76話:『魔王連合軍』VS『勇者連合軍』
作戦D『全軍突撃』が発動され魔王連合軍は一斉に王都カレンダへ向かって突き進む。勇者連合軍側は魔法使いと弓兵を前面に出して遠距離から向かって来る魔物に対応する。
ウォォォォォォ!!
双方の雄叫びと魔法による爆音が入り混じり戦場は一気に熱を帯びる。矢と魔法によって次々と倒れて行く魔王連合軍。肉弾戦で相対できる距離まで魔物が詰め寄った時にはこちらの被害は五百体以上になっていた。
(さっきのチェーンソー勇者に受けた被害も含めて千体は失ったな……まあ相手の陣中に飛び込むわけだからこのくらいは想定内だ)
俺は事前の打ち合わせで作戦A~Gまで落とし込みをしていたがどの作戦を使うにしてもターゲットを絞って戦うよう各副官に指示している。そのターゲットとは当然勇者……ではなく魔法使いと僧侶だ。
こいつ等がいる限りアルミ缶リサイクルマークのような戦術でゾンビのように相手戦力が復活してくるからな。逆にいえば先に潰しておけば瞬間帰還による退避も回復魔法も使えない、単純な引き算で戦況を眺める事ができる。
(もっとも瞬間帰還に関しては全軍突撃を選んだ時点で封殺しているに等しいか)
そして今の突撃を迎え撃つ為に勇者連合軍の魔法使いは前面に出ている。顔まで全て覚えるのは不可能だがざっと見て五十人はいたかな。今、城の外に出ている相手の部隊が半分だとして相手の抱えている魔法使いは百人前後か、なら僧侶も大体そのくらいだろう。
それに今の突撃の際の攻防を見ていてもレベルにばらつきもある。こちらの脅威になる人数で言うとその半分にも満たないだろう、まあ当然だが。
「サイ君、分かっていると思うが王都カレンダに逃げ込んだ相手は放っておけよ。間違っても追うんじゃないぞ『聖水結界』の餌食だからな」
「はい、ってピクルス様はどこへ?」
「あぁ、ちょっと空まで」
いくら見通しのよいカタラニア大平原と言ってもこれだけの魔物と人の数だ、確認したい人物は空からじっくり確認しないとな。
「ニュウナイス、頼んだぞ。ゆっくり飛べよ」
「う~僕もお祭りに参加したいでちゅ」
「これも大事な仕事だ我慢しろ」
俺は護衛の為に後方待機しているニュウナイスを使って空へ昇る。
空から見下ろす戦場は早くも激化していた。
王都カレンダの城門からそれほど離れていない平原で数千単位の軍が激突している。両軍から飛び交う炎や風そして爆発魔法はその密集度合いから敵味方関係なく轟音をあげて吹き飛ばしていた。まあ主に仲間を魔法で吹き飛ばしているのは東側から攻めている『呪術軍』だが……あいつ等ちゃんと敵味方の識別できてるのか?
一番数の多い西側の『魔王空軍』は上空と陸、両方から攻めている。空からはガーゴイルや空軍の上位種になるコンドルやハヤブサの魔物が攻めておりそれなりの戦果をあげている。陸はオークやグリズリーが頑張っているようだな。
ザンッ!
……ん?
戦斧でオークが真っ二つに裂ける。
俺の双眼鏡に映ったのは見覚えのあるふんどし男だった。
「ぬはははは!! そ~れ! 戦士の舞でござるぅ!!」
あいつ、確かヴェルンド村に来ていた変態戦士……そういえば王都カレンダの王宮戦士だったな。
シュパッ!
今度は低空で襲い掛かったコンドルの魔物を俊敏な動きでかわして見事に短剣で首を落とす黒装束の赤髪女が目に入る。
「うるさいぞ戦士ライファン。唾が飛ぶからあまり喋るな」
コンドルがあっさり殺られた? 随分と軽装だがあれも戦士か? しかし可愛いな……あの強さ、どこかの勇者の一行か?
その後もふんどし戦士と黒装束女を中心に勢いづいた勇者連合軍は西側の『魔王空軍』を押し返す。
……やはりそう簡単には攻略できないか、戦況は数で勝るこちらが有利のようにも見えるが局地的には負けている。だがそれも想定内だ。
さて、想定外はどうなっているかな。
俺は望遠鏡でチェーンソー勇者の様子を伺う。
勇者は相変わらず鞭の形状になったチェーンソーで魔物を次々と倒している。しかしやはり攻撃力はさほどでもないようでこちらの雑兵の数を減らすスタンスのようだ。
それに奴の戦っている位置、あれは城内に魔物を入り込ませないような戦い方に見える。
その時、カレンダの兵が魔法の爆撃を受けてチェーンソー勇者の近くへと飛ばされてくる。そしてそのカレンダ兵へガーゴイルが襲い掛かったその時……
カッ……チン
「!?」
咄嗟にガーゴイルへとチェーンソーを放り投げる勇者。コツンとチェーンソーを当てられたガーゴイルはまるで時が止まったかのように硬直している。
「雷鼓光!」
身動きが取れなくなったガーゴイルへ雷撃魔法をお見舞いしカレンダ兵を助ける勇者。そしてチェーンソーを拾い直すとそのまま魔物の群れへと飛び込んで行く。
「ふふ……くははは!」
「どうしたでちゅかピクルスちゃん?」
「いや何でもない」
俺は思わず声を出して笑ってしまった。
なんだ、警戒して損をしたな。確かに面白い武器を持っているようだがこいつはそれだけだ。黙っていれば必殺ともいえる武器を自ら実演を踏まえて紹介してくれているのだからな、しかも雑魚兵士を守る為に。
俺と同じ世界の住人なのかもしれないが随分と考え方が違うようだ、友達にはなれそうもないな。こんな戦い方をするような奴なら例のレーザー砲にさえ気を付けておけばいいだろう。
いや、そのレーザー砲すら人間の一人でも人質にとっておけば撃てないかもな。どちらにしろ思ったほどの脅威ではない。
(それならばこちらは自分の仕事に集中できるというものだ)
「サイ君!」
俺は上空からサイ君に声をかける。
「なんですかピクルス様?」
「勇者連合軍を数名殺さずに生け捕っておけ! 相手にも連れ去った事が分かるようにしてな。あとできれば可愛い子で頼む」
別に俺の趣味ではない。その方がより効果的だと言うだけだ。うん、別に俺の趣味ではない。
「あと『ビースト軍』だけ少し戦場への到着が遅れているぞ! 早く指示を出すんだ」
「あ、はい。うーん。おかしいなぁ、随分前に指示しているんですけどね」
む? そうなのか。『ビースト軍』は飛行能力も遠距離攻撃も持っていない魔物が多いがその分、接近戦には強いからな。苦戦している地上戦のカンフル剤としても一刻も早く参加をさせないと……
俺はいつまで経っても進軍しない『ビースト軍』が気になり望遠鏡を少し南へ向ける。
「ん……? なんだあれ?」
王都カレンダの南側に何か黒い絨毯のような物が広がっている。俺は目を凝らしてもう一度確認する。
っていうかアレ絨毯じゃなくて……
そう黒く縦に横にと広がった物体は絨毯ではなくて『ビースト軍』の魔物たちであった。
「将棋倒しになってるじゃねーか!!」