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天才軍師はフェレットでも構わない~ブラック企業勤務の俺でも無双できる世界~  作者: 赤城 マロ
戦争編

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75話:乱戦

 チェーンソーを携えた勇者はそのまま先陣を切って飛び出す。手に持っていたチェーンソーは刃先が二股に割れ、変形しながら勇者の体に巻きついていく。そして勇者は翼となったチェーンソーの刃先を広げて上空へと舞い上がる。

 気合いの入った雄叫びをあげて空に残っていた『魔王空軍』の兵を翼の刃を使って超スピードで次々と切り裂いて行く勇者。


 速っ!! おいおい、冗談じゃねーぞ!

 目の前で飛び回る勇者の明らかな異質に否応なしに理解する。いや、違和感があるのは武器だけだが証拠としては十分だった。


(あの飛んでる勇者(ヤツ)も恐らく俺や魔王の軍師ミュゼルワールと同じ別世界の住人……)


 クソっ! ミュゼルワールの奴、何が『勇者になった者は数人いたがそれも今はいないはず』だ。目の前でビュンビュン飛んでるじゃねーか!


「ふわ~新種のカナブンでちゅかね?」


 ニュウナイスがポカンと口を開ける。

 そんなわけねーだろ。あれがカナブンならどれだけ気が楽だったか。


 チェーンソーの勇者は目にも止まらぬ速さで数分間に渡って上空の魔物を蹴散らし続けた後、ストッと地面に着地を決める。そしてチェーンソーをゴソゴソと操作すると今度は刃先が鞭のようにしなって陸から攻めようと待機していた『ビースト軍』の先遣隊に襲い掛かる。その刃先はまるで生き物のようにうねうねと動き的確に魔物にヒットして行く。

 ……なるほど。あの武器はいくつかの形状に変化できるのか、ちっ! 厄介だな。


「ピクルス君、あの勇者の武器って……」


 トレスマリアが俺の顔を見ながら呟く。

 なんだ? まさか何か知っているのか?


「しょ、しょ……触手プレイ……ぴょん」


 顔を真っ赤にして耳を振り回すトレスマリア。

 駄目だこいつ。


「ピクルス先輩、僕があの勇者の相手をして来ましょうか?」


 猛威を振るうチェーンソーの勇者を見てもなお余裕の姿勢を崩さないベンガルトが俺の肩に手を乗せて話しかけてくる。姿形だけなら歴戦の強者感を漂わせる『白虎』の力強い言葉に俺は問い返す。


「ベンガルト。勝算はあるのか?」

「勝算? 随分とナンセンスな事を言うんですね。僕は淡々と四獣王としてのルーチンワークをこなすだけです。特別な事なんて何もないですよ」


 おぉ、頼りになるな。って……ん?

 気がつくと俺の肩に乗せた手は小刻みにブルブルと震え、余裕に満ちた表情は崩さないまま目からはうっすらと涙が浮かんでいた。


「そう雄々しい大樹も美しい花も必ずいつかは枯れ朽ちる時が来る。特別な事なんて何もないんですよ……」


 この虎、心弱ぇぇ! 負ける気満々じゃねーか!

 急に気弱になりすぎだろ。そりゃあ、あのレーザー砲みたいなのを見たらビビる気持ちも分からないでもないが仮にも四獣王、もっと意識高く持てよ!

 

 ……待てよ。

 俺は望遠鏡を覗き込みチェーンソーの勇者の戦いっぷりを観察する。

(あの勇者、確かに強い……だが)


 最初の一撃には度肝を抜かれたが良く見ると勇者本人の身のこなしは大したことない。ノワクロと比べると大きく見劣りしておりせいぜい中堅勇者クラスといった所か。そして脅威の破壊力を見せたあのチェーンソーの光線も使う気配はない、それどころか空に『魔王空軍』が残っているにも関わらず超スピードで飛び回る先ほどの飛行形態もやめている。


(これは何かの使用制限があるな……)


 もし一撃目の破壊光線が乱発できるならこちらに勝ち目はない、というか終わりだ。だからこそあの光線を撃って来ない現状が何かしらの制約がある裏付けと言える。飛行形態もそうだ、もし常時使えるなら空の魔物を掃討してから解除するだろう。

 今の鞭のような形態も確かに厄介だが攻撃力はさほどでもない、現にこちらの魔物を倒すのに二度三度と振り回しているからな。つまり奴が常時使える力の上限はあの鞭形態レベルが関の山ってところか。


「ピクルス様~。どうしたんですか? 早く次の指示を出さないとこのままじゃマズイですよ!」


 サイ君が困った表情で俺にせっつく。


(とは言ってもあくまで推測でしかない。使用制限があるのは間違いないと思うが利用回数なのかインターバルなのか、それともそれ以外の条件なのか……それすら分からない状況でのほほんと構えているわけにはいかないな)


 欲を言えばあのチェーンソーの勇者とは接触して情報を得たいところだが悠長な事は言っていられない。……これは考えていた以上に短期決戦になりそうだな。

 俺は大きく深呼吸して考えをまとめる。


「サイ君。作戦Dで行くぞ」

「え? 作戦Dですか、少し早くないですかピクルス様!?」

「いいんだ」


 俺は上空にいる『魔王空軍』に指示を出し作戦Dの隊列を組ませる。魔物たちが空中でDの文字を描く。


 作戦Dとはなんのことはない『全軍突撃』だ。策でもなんでもないこの作戦はこの状況下に置いては最善の策だ。警戒すべきはあのチェーンソーの勇者が初手に放ったレーザー砲だが、もしインターバルが必要な使用制限なら長時間勝負はますます分が悪い。また仮にレーザー砲が撃てる条件が整ったとしても乱戦に持ち込んでおけば仲間を巻き込む危険がありおいそれとは使えないだろう。もしノワクロのような鬼畜勇者だったとしてもそれはそれで相手戦力を巻き込めるからな。相手の陣営付近で戦うというデメリットも当然あるが今は天秤にかけるまでもない。

 とにかく相手の力が分からないから様子を伺う、と言うのは最悪の悪手だからな。


「それに……」

「どうしましたピクルス様?」

「いや、なんでもない」


 ……それにどこかのタイミングでこの作戦Dは使う予定だった。

 あくまで自然に、もっともらしい理由で全軍を突撃させる機会を待つつもりだったがこうなってくれたのなら話は早い。同じ異世界人だとかチェーンソーの武器だとか今は知った事か。今回の戦争の勝利の条件は変わらない。

 

 ……さあ来い、ノワクロ。


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