真名と名付けは大変ですよ
不安いっぱいなこれ。
私は取り敢えず基本的な事から聞く事にした。
「えーっと…真名…。あれでしょ? 他人に知られると弱みを握られるってやつ。それを私が付けるの? そもそも貴方達名前は無い訳?」
疑問を口にするとオネェ精霊が苦笑を浮かべながら説明してくれました。
「私達精霊に基本名前なんて無いわ。人族が勝手に付けた呼び名はあるけど、それは名前では無いもの。真名を結ぶ人間は私達の恩恵を授かる意味もあるからね。すっごく大事なのよ~。なのに前世の貴方ったら付けてくれないんだものぉ。でも今回の賭けは私達の勝ちだもの。きっちりと私達に良く似合う名前を付けてね♪」
「あー……。つまり、一般的に呼ぶ時の名前と真名別々に付けろって事ですか…?」
「そうよ~。真名は貴方とだけ交わす約束なんだもの。他人に教える気も無いわよ!」
いきなり名前を二つ付けろ…だと…?
えっと、六人いるから………全部で12もの名前を考えないといけないの?!
めちゃくちゃ大変じゃないの!!
命名辞典は何処おおお。
六人とも先ほど以上に期待に胸膨らませた様子で此方を伺ってらっしゃる………。
う………。
「貴方が付けて下さる名前ならきっと素敵な物なんでしょうね」
「おう、カッコいいのよろしくな!」
「知的な物が良いの…」
「落ち着く、名前、良い」
「属性にピッタリなら何でも構わないよ」
「私にもの凄く似合う名前をお願いね」
六人ともめっさ希望を言ってくれる!!
そんな簡単に名前なんて………。
そうして私は頭の中の記憶の箪笥を一所懸命に引き出す。
そう言えば前に読んだ本にその手の物が載ってる本があった筈。これならきっと…!
そして漸くその引き出しを開けると、私は思いっきり思考回路を働かせて、六人の名前をさっさと決めてしまおうと思いました。だって、一番の難関だもの。
それからお伺いを立てる。
「真名も付けるなら一人ずつが良いわよね?」
「それは勿論です! 貴方以外に真名を教える気も無いのですから!」
「…分かったは…。それじゃあまず水の精霊から名前を付けるからこっちに来て…。…あ、注意するけど風の魔術とか使って音を拾って真名を盗み聞きするとか駄目だからね。そんな事した人には名前もあげないから!」
ついでの様に言うと、風の精霊がちっと言った表情を作りました。
釘を刺して正解なり…。
他の五人から離れた大きな木の裏で私は先ほど記憶の箪笥から引き出した情報を元にさっさとこの水の精霊に名前と真名を授ける事にした。
後に五人も待ち構えているから早くしないとね。
てな訳で命名式です。
「えーっと貴方の真名は《ヴィルヘルム》そして名前はそこから取って《ヴィル》と言うのはどうかしら? 此方の世界で守護者と言う意味を持つ名前」
「《ヴィルヘルム》…良い名です。有難う御座います。この名は貴方に捧げ、そしてヴィルとしてこれからは名乗らせて頂きます」
そう水の精霊改めヴィルが言うと私の右手が光輝く。
「えっ!」
続いて熱が発せられ、一瞬たじろぐ。だが、それもすぐに治まった。
そしてその手の甲を見てみると見た事の無い文様が水色で刻まれていました。
そこににこやかにヴィルが仰った。
「これにて貴方との契約は無事に完了致しました。名を頂いた事により、私の力も格段に上がりました。とても素晴らしい名を有難う御座います」
そう言って嬉しそうに微笑んだのを見て、私は内心ほっとした。
良かった…。名前は気に入ったみたいね…。
そうと決まったら次、次!
「ヴィル、次は火の精霊と入れ替わりね!」
「畏まりました」
そして入れ変わる形で火の精霊がやって来て、早々に名前を付ける。
「あんたの真名は《イグナーツ》 意味は燃えるように輝くよ。これから一般的に呼ぶ名前はそこから取って《イグナ》。どう気に入ったかしら?」
「ああ! ありがとだぜ、マスター!」
そしてヴィルと同じ様に左手の甲に今度は火の模様が刻まれる。
それからは代わる代わる来て貰った。
今度は地の精霊だ。
「あんたの真名は《ディルク》 意味は人々の指導者って事なんだけ。貴方は知識が一番高く聡明そうだからぴったりだと思うの。そして普段名乗る名は《ディル》ね。どうかしら?」
「ふむ…。マスターの意見、大いに気に入った。これからワシはディルじゃな」
またしても手の甲に地の模様らしき物が刻まれた。
ふいー。
これでようやっと半分かー。
けどこの手の甲の模様良く見るとこっちも半分って感じ。
まさか、六人全員で模様が完成するのかしら。
…あり得そう。
ま、いっか
さーて残りの三人行きますかー。
お次は風の精霊ですよ。
「あんたの真名は《カールヒェン》意味は自由奔放な子。子と言うには年齢がちょっとあれだけど、貴方はは風の精霊だもんね。名前も自由があって良いでしょう?普段の呼び名は《カール》よ」
「うん。自由奔放か。良いね、名前にも縛られる意味が込められないって流石はマスターだね。気に入ったよ。これからは普段って名乗るよ」
「うん。カールって意味だけでも自由な者って意味もあるからねー」
「マスター有難う」
そしてまた他の三人と同様に緑の模様が手の甲に刻まれました。
お次はオネェ…じゃなかった。光の精霊だ。
「あんたの真名は《アーデルベルト》意味は気高く輝く。ほうら、貴方綺麗にきらきら他に類を見ない位に輝いてるもの。ピッタリだと思うわ。普段呼ぶ名は《アーデル》どうかしら?」
「まあ、私にピッタリね! 気高く輝くなんて素晴らしい意味が込められてるのね! ありがと、マスター!!」
気に入って下さって何より。そしてまた光の模様が手の甲に刻まれた。
さーて最後は闇の精霊ですよーっと。
「あんたの真名は《フィデリオ》意味は誠実て意味よ。寡黙で、言葉が少ないけどそれでもあんたには誠実って言葉が似合いそうなの。普段の名は《リオ》よ」
「真名…フィデリオ…。普段、リオ……名前有難う」
そうして気に入ってくれた様子で最後に闇の模様が手の甲に刻まれました。
こうして六人の真名と名前が決まりホッと一息。
良かったー。
こんなに名前付けるなんて早々無い事よねぇ……。
それにしても手の甲に風水地火光闇と六属性揃って初めて完成する模様がとっても神々しく見えます。
……これって契約成立って意味だよね?
でもってお約束のチート…?
なーんか他にももっとそれこそ私にとっては面倒事の種にしかならん意味も込められている気がする。現時点で既にちょっぴり名前付けたの早まったかなぁ…何て思ってたりして…。
ま、これで奴等の要求はひと段落。
って思ったのはこの時まででした。
次にヴィルから教えられた前世の私との賭けとそして契約内容によって面玉飛び出る事になったのだ。