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89話:ドロップアイテムの謎

 魔物を倒す時に手に入るドロップアイテム。

 トロルが剣を落としたり、足の無いスライムが幸せになる靴を落としたりする不思議現象だ。当然その現象に理由などないのだろうが、この世界に関してはこのドロップアイテムという物が非常に重要な意味を持つ。


 魔物の誕生に関わるこの重大な事実は『琺魔水晶』をウィズィの胃袋から救出したお礼に『魔法道具を使って生み出す魔物』の生成方法が見たい、という俺の願いをレモンバーム将軍が承諾し、魔物誕生の瞬間に立ち会わせてもらう事で発覚した。



「今回は迷惑を掛けたな」


 レモンバーム将軍が俺に向かって小さく会釈する。


「いえ、こちらこそ無理を言ってすいません」


 レモンバーム城の地下にある古びた大広間に連れて来られた俺は辺りをキョロキョロと見渡す。研究所のようなその場所は中央に大きな円形の魔方陣が描かれており、周りには物置代わりにでも使われているのか武器や道具が所狭しと置かれていた。そのせいもあり広さの割には窮屈な場所という印象を受ける。


「ここで魔物を誕生させるんですか?」

「そうだ。『琺魔水晶』が魔物を生み出す道具という事はウィッチーズも知っているが作り方までは教えていないからな。他言無用で頼むぞ」

「あ、はい」


 そんな事を俺に教えていいのか? ……まあいいか。本人がそう言ってくれるなら断る理由もない。ここで魔物生成のノウハウを覚えてビースト軍でも流用させてもらおう。この『琺魔水晶』では魔法生物しか作れないらしいが今は質より量が欲しいからな。


「先に行っておくが『琺魔水晶』で魔物を作り出せるのは強大な魔力を持つ私かウィッチーズのみ。見ても役には立たないと思うぞ」


 え? そうなの?

 レモンバーム将軍は『琺魔水晶』を大広間中央の魔方陣に置くとブツブツと呪文を唱え始める。その詠唱に呼応するかのように魔方陣は黒い光を放ち、しばらくすると魔方陣の円はまるでブラックホールのような底なしの闇へと変わる。


「うぉ!?」


 底なしの落とし穴……と言った所か。恐怖すら覚える円形の黒穴、ここから魔物が這い出て来るのか?


「さて、では魔力値と人数を決めるとするか。ピクルス軍師、お前が決めていいぞ」

「魔力値ですか?」

「あぁ、魔力値だ。魔物を生成する際にはまずこの魔方陣の穴に魔力を注ぎ込む、そして生成する魔物の数によってその魔力が振り分けられるのだ」


 ふむ、なるほど。


「えっと、じゃあ中級魔法程度の魔力で。数は三体でお願いします」

「よし、分かった」


 再度魔方陣の方に向き直しブツブツと詠唱するレモンバーム将軍。


 ギュオオォォォン! 

 魔方陣の穴がまるでミキサーのように渦巻く。


「さあ、最後の仕上げだな。ドロップアイテムは何にする?」


 部屋に置いてある武器や道具を指さし俺に尋ねてくる。


「ドロップアイテム、ですか? いや、別に無くてもいいのでは?」

「そうか、別にそれでも構わないが生成できる魔物のランクは落ちるぞ」

「え……そうなんですか!?」

「あぁ、知らなくても当然か。高価な武器や道具をこの魔方陣の中に入れればそれだけ高ランクの魔物が生成できるのだ。後はドロップ率だな、これも高くすればするほど強い魔物が生まれる」


 そこまで説明を聞いたところで俺は魔法による魔物生成の仕組みを理解する。

 つまり魔力値を大量に注ぎ込み、且つ生成する魔物は一体、そしてレアな武器や道具を魔方陣に放り込んで、その魔物が倒された時のドロップ率を100%にすれば超強力な魔物が誕生するって事か。

 そしてその逆だと雑魚魔物しかできない……と。おそらく魔王が魔物を一から生み出す時も同じような形式なんだろうな。


「えっと、じゃあこの薬草で。ドロップ率は50%でお願いします」


 レモンバーム将軍は小さく頷くと、俺から薬草を受け取り黒く渦巻く魔方陣の穴へと放り込む。そしてまた何やら呪文を唱えると、今度は魔方陣の穴から火柱のような光が放たれる。


 うおっ! 眩しっ!


 突然の強烈な閃光に目が眩み、一瞬たじろいだ俺はゆっくりと目を開ける。すると目の前には魔法族と思われる小さなインプの魔物が三体、ピギャピギャと鳴いていた。


「お、おぉ~」


 俺は目の前の光景に感嘆の声をあげる。


「まあざっとこんな所だ。これで満足か?」

「……はい。非常に参考になりました」


 確かにこれは交配により魔物を誕生させるやり方よりもかなり効率的だ。しかし呪術軍でも四人しか生成できる者がいないとなるとビースト軍での流用は難しいか? そもそも生成方法はウィッチーズにも教えていないらしいし……う~ん、使えそうなのに勿体無いな……


(いや、待てよ? レモンバーム将軍に強力な魔物を一体生成してもらってビースト軍に送ってもらうと言うのはどうだ? いや、駄目だ駄目だ。今は空き巣状態のイーシオカ大陸に魔物の数を増やす事が先決。でもあんまり弱すぎて数だけいても勇者の狩場になるだけだしなぁ……)


「おい、もういいか? いいなら戻るぞ。私も仕事があるのでな」

「あ……はい」


 う~ん、弱くて効率的に相手を倒せる魔物なんてやっぱりいないよな……

 ……

 ……!!


 その時、俺は一つの案を閃く。


「レモンバーム将軍!」

「ん? なんだ?」


 俺は大広間から立ち去ろうとするレモンバーム将軍を呼びとめる。


「この部屋の中に何か爆弾のような物はありませんか?」

「爆弾? いや、ないが」

「……そうですか、いや、爆弾ではなく毒でも良いのですが」

「何を言っているのだピクルス軍師。意味が分からないぞ」

「アールグレイ将軍が愛した土地イーシオカ大陸……この地を勇者たちの手に渡すわけにはいかないという事です」

「なんだと?」


 そう、強力な魔物を作るか、大量の魔物を作るかで頭を悩ます必要などなかったのだ。要は勇者たちを効率よく駆逐できればそれでいい。その為には……


「起爆前の爆弾、もしくは強力な毒をドロップ率100%で組み込み魔物を作るのです。当然生成した魔物が勇者たちを倒せればそれに越した事はないですが、力及ばず勇者たちに敗れてしまった場合でもこの方法で魔物を生成しておけば一矢報いる事ができます。つまり魔物の死を無駄にする事はない……」


 正直、別に何体でも勇者たちに狩られてもらって構わない。この方法なら置き土産としてドロップされたアイテムが勇者たちを勝手に倒してくれるのだから。これなら大量の魔物を生成し、尚且つ効率的に勇者を倒す事ができる!


「ふむ……なるほどな、考えもしなかった」

「やってみる価値はあるかと思います。後は強力な爆弾や毒を手に入れさえすれば……」

「そういった事はコックリが詳しいな。よし聞いてみるとしよう」

「あ、私も同行します」


 必勝の策を思いついた俺は軽い足取りでレモンバーム将軍に付いて行く。

 ゴトッ……


(ん? なんだ? 今、奥の方にある壺が動いたような……)


 ……今にして思えば完全に油断していた。俺は気づくべきだったのだ。この城にはヤギやキツネに劣らぬ真なる馬鹿がいる事に……



「ふっふっふ~。聞いてしまいましたよ『琺魔水晶』での魔物の生成方法……。今回は皆に迷惑を掛けてしまいましたからね。お詫びを兼ねて私の魔力で誕生させようではありませんか! 全てを殲滅せし最強の魔物を!!」


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