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93話:魔獣ヘルオパンティ戦②

「う……」


 俺はヘルオパンティの足音である地鳴り音で目を覚ます。目の前には膝枕で俺に回復魔法をかけているシャーマの姿があった。


(あ、太ももが気持ちいい)


「良かった。大丈夫ですか? ピクルス軍師」


 優しく微笑むシャーマ。どうやら先程の一撃で気を失っていたようだ。高台が消える所までは記憶があるが、一体どうやって助かったのか覚えていない。


「……コックリの防御魔法か?」


 すぐ横でヘルオパンティの進行を悔しそうに見つめているコックリに、俺は声を掛ける。


「いえ、あんな規模の攻撃魔法を完全に防ぐ事は私にはできません。それにどうやら先ほどのカウンター攻撃、私たちの魔力に反応して放たれたようなのです。ピクルス軍師まで危険な目にあわせて……情けないです」


 そう言ってコックリは無念の表情を浮かべる。

 魔力に反応して、か。道理で反撃のタイミングが良すぎると思った。魔力に対する自動迎撃システムみたいなものなのか?


「締めの攻撃をお前たちに任せたのは私だ。浅薄だった。しかしどうやって助かったのだ?」


 いや、そんな事はどうでもいいか。今は一刻も早くやらなければいけない事がある。

 痛む体をおさえながら、俺はゆっくりと起き上がる。


「あ、まだ動いては……」

「大丈夫だ、助かったよシャーマ」


 シャーマの太ももの感触は惜しいが先ほどの極大魔力球がいつ襲い掛かって来るか分からない状況で、おちおち寝てはいられない。


 よし……逃げよう!


 ゴキブリを見つけたら叩き潰すまで寝ない主義の俺だが、どうしても駆除できないなら寝床を変えるという柔軟性も大事だ。問題が先延ばしになるだけだが、とりあえず現状の危機からは逃れられる。何も俺が自ら危険を冒してまでここで気張る必要もない、ヘルオパンティの事は一旦ミックスベリー城に戻って一週間くらい英気を養ってから考える事にしよう。

 そうと決まれば善は急げだ。俺は船の泊めてある港へと歩を進める。


瞬間帰還(サトガ・エリ)です」


 なに? 

 コックリの言葉に俺は歩みを止める。


瞬間帰還(サトガ・エリ)だと?」

「はい。先程の攻撃はウィズィの瞬間帰還(サトガ・エリ)で回避したのです。残り少ない魔力で……本当に無茶をする子です」


 そう言ってコックリはうつ伏せでカエルのように地面にへたっているウィズィを指さす。


 そういえば今俺がいる場所はさっきの高台とは随分離れている……

 よくよく辺りを見渡すと四方を岩山で囲まれたレモンバーム城の入口にあたる黒い平地がすぐ近くにあった。


 ウィズィは瞬間帰還(サトガ・エリ)が使えるのか!? 究極のヒット&アウェイ戦法として手を焼いた便利魔法……しかし魔物の中に使い手はいなかったはずだ。これもウィズィが半分人間の血を引いているからこそできる芸当なのか?


 ……!!

 

 俺はハッと一つの案を閃く。

 ……これなら限りなく低いリスクでヘルオパンティを倒せる……かも。


 い、いや! 駄目だ! 安全の保障がない策に俺自身を組み込むわけにはいかない! 落ちつけ俺。冷静になれ。


「ピクルス様~」

「ピクルス君!」


 考えが纏まらない俺。その時、大きく手を振りながらサイ君とトレスマリアが駆け寄って来る。二人とも無事だったのか。


「回復したんですねピクルス様。目を覚まさないから心配しましたよ」

「ピクルス君。私のラビットヘッドバッド見てくれた? 貴方に捧げる最高の頭突きよ!」


 大声で騒ぐ二人、どうやら元気そうだ。


「二人とも無事だったか」

「あまり無茶は駄目ですよ。ピクルス様ってたまに前に出たがりますよね」

「ピクルス君。私のジャンプ見てくれた? 貴方に捧げる最高の跳躍よ!」


 二人バラバラに喋るなよ。こちとら病み上がりであんまり頭も回ってないんだから。

 まあ、何にしても良かった。これで心置きなく二人を連れて一旦退避だな。


「よし、二人とも……」

「じゃあピクルス様は大人しくミックスベリー城に帰って休んでいてくださいね」

「後は、私たちに。いいえ、私に任せて頂戴。あの猿に愛の鉄槌を下してくるわ。帰るべき場所に愛する人が待っている……それが私の力の源になるのよ!」


 なんだと?

 サイ君とトレスマリアのまるで戦況が分かっていない呑気な発言に、俺の言葉は遮られる。


「おい、まさか二人でやる気か?」

「だってさっきの攻撃が来たら危ないじゃないですか? コックリさんの話だと魔力に反応されるみたいですし、私たちが頑張りますよ。あ、代えのシーツがもうないので帰ったら洗濯物とり込んでおいて下さいね」

「ちなみに私のショーツも一緒の場所に干してあるわ。だからと言って変な気を起こしたら駄目なんだからね!」


 そう言って二人はヘルオパンティへと向かって行く。

 無茶だ、いくらなんでも無策で勝てる相手じゃない。だが俺が確実に海を渡るには、こうして時間を稼いでもらう方がいいのか? ……いや……


「ちょ、ちょっと待てぇぇ!!」


 咄嗟に二人を呼び止める俺。


「なにピクルス君? 私、忙しいんだけど?」

「い、いや。ちょっと聞け、ウィッチーズもだ。あの黒猿を倒す秘策がある」

「秘策?」


 ……仕方がない。ここでサイ君とトレスマリアを失うのは得策ではないからな。 大丈夫だ、この作戦なら俺のリスクは低い、そして相手が魔力でできた獣なら一番有効な攻撃のはずだ。

 ギュッと唇を噛んで自らを鼓舞する。


「いいか! ヘルオパンティは俺が倒す! お前達は俺の援護に回れ!」


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