前世の私と精霊達の賭け
「これで貴方と人族で言う我等は婚約関係になれましたね!」
「はっ?!」
ヴィルのその言葉に固まった。
今なんて言った?
コンニャク? いや、今焼く?
………
………………
………………………
婚 約 関 係 ですと?!!
ちょっ!
待って!! 待って!! いきなり名付けて契約結んで婚約って何な訳?!
そもそも精霊と婚約?!
しかも六人一斉に?
有り得ん、何だその一妻多夫状態!
乙女ゲームじゃないんだよ、これ! なのにいきなり色々私的にはすっ飛ばして一気に婚約関係?!
フラグを折る所も選択肢すら無いじゃない!
しかも最初からハーレムエンドとかどんな乙女ゲームでも無いわっ!!
一体、過去の私とこいつらどんな賭けしやがった…?!!
「ちょっ! 何?!! 婚約??! え、えええええ??! ツッコミ所満載なんですけど!」
そう混乱する私の反応を他所に面白そうにしているのがカール。
「そ、婚約。これはさっきも言ったけど君が特別な人間だからって事にも関係するんだよねぇ~」
「そうじゃの。その説明もせんとな」
ディルが落ち着いた口調でそう言うと、アーデルが話し始めた。
「んー。何て言って良いのかしらねぇ。この世界の精霊達にちょっとした異変が生まれてるのよ」
「異変?」
「そうなのです。本来、我等は自然に発現、そして自然界が生み出す存在なのですが、近年、その傾向が少なくなっているのです」
「はい?」
「何と言えば良いでしょうね…。力の弱い精霊は今でも多く生まれています。しかし、上位の力を持った精霊の数が圧倒的に少ないのです。
上位精霊は下位精霊を纏める役目もあります。しかし、上位精霊の力も落ちていると言う悪循環も手伝い、上位精霊の不足により、下位精霊の末端まで纏めるのが今現在ギリギリの所なのです」
ため息を吐きながらヴィルがそう言うと他の五人も頷く。
あれか。要するに上司不足で末端まで配慮がギリギリと言う奴なんですね。
しかも力が弱まっているのはその増える下位精霊達を纏める為に必死だからか。
何なんでしょう、精霊ってもっと夢のある存在だと思ってました。
しかし、これを聞くと日本の企業を思い出します。
上位精霊は中間管理職でしかも過労で倒れる寸前。そして下位の精霊達はまだまだひよっこの新人さんなのでとてもじゃないけどお手伝いにもならないと。
…結構深刻じゃね?
「俺達も何の対策も無いまま居た訳じゃねーんだよ。何回も種族間で話し合った。そして研究もする精霊も出始めた。これはディルの方が詳しいよな」
イグナがそう言うとディルが頷く。
「うむ。ワシ等、地の精霊の高位者の者で研究を進めた。その結果、一つの答えが導き出された。それが前世のお主だったのじゃ」
「はい?」
「ワシ等の研究によると、人間の中でも特別力の強い精霊を生める者がいると分かったのだ」
「…それが前世の私だと…?」
「うむ。しかも人間として生まれず、必ず強い力を持った高位精霊種が生まれるとの見解もでたのだ。そこでワシ等は探したのだ。その適合者を。そして漸く発見したのが御主の前世シンシア・クラーサじゃった」
「彼女はその当時、他に類を見ない位に精霊との相性の良い女性でした。しかも内包する精霊力が普通の人族の数万倍はあったのです。そんな彼女は様々なデータとの検証の結果、我等と交じり合っても必ず高位精霊種を生める存在と言う稀な体質の持ち主であったのだ…」
その話を聞いてぽかーんです。
前世の私も偉くチートな人だったんですね。
しかし、精霊と結婚出来てまさか子供生めるの?! しかも人間が?!!
やっぱり理が違うとそう言う事になりますよね。
これがこの世界での現実と言う事ですね。
やはり地球の書物は書物でしか無いと言う事だと。
「えー……。それで前世の私は…その話を…」
そう尋ねると、みんなが一斉にため息を吐いた。
「彼女はものすごーく、自由奔放でわが道を行くタイプの人だったの。しかも異性に全く興味無し。精霊術を駆使して世界中を駆け回るこの世界の職業でもあるハンターと言う職に就いてたわ」
「それだけならまだ良かったのですが…。彼女はそれ以外にも愉快犯でしてね…」
「俺達の説得を悉く上手くかわして行ったんだ…」
「…そっからはワシ等とあやつとの根比べになったのじゃ」
アーデル、カール、イグナ、ディルが遠い目をしながら当時の状況を語ってくれる。
……おー、凄いな前世の私。きっと面倒事嫌いだから逃げまくったのね。それでも精霊達は不屈の精神、めげない、再挑戦何度でも挑み、勝つまで纏わり付いたんだろうね。
そりゃあ鬱陶しい。
「けれど、その繰り返しが続くと思われたある日、彼女が唐突に言ったのだ」
そこでヴィルが言葉を切ると、リオが喋った。
「彼女、言った、賭けをする…と」
「それが今回の私に繋がる賭けなのね?」
そう尋ねるとリオがこくりと頷く。
「可笑しいと思いました。何故いきなり賭けを持ち出したのか…。我等は急な不安に駆られました」
ま、今まで攻防戦を繰り広げて突如の賭け話なのでそりゃあ不安になるわ。
「その当時、大規模な戦が人間界で起こったの。それは人間種族だけでは無く、ありとあらゆる種族が参戦する大規模な戦だったわ。当時、精霊族も参加せざる終えない、最悪な戦が起こったの」
「突如としてこの世界の外からやってきた厄災。この世界の史実にも残る程の規模の未知なる生命体が戦争を吹っ掛けて来たのじゃ」
「当然、混戦に継ぐ混戦。私達の方が押されていました。しかし、そこで立ち上がったのが数人の人族です。その者達は、たった数人で、その未知なる生命体を追いやった。その中に前世の貴方もいたのです」
「そして前世の君は自らの命と引き換えに世界中に散らばっている精霊の力を一身に受け止め、特大の精霊術大魔法を放った。勿論、数人の仲間はそんな彼女を引き止めようとしました。しかし、彼女は己が道は己で切り開く、やりたい事、したい事は必ず実行する人間でした」
「あいつのその犠牲によって生み出された精霊大魔法を契機に、一気に残った彼女の仲間達が未知なる生命体の主とも思える本体を倒し、その戦争は終結したんだよ」
そこまで話を聞いて私が思ったのは、凄い戦争だったのだと言う事と、やっぱり、己の道を行く人だったんだなと前世の私は…と思った訳です。
想像ですが、彼女はこれ以上罪亡き人達が亡くなるのを防ぐために自己犠牲になった。
彼女はそれで満足したのだ。
自分のやりたい様にやった。その結果周囲が悲しもうと、彼女自身満足したに違いない。
もし、私が同じ様な立場に立っていたら実行する!
最も私の場合は書物とかの紛失を恐れてとかそんな下らない理由だろうけど。
ま、もしかしたら彼女にも本来の目的もあったに違いないだろうけどね。
「それでその賭けが行われたのね…」
一通り話を聞いて納得すると、彼等は頷く。
「はい。この世界で生まれた者は必ず女神の元に戻され、輪廻転生をするのです。そうして記憶を失ってまた再び何処かで生まれ変わる。それがこの世界の理です」
「なるほどね~」
「まあ、それだけでは無く、彼女は自信にも術を施していました。これはただ単に次の生も人族として生まれる様にすると言った禁術に値する部類でしたが…。しかし、こうして再び貴方と出会えたのです。禁術だろうと生まれ変わりだろうと貴方は貴方だ。また貴方に出会えて私達は喜び一杯なのです」
「うへぇーーー」
何て言う執念。
前世と今生の私の区別を付けてるのにも関わらず、私を通して前世の私を見る事もせず、しっかりきっかり私を見る彼等の瞳は何とも恐ろしい。
そんな真摯な思いに少し絆されたのか知らないけど、前世の私は彼等と無謀とも言うべき賭けをしたのね……。
うん。納得…。
けどね………。
面倒事私に丸投げするなーーーー! 前世の私!!!