表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

さらっと読む短編集

大魔法使い夫妻の弟(夏休みの日記版)

作者: 麦ちよこ

8月31日まであります。

7月20日(晴れ)

 姉ちゃんが男を拾ってきた。けっしていやらしい意味ではない。

 今週は町内会のごみ当番がうちだったらしく、姉ちゃんが集積所を掃除しに行くと男が倒れていたと。熱中症じゃないのかと俺が言ったら、姉ちゃんは救急車を呼ばずにスポーツドリンクを飲ませて復活させた。たまに俺は姉貴の思いっきりのよさと適当加減に驚く。


7月21日(晴れ)

 昨日拾ってきた男で一悶着あった。男は塩分糖分水分をとって寝たら無事復活したんだが、姉ちゃんに両親が「捨ててきなさい」と言った。姉ちゃんが「何ゴミの日に捨てるの?回収されてなかったのに」と言い返したことから正道に戻り警察にいくことになった。

 交番に行くと日本語を話せなかった男は流暢に喋りだしてくれた。けどだ。自分のことを魔法使いという。暑さのせいでおかしくなったのかもしれないと思っていたが次々と手品みたいなことをしてくれた。警察は「おもしろかったよ」と言ってそのまま俺たちを放り出した。相手にされなかったんだな。

 戻ってきてしまった男に両親は戸惑った。自称魔法使いは、帰れるまで置いてくれとやっぱり日本語でお願いしてきた。今朝とは違い意思疎通が取れるからかここでもまた手品大会がはじまる。母さんが近所の子供会がやるお祭りの実行委員会を紹介することになった。その給料を家にいれてくれるらしく今月いっぱいは泊めてやることになった。父さんは俺の自由研究を手伝うように言ってくれた。今年の自由研究は魔法に決まった瞬間だった。


7月22日(ゲリラ豪雨)

 魔法使いは別の世界から来たという。姉ちゃんとは「シュレーディンガー」だとか「他世界解釈」だとかの話をしていた。俺にはわけがわからなかった。けど魔法使いは姉ちゃんの話を真面目に聞いていてそれを元に研究するらしい。自分が寝ていた場所とか周りを調べたいと言っていたが玄関を出たらゲリラ豪雨だったので中止。魔法使いはビビッて、今日は家の中で姉ちゃんが持ってきたエロゲをするらしい。何でエロゲって聞いたら、「トリップものの傑作。タイムトラベルと分岐された他世界を描いた超燃えゲー」と答えられる。エロゲらしいので俺も横で見てようと思ったが18禁だと怒られた。はらがたったので父さんに言いつけたら父さんは何も言わなかった。しょげすぎ。姉貴に夢を見るな。あと母さんが魔法使いのためにユニーでクロな服を買い揃えてきた。


7月23日(晴れ)

 晴れたが魔法使いはエロゲで引きこもり。ご飯時に姉ちゃんに「何であいつはへこたれる! 己で立ち上がるべきだ!」と熱く語っていたが、「それがこの世界の男の肝っ玉よ」と返される。一体どんなゲームなのだよ。


7月24日(晴れ)

 エロゲについて母さんにちくったら姉ちゃんはやっとまともに怒られた。けどすぐに母さんは乙女ゲーを渡されて寝返った。固定ゲーム機は母さんに取られるし、PCは魔法使いにとられた。仕方ないので携帯ゲーム機でひと夏過ごす覚悟をする。けど後から姉ちゃんがバイトにいってる間はネトゲ専用のノートPCを貸してくれるらしい。もう姉ちゃんを裏切ったりしません。


7月25日(晴れ)

 魔法使いの滞在期限が残り1週間を切った。そろそろ自由研究を手伝って欲しい。そう伝えに行くと、やっとゲームを放り出してゴミ捨て場を見に行った。ゲリラ豪雨のせいか魔法の残骸が完璧にないらしい。姉ちゃんはこういう時、謎のアクティブさをもっているので「すぐに解決しないなら滞在日数を増やすことを考えましょう。なんか金策できないの?」と鬼のようなことを言う。魔法使いもエロゲの一件からか姉ちゃんに懐いており文句を言わない。「こんなに素晴らしい生活の代金をもっと支払うなどできる気がしない。できる限り働かせてくれ」と乗り気になる。

 俺と姉ちゃんは魔法使いが何をできるか考えた。姉ちゃんはネトゲ脳なので治療主体がいいのではと言う。俺は現実的に新興宗教みたいになるから止めたほうがいいと止めた。それで魔法を家事に流用するか、錬金術ができないかと提案した。魔法使いは俺たちに魔力回復剤を作って飲ませた。俺たちも魔法が使えた。めちゃくちゃ楽しかった。


7月26日(晴れ)

 両親は俺たちが魔法使いになれたのを見て自分達も飲むことにしたらしい。父さんは空を飛んで上機嫌で出勤。母さんは無駄に流水をしてスイカを冷やした。魔法めっちゃ便利じゃん。俺も相当はしゃいだが魔力が切れた。すんごい眩暈がした。魔法使いが言うにはみんな魔力のタンクはあるのに貯まってないだけだし、寝ても回復しないのなら飲み続ける必要があるとのこと。ところで材料はなんなんだ、作れるようになりたいと言うと、かべちょろ(とかげ?)を出してきた。姉ちゃんは高笑いをしながら大量生産に入った。恐ろしい。生み出してはならない魔王を生み出した気がする。父さんは定期券を払い戻してしまったらしいので、通勤帰宅以外には使わず、毎朝飲むだけにした。母さんは黙った。勿論俺は自由研究なので飲む。


7月27日(晴れ)

 父さんが定期券代浮いたから8月も家にいていいよといった。俺の自由研究は後回しにされるフラグだと思う。姉ちゃんはオリジナル魔法の製作に入った。もう姉貴は誰にも止められまい。魔法使いは猶予ができたことにほっとしたらしくエロゲの続きをはじめた。俺は一人で自由研究である。


7月28日(ゲリラ豪雨)

 母さんがお盆に坊さんを呼ぶことを思い出した。それではじめて魔法使いは我が家の仏壇に気がついた。今度は宗教に興味が湧いたらしい。お盆に呼ぶのとは別に今度お寺を見に行くことになった。そこから派生して普通に観光していったらということになる。真夏の沖縄は無理でも近所の夏祭りや花火大会、プール程度の夏の思い出は作れる。

 姉ちゃんが何故か「バイト代よ」とか言って俺と魔法使いに水族館と映画館のチケットをくれた。明日晴れたら連れて行こう。


7月29日(晴れ)

 晴れた。ので、魔法使いと水族館に行く。そんなもの何が楽しいんだと言っていた魔法使い、大いにはしゃぐ。甚平ザメを撫でた後にサメって人を食べるんだぜっていうとそんなわけないと笑っていた。確かに甚平ザメはそんなことしない。けどマジでサメが危険だとわからせるためにジョーズのDVDをレンタルして帰る。結果、すげーうるさかった。映画館に行くときは見る奴決めていかないといけないな。


7月30日(ゲリラ豪雨)

 姉ちゃんがなんでチケットをくれたかがわかった。友達に魔力回復剤を売りつけて儲けたらしい。危ない薬を売ってるみたいだから止めろと言った。姉ちゃんは「マジックのネタを売っているだけだ」と言う。それでとてもいい笑顔で「記憶定着の術を作った。すなわち教科書を読むだけでほぼ社会科と理科は解ける」と買収体制に入った。俺は悩んだ。父さんは即決で買収された。この夏資格マスターになるらしい。姉ちゃんはそのこともわかっていたようで付箋付きの各種テキストもつけて父さんに売りつけた。その一連の流れを見て魔法使いまでもが買収された。魔法使いはこれで大魔法使いになるらしい。対価として知ってる魔法全部書き残してくれるそうだ。


7月31日(台風)

 父さんも魔力回復剤を売ることにした。会社が空飛び通勤を気に入ったそうだ。姉ちゃんの記憶定着術もとられるんじゃないかと思ったが姉ちゃん曰く、「同時に著作権魔法も作った。使用料ではなくコンビニとかであるフランチャイズ形式で一定魔力が上に吸い上げられる」そうだ。魔法使いが増えれば増えるほど、よく使われる魔法を開発した者が大魔法を使えるというシステムらしい。そして魔力が払えないと使えない。記憶定着術は家族にしか販売できないプロテクトが入っているタイプだそうだ。その魔法の凄さがわからなかった。魔法使いは姉ちゃんを尊敬し始める。


8月1日(晴れ)

 魔法使いのリアクションがオーバーなため、多少うるさくてもいけそうな子供向けアニメ映画を見に行った。えらく感動された。興奮がすごいので以前の映画のDVDもまとめて借りてきた。魔法使いはエロゲからアニメ鑑賞の引きこもりに戻りそうだ。


8月2日(晴れ)

 花火大会に姉ちゃんが魔法使いを連れて行った。今の姉ちゃんは金持ちであるため屋台で豪遊したそうな。年の離れた姉と行くとそういう特典はあるが俺は来年中学生だしクラスメイトにみられたらシスコンといわれかねない。よって家に残り魔法使いがやっていたエロゲを調べてみる。姉ちゃんの趣味が理解できなくなった。エロじゃなくてグロだ。


8月3日(晴れ)

 魔法使い、バイトの日。子ども会の夏祭りである。どんな魔法なら大丈夫かと姉ちゃんに相談していた。そしてまた幾らか魔法を売りつけられていた。どうして現役魔法使いが新人魔法使いに買収されるんだと疑問に思っていた。でも披露されたものを見て納得した。前日見た花火を魔法で出しやがった。あと、映画で見たキャラクターが水と炎で再現される寸劇。子ども大喜び。大人も大喜び。姉ちゃんは発想がこの世界ナイズされているのだ。それで教えられた魔法は全部記憶定着されている。もしかしたら世界を超えて大魔法使いになったのかもしれない。自由研究は魔法使いより姉ちゃんに頼むのがいいかもしれない。


8月4日(ゲリラ豪雨)

 前日言ったことは訂正する。姉ちゃんに自由研究のことを頼みに言ったら魔力回復剤の作成を命じられた。あんな犯罪まがいなものに加担する勇気はない。しかし記憶定着術はかけてくれた。なので古い教科書も引っ張り出して今日は一日読書した。


8月5日(晴れ)

 姉ちゃん提供の元、魔法使いを温泉のあるプールに連れて行った。すごいはしゃいでいた。暑い土地も悪くないと言いながらかき氷を食べて予想通り撃沈した。

 それよりもだ。とうとう警察が来た。姉ちゃんは帰ってこず父さんは青い顔をしてついていった。母さんは寝込んだ。魔法使いは「姉さんのピンチなんてありえません」と妙な信頼を持っている。魔法使いはもう完璧な姉貴信者である。それより芋づる式に魔法使いが連れて行かれて、俺も連れて行かれるのではないだろうかと心配になる。


8月6日(ゲリラ豪雨)

 朝、姉ちゃんは帰ってきた。VIP待遇で。父さんは帰ってきて早々寝た。母さんも安心して寝た。魔法使いはぐっすり寝ていたらしく元気にお帰りなさいと言っていた。おまえの家ではない。姉ちゃんは警察どころか国に魔法を売りつける算段をつけてきたらしい。恐ろしい。一応特許出願中扱いで魔力回復剤を登録したそうだ。それと父さんと姉ちゃんの周りで既に売りつけた人たちからかなりの魔力が著作権魔法で吸い上げられているらしく、姉ちゃんは基礎から応用までこの世界全ての魔法の特許守護システムを作っている。魔法がメジャーになったら国に売りつける約束で帰ってきたそうだ。値段を聞いて驚いた。現代地球の魔王の誕生だ。俺の夏休みの日記が歴史書になるだろう。なんちゃって。


8月7日(ゲリラ豪雨)

 家族会議をした。姉ちゃんは魔法を国に売ることで巨万の富を将来的に手にできる。宝くじに当たってもこんな話になるだろう。家のリフォームと新車の話が出る。うちは思っていた通り庶民的な発想しかでない。魔法使いは城を立てようとか超時空図書館をとか言い出した。忘れていたがこいつはファンタジーな人だった。姉ちゃんはファンタジーな人を見ながらこういった。「今ならSF世界も作り上げられる。記憶定着術もあるし科学と魔法の融合で最先端を走る機関を作ろう」我が姉ながら頭がおかしい。ちょっと漫画やアニメやライトのベル影響を受けすぎだと思う。だがしかし、今の姉にはその根拠がある。力がある。富も入る。両親は姉ちゃんが世界の最先端を作ろうとしていることに感動して賛同する。魔法使いは新世界の神(笑)と化した姉ちゃんを眩しいものでも見るかのように崇めた。後の人類よ、俺の日記を見ることがあるのならばすまない。俺には姉貴を止めることはできないのだ。


8月8日(晴れ)

 姉ちゃんは今日から国の人と細かい話し合いに行く。魔法使いも連れて行かれた。よくよく考えたら魔法使いなしの日なんて今年の夏は珍しい。友達の家にゲームしに行く。魔法の話をしたら信じてもらえなかったので魔力回復剤を飲ませた。すごい感謝された。ゲームから魔法で遊ぶことになり真夏にもかかわらず外ではしゃいだ。気付いたら近所の子どもとおばさんがギャラリーになりだしたりで、姉ちゃんに言われていた値段で魔力回復剤を売る。これは値段さえ守れば俺のお小遣いにしていい。俺も金持ちになった。

 夜、近所の人が尋ねてくる。魔力回復剤がほしいらしい。帰ってきた姉ちゃんが在庫を捌いた。姉ちゃんが魔法使いに「この調子で行けばこの世界で不自由なく暮らせるけど帰りたい?」と聞く。魔法使いは悩む。「一度帰還して身辺整理はしたい。そのあと戻ってもいいだろうか」と答えた。

 姉ちゃんはフランチャイズというかねずみ講というか著作権魔法でかなりの魔力を溜め込める身になっていた。国のお偉いさん達と薬学研究の人たちがかなりのスピードで姉ちゃんに魔力を与えだしてるらしい。姉ちゃんはもう魔法使いを元の世界に返してやれるポテンシャルがある。「戻ってくる気があるのならゲートを作る」と部屋に篭った。


8月9日(晴れ)

 俺たちが魔力回復剤を作り始めて2週間経つ。とうとうというか、やっとというべきか。テレビと新聞に魔法について情報がではじめた。かなり馬鹿にされている。俺はちょっと腹が立ったが、姉ちゃんは「すぐに跪くことになるわ」と微笑み、魔法使いは「ええ、きっと!!」と太鼓もちをしている。お前の技術だっただろうが、いいのかそれでと聞いてみたら真面目な話をされた。

「魔法はね、兵器として管理されている世界だったのですよ。一番最初にそういう管理体制の魔法を作った。だから私たちはここでいう科学者でありながら兵士なのですよ。姉さんは最初に著作権魔法を作った。誰でも使えて誰でも研究できて。技術を進ませるものには得がある。私にはできなかった。彼女は平和でより進歩しやすい世界を作っている。2番目には記憶定着術を作ったけれど、3番目は殺傷禁止魔法を作ったのですよ」

 姉ちゃんが平和主義だとか初めて聞いた。いつもネトゲで嫌いな奴に回復魔法をかけずに殺しているのに。というか、すでに姉ちゃんは大魔法を国にかけていたとは。


8月10日(晴れ)

 俺はてっきり姉ちゃんは魔法使いを帰す魔法を作っているのかと思っていた。けど出来上がったのは何処かで見たことのある部屋だった。この部屋で過ごす1日は現実の1秒だとかいう元ネタがあるのがバレバレで、設定時間が極端な部屋である。姉ちゃんはゲートを作るのは普通に考えて時間がかかりすぎるし、国に売る予定の魔法特許システムの魔法も作らなければならないからだという。著作権魔法といい、この姉は俺が思っているよりも計画性があるらしい。魔法使いはテレビとDVDデッキを持ち込もうとしたが禁止された。俺は勉強なら使っていいらしい。

 魔法使いは結局姉ちゃんについてこの部屋に入り、彼の知る魔法全ての著作権付与を開始した。


8月11日(晴れ)

 姉ちゃんはあの部屋に丸一日篭っていた。夜出てきたところを捕まえたら国に売るシステムと魔法使いの出身地を覗き見る魔法が完成していた。そして超久しぶりと抱きつかれた。200年近く会ってない感覚らしい。そりゃ久しぶりってレベルじゃない。何を見ても何を食べても感動している。母さんにはあの部屋に篭りすぎるのを禁止されたが、朝までには帰還ゲートができるそうだ。


8月12日(ゲリラ豪雨)

 ついに帰還ゲートが完成した。姉ちゃんは何故かあの部屋にゲートを作っていたが。魔法使いは身辺整理と図書館の位置をマッピングしてくると約束して出て行った。

 そして帰ってきた。早すぎだろ。俺の感動を返せ。姉ちゃんは大喜びでまた部屋に篭る。


8月13日(晴れ)

 どうやらあの部屋にゲートを作ったのはわけがあったらしい。姉ちゃんが言うには、あの部屋で起こることは全て時間が歪む。だからあの部屋にあるゲートを通して何年元の世界に魔法使いが帰っていても向こうで年を取る事もなく帰ってこれるようだ。普通の場所に作らなかったのは身辺整理がどれだけかかるかわからないのと、魔法使いが元の世界で大魔法使いになるという夢を果たして帰ってくることを願ってのことだった。魔法使いは大魔法使いになって記憶定着術で国中の魔法を暗記してきた。そして今日はそれの著作権化の作業を二人で仲良く行っている。こいつら一体百年単位で何やってるんだ。


8月14日(晴れ)

 うちに坊さんが来る。魔法使い興味津々。そして坊主に魔法を見せる。坊さんも興味津々。そのうち寺に遊びに行く約束をしていた。何やってるんだ。


8月15日(晴れ)

 迎え火の時には部屋に篭っていた二人だが、送り火にはちゃんと出てきた。そしてこの二人、送り火を魔法で点火しやがった。家の前がキャンプファイヤーになる。消防隊員さんに家族みんなで頭を下げる。夏休みの思い出として一番シュールだと思う。


8月16日(晴れ)

 世の中まだ休暇中だと思うのだが製薬会社の人が来た。姉ちゃんは金を払うのであればどのメーカーでも作れるようにする、むしろ一極集中していい薬ではないと追い返す。販売権を分散して日本を魔道国家にするらしい。そんでもって巷の休暇に来る無粋な奴には売らんと。この国の科学が心配になったがそれもおいていくわけがないと笑われた。姉ちゃん曰く「ドワーフ国家みたいな」とか。何百年離れても姉ちゃんはネトゲ脳が記憶定着されている。


8月17日(晴れ) 

 姉ちゃんは国に魔法を売りにいった。もう姉ちゃんの手を離れて国会で予算をつけて運営するらしい。仕事が早すぎて大混乱が起きたと笑っていた。

 それで姉ちゃん、次は魔法使いの国籍を作る活動に入った。俺は見ていないけれど朝一番に「娘さんをください」を魔法使いがやらかしたらしい。見たかったような見ずにすんでよかったような。もう何百年の付き合いなんだからおかしくない気がする。けど両親には数日の出来事である。父さんは今までにないくらいの蛇行飛行で通勤したそうな


8月18日(晴れ)

 魔法使いがこちらに住むに当たり国籍はまだだが家を用意するそうだ。観光ではなく、住居探しになろうとは。姉ちゃんは今月いっぱいまでバイトがあるので出かけた。けど姉ちゃんの預金から豪邸が買えそうだ。魔法使いは姉ちゃんのために実家付近でセキュリティ万全の家に住みたいらしい。セキュリティなんてお前らいるだけで十分だろ。何故か母さんがはしゃいで住宅情報誌をめくっていた。


8月19日(晴れ)

 そろそろ宿題しなきゃなと思い、例の部屋でさくっと仕上げた。現実では数秒のことである。調子に乗って天才を目指そうと参考書を買いに行く。買ってきたら、おそ起きの姉ちゃんに「あの部屋のゲート、右のダイヤルみなさい」と言われる。見てきたら「国会図書館コピー・リアルタイム」「魔法世界図書館コピー・リアルタイム」「魔法世界図書館コピー・帰還時(未来)」と書いてあるダイヤルがついていた。まさかと思い国会図書館に合わせて入ると本なんて一生買わなくていいと思う世界が広がっていた。早く言ってくれよ姉ちゃん。


8月20日(晴れ)

 姉ちゃんはバイトが休みだから魔法使いとデートに出かけた。科学ではなく魔法だけど、「どこへでも扉」を作ったらしい。父さんは更に通勤が楽になった。むしろ姉ちゃんの財産でもう働かなくていいと思う。


8月21日(晴れ)

 両親が折れた。折れるのはやすぎ。

 テレビで姉ちゃんが世紀の大魔法使いと出ていた。お茶吹いた。魔法使いは異世界からの魔法伝道神として出ていた。そうめん吹いた。この国の行く末が心配だ。


8月22日(晴れ)

 ネットで我が家が特定されたらしい。魔力回復剤は特許出願中でありまだメーカーによる大規模製造・販売はされていないからだろう。姉ちゃんはバイトにいけなくなって苛立っていたが、30歳この世界基準での魔法使いが「本物の魔法使いになれないのなら俺の人生って」と泣き始めたので販売を開始する。一人にだけ贔屓をするわけにはいかないので我が家の前に近所から借りてきた小学校のテントが設置された。魔力回復剤と姉ちゃん達が作った著作権付与済みの基礎魔法集を販売。


8月23日(晴れ)

 昨日販売したせいか、ネットで我が家と魔法の話題が盛り上がっていた。そして朝には長蛇の列。朝まで気付かなかったが前日から並んでいた人もいるらしい。良く気付かなかったなと思ったら、近所迷惑して売ってもらえなかったり、攻撃魔法をかけられるのが怖かったとか。殺傷禁止魔法が国にかけられていることに気付いていないらしいが、国が発表しないのなら黙っておこう。俺は平和が好きである。

 姉ちゃんはこの混乱からバイト先に頼んでちょっと早めの退職ができたそうだ。学校が始まるまでこれで稼いでやると躍起になっていた。この前国から大量にお金は貰ったじゃないかというと、あれは魔法科学機関を作る資金らしい。

 やる気になった姉と魔法使いは例の部屋に篭る。聞いたらあの部屋の中に更に同じ機能のかごを用意してかべちょろ大量飼育をはじめたそうだ。気持ち悪い。生産も中でさくさくしている。俺がそれを家の前で売る。

 俺がいるテントは魔法で涼しくしてあるが並んでいる人が熱中症になって倒れるアクシデントがあった。姉ちゃんはあの時と同じくスポーツドリンクを飲ませる。しかしちょっと学習しているのか治療魔法もかけた。姉が数百年の魔法人生の中で学んだのがアレだけであると考えると切なくなった。


8月24日(雨)

 夏休みももうあと少し。毎年だるい日記だが今年はネタが大量にあったおかげで苦労しないな。

 姉ちゃんは毎日こんな販売やってられないと音を上げた。早すぎると思ったがあの部屋を利用しているのでまた百年労働だったのかもしれない。魔法使いは外で見た自動販売機でインスピレーションを得たらしく、姉ちゃんに販売機を作ろうと持ちかけた。大魔法使いが二人もいるのであっという間に完成。生産まで自動化して組み込んだ。それで俺のバイトは終了した。十分稼いだが少し惜しい。

 時間ができた姉ちゃんたちは盆に来ていた坊さんの寺に遊びに行く。そして何故か夜には坊さんを連れて帰ってきた。どうやら新しい神聖魔法のアイデアがこの坊さんに詰まっているそうだ。あの部屋に連れて行ってすぐ出てきた。またスピード完成だ。坊さんは楽しそうに「どこへでも扉」で帰っていった。両親と俺には何が起きたのかさっぱりだったが当人たちは満足そうだ。


8月25日(晴れ)

 魔法使いと姉ちゃんに言われて、家族で仏間に集まる。新たな神聖魔法で死者と会話できるらしい。元々生き返らせたりゾンビ化魔法はあったらしいがそれはこの世界に良くないと姉ちゃんが世界に魔法で禁止をかけたそうな。それ国に黙ってていいのかよと思ったが姉ちゃんのことだからそういう利権関係も手を売ってることだろうと言うのは止めた。

 そんなわけで祖父ちゃん祖母ちゃんを呼ぶことになった。この世界には輪廻転生概念があるから他人にもう生まれ変わっていて、祖父ちゃんたちの魂ではなく、魂の記憶と話す、とかいっていた。よくわからないが呼び出したら母さんが泣いた。父さんも目が潤んでいた。なんとなく親孝行な魔法を作ったなと大魔法使いの二人を少し尊敬する。

 だがしかし、いい話はそこまでだった。祖父ちゃん祖母ちゃんは曾祖父ちゃん曾祖母ちゃんと話たがる。そして曾祖父ちゃん曾祖母ちゃんたちは、と、エンドレス。10代くらい遡ったところで両親は退席して、順次若いのは退席するという形が生まれた。朝まで大魔法使いたちは酷使されていた。俺はこの魔法覚えたくない。


8月26日(ゲリラ豪雨)

 昨日の疲れがでていた大魔法使いたちは昼に坊主の寺まで「どこへでも扉」で様子を見に行った。そして坊主を連れ帰る。坊さんも寺で自分の親を呼び出して大変なことになっていたらしい。一般住宅と違って寺の本堂は広いので誰も帰らず、しかも皆坊主であるため説教や読経チェックを延々とされたんだとか。坊主のご先祖様たちなのに「生きて地獄を見た」と語る。加えて月命日には呼べと多数申し込みがあるとか。ご愁傷様です。


8月27日(晴れ)

 宿題は終わったと思っていたが、自由研究を忘れていた。ある程度魔法は使えるし、使えないものも大魔法使いが二人も装備されている我が家だったものですっかり終わった気でいた。姉ちゃんに泣きついたら初級魔道書(姉ちゃん作)を渡される。私もすっかり忘れていたわとか言いながら俺の魔力タンクの増設もしてくれた。そしてそれも満タンに。至れり尽くせりで助かります。これで俺も大魔法使いに、なんて思っていたら「初級くらいは全部やりきって研究レポをかくといいわ」と例の部屋に突っ込まれた。俺は泣きながら現存初級マスターを成し遂げた。宿題は終わったが、「夏休みのうちにやりきってしまいなさい」と中級と上級の魔道書を15冊も渡される。この上には最上級と姉ちゃん直伝プロテクト付きオリジナル全集もあるらしい。プロテクト付きは血脈限定とかいうものらしく姉ちゃんの子孫か俺の子孫しか受け継げないと説明された。プレッシャーを感じる。そしてその話を聞いた魔法使いも自分も作ると言い出す。姉ちゃんと魔法使いが結婚したらその子孫が哀れでならない。例の部屋ないと一生かかっても覚え切れん。


8月28日( わからん)

 昨日のプレッシャーにより俺は例の部屋に篭って大魔法使いになった。ちょこちょこトイレに行ったりはしていたが夕方両親を確認して泣けた。150年ぶりくらいだ。世界は美しい。母さんに俺も長時間引きこもり禁止を言い渡される。ありがとう。望んで入ったわけではないのだ。身の保障をされた気分である。


8月29日(晴れ)

 友達のところに行く。懐かしい。彼の家にはうちの前にある自販機で買った魔力回復剤の空き瓶が大量にあった。かなりの量のごみだったので回収して帰る。姉ちゃんにゴミ問題を持ち出したら自販機を改造して空き瓶消滅も機能に入れた。俺も大魔法使いになれたのに格が違いすぎる。姉ちゃんは魔道具初級の本をそっと差し出した(勿論姉ちゃん作)。


8月30日(晴れ)

 夏休みも最後だしと家族で出かけることになった。「どこへでも扉」があるので一日世界一周旅行だ。まるで情緒がない。そして不法入国だ。姉ちゃんにいったら扉にパスポートとビザを認識させる装置でもつけるかと言い出した。なんか知らないうちに魔法から魔道具になっていて機能もつけられるし販売予定もあるそうだ。知らないうちに何やってるんだ。

 魔法使いはあちこち見て回ったがヨーロッパ圏はあまりお気に召さなかったらしい。古い建物を大事にしている文化が元の世界で掃除をサボった建物に見えるそうだ。魔法で掃除しそうになって慌てて止めた。いつまでたっても出来上がらない教会も設計図を出せ、作ってやると言い出す。人の手で創るからこそ感動があるのだと止めた。両親はそんな魔法使いを見て、じゃあうちリフォームして魔法屋敷にしようと持ちかける。魔法使いがやる気になったのが怖い。


8月31日(晴れ)

 夏休みも最後だ。そんな本日、目が覚めたら家が魔法屋敷に変わっていた。早速すぎる。オール電化ならぬオール魔力住宅になったそうだ。母さん大喜び。

 父さんが姉ちゃんに大学に行くのなら国籍が出来次第魔法使いと結婚しても良いと言った。8月いっぱいという約束だったので魔法使いはすでに9月から別の家に住むことになっていた。離れて暮らすことになるとちょっと落ち込んでいた姉ちゃんは大喜び。魔法使いが喜びすぎて鼻血を出してぶっ倒れるハプニングが発生したが取り消しはされていない。

 なんだか忙しい夏休みだったが、今年は何かと思い出に残る年だった。体感1ヶ月じゃすまないし。学校がこんなに懐かしくなるとは思わなかった。うん、楽しかった。



●その後

・魔法使い

 無事国籍を手に入れる。魔法使いを他国に取られないよう慌てた政府の働きによりかなり早い。おかげさまで姉、大学在籍時に入籍。近所の住まいも派手な魔改造を施し、気付けば魔法住宅設計士になっていた。

・姉ちゃん

 かなりの特許をとりまくる。魔法も科学も愛し近未来ごちゃまぜ世界を目指している。彼女の野望は尽きることなく、ライトノベルといたちごっこをしているそうな。魔法を使用した派手な結婚式をした世界初の人。子どもも3人できたが全員例の部屋で英才教育をした。

・俺

 姉ちゃんに追いつこうと頑張る。だがぶっ飛んだ姉には発想力が敵わない。努力の成果は最年少で初代魔法大臣という形に。終わりなき新魔法取得の日々により晩婚。本人曰く「姉の呪い」

・父さん

 組織的に魔力回復剤を初めて売った人物。そのため魔法薬メーカーを立ち上げたら妙に名高くなる。この人生婿のもたらしたものがでかいとはわかっているが素直にはなれない。無駄に取得資格が多い。

・母さん

 娘は早く結婚できたのに息子の結婚が遅いことをずっと気にしていた。魔法使いの世界でお見合いして来いと提案する。姉の思考回路はこの母の血なのかもしれない。そしてそれが意外と成功に結びついた。

・日本

 堂々と魔法大国になった。法律のほとんどを魔法制約でコントロールする手法を世界ではじめて導入。ただ他国を干渉しちゃいけないので魔法関連の輸出をするときには忠告だけはした。魔法だけでなく姉ちゃんが科学も頑張れと表立って言っていたのでそっちも退化するどころかちょっとSFに進化。未来を生きている不思議の国という認知。

・世界

 日本の魔改造に驚く。そして追いつくために父さんが輸出する魔法薬自販機をこぞって入手。しかし姉プロテクトの前に解体できず。魔法も気になるがこれ耐久値どうよと自販機をあれこれしたりもした。日本の忠告があったため早くに手に入れた国は法律魔法も作ろうとするが魔法事件発生に間に合わず。結局外注したら姉が1日で作ってくれました(チート部屋にて)。国力的に余裕がない国は魔法自体禁止にしてシャットアウトするところも。多くはチート部屋や記憶定着などの恩恵がないもののちょっと頑張る。でもあの国怖い。そして姉超怖い。なんなのあの魔女、と夫と弟。

・銀行

 あの一家の恐ろしい口座と貸金庫は魔法で四次元にされました。自販機の収益は直接転送されるので毎日ここで両替と帳簿つけをさせられる担当がいるらしい。外為担当はせめて国別にしてと言い出せるまで1週間かかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです!姉ちゃんの背中から悪魔の翼と頭から長い角が生えて超高笑いしている光景が目に浮かんだw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ