で色々と推測はできた。まず魔王は話好きでウザい。そして……


「魔王様は自分が魔王である事を認識していない……」

「ご名答、流石はピクルス軍師。話が早い」


 やっぱりな……しかしなんでだ?


「今のは魔王様自身も言われていた通り、暇つぶしお喋り機能です」


 だから何なんだよそれは?


「自分の事を殺戮マシーンチェーンソーとしか認識していない魔王様ですが、この機能にのみ自我が少しだけ残っているのですよ。当然自分が魔王であった事も覚えてはいませんし、教えてあげても思い出す事はありませんが」


 確かに普通に魔王様って言ってもスルーされてたな。


「何故そんな事に? まさか記憶喪失とかですか?」

「そうですね、記憶喪失と言えばそうなのですが……」


 ふぅ……とミュゼルワールは一息溜息をつく。そしてあの冷たい声で話始める。


「魔王と呼ばれるこの鉄クズ、元はこの姿ではなかったらしい」


 ゾッ……

 ミュゼルワールは魔王たるチェーンソーを見下ろしながら話を続ける。


「きっと理解できないと思うぞ。馬鹿な世界に相応しい馬鹿な魔王の昔話だ」


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