61、Virus
「お前は……………」
俺の目の前に立っている人間、それは、
「【逆風】」
「ああ。俺は【逆風】だ。プレイヤーであった時の名前だったがな」
「やっぱり、やっぱりな。お前だとは思っていた。色んなシーンでお前が犯人だという証拠が隠されていたんだよ」
「へえ」
「一つ目は、≪免罪符≫でお前が死ぬ前、いや、死んだ扱いになる前の会話だ。俺がいなかったときも、俺はずっと聞いてたんだよ。【常闇】がゲームの主催者の話をする時だ。お前は主催者の名前が挙がるとき、慌てて遮ったじゃないか。「解っている。私はもう主催者の正体を知っている」ってな。どうしてそんなに慌てる必要があるんだ?あれはどう見ても主催者の顔だったね。
それで二つ目だ。俺が去った後の会話。それも聞いてたんだ。【常闇】の台詞で「お前も気付いているんじゃないのか?」ってあっただろ?覚えてるか?その意味を俺は受け取れた。あの時免罪符をお前に見せたのは、主催者であるお前を殺す、ということを意味していたんじゃないのか?」
【逆風】は少し考えるような素振りを見せてから、しばらくして喋り出す。
「正解だ。あのときから俺は主催者だった」
「でもな、ひとつ気になることがある。いや、二つか。
ひとつ目だ。お前の一人称について。お前は最初は、私、と自分のことを言っていたな。だが今、俺、と言っている。そこが気になったんだ」
「俺が犯人だとばれにくくするためだ。それで、二つ目は?」
「死んだ状態からどうやってここに戻ったかということだ。それが一番気になる」
「ああ、それか。それはな、この牢獄内の時間と空間を操作できる機械を使った。それで、空間を操って銃弾を適当な所に飛ばし、あらかじめ用意しておいた地の利を打たれた所に移動させておいたんだよ。それで充分か?」
やっぱり、主催者はそういう設備を用意してあるんだな。空間を操る?それはつまり、俺を簡単に殺せるということか?
「言いたいことはそれで終わりか?終わりならいい。終わりなら、俺と最後のゲームをしよう」
「最後のゲーム?」
「ゲームといっても、一方的だ。俺がお前を殺す。それだけだ。このゲームは最終的に全員死ぬんだよ!誰一人として生き残ることは出来ない!!」
俺は包丁を構えたまま動こうとする。が、体が全然進んでいない。動いてはいるが、前に全く進んでいないのだ。
「なんだこれ、どういうことだ」
「言っただろう?俺は空間を操れる。お前の抵抗など簡単に封じられる」
嘘だ。じゃあ俺はここで死ぬのか?生き残ったと思ったのに。倉庫の扉を開けた。手を抉ってまで開けた。それが全部、無駄だったのか?
「嘘だろ」
「お前はここで終わりだ」
【逆風】が銃を取り出し、引き金を引く準備をしている。俺は死ぬ。今にも死にそうだ。絶望感が俺を押しつぶそうとしている。心ももたない。
「最後に、言い残したことは?」
「……」
「ないならそのまま死ね!」
俺は死を覚悟した。といっても、ゲームに参加させられた時からだが。
俺はもう死ぬ。生き残る術はない。目を瞑った。
********
いつまで経っても俺は死なない。何故だ?ヤツはまだ引き金を引かないのか?俺を殺すことが目的だったんじゃなかったのか?
身体に生暖かい水のようなものがかかっているのは感じる。ん?それってまさか…、
俺は目を開く。
「え!?」
驚きのあまり声をあげてしまった。
俺の目の前に倒れているのは、【逆風】。まだ生きているようだ。
「く……、おのれ……、【無情】……!」
【逆風】の代わりに立っているのは、【無情】と呼ばれた男だった。
「【無情】、か。確かに、俺は今まで【無情】という名でお前に従っていた。というか、最初からそうだった。お前に従う前もな。だがな、今の俺は【無情】じゃない。
【災禍】だ」
「え?」
「俺は【災禍】。このゲームを仕組んだ真犯人だ」
会話がよく解らない。【逆風】は黒幕で、【災禍】は真の黒幕ということか?
「待て……、【災禍】は……、本物の【災禍】は……どこだ」
「【災禍】は、死んだ。殺されたんだ。【不明】が記憶を失う前にな」
「じゃあ、いままでのお前の【災禍】とのやりとりは、全て嘘だったと言うのか」
「ああ。【災禍】はあの時いなかった。電話をしたのも嘘だ。全て俺の判断だ。ゲームに【不明】を参加させたのも、俺の判断。【災禍】を殺したヤツだからだ」
【災禍】は【不明】に殺されて、【無情】が【災禍】の名を引き継いだ?
「何だ……、お前は……、最初からこうするつもりで……」
「違うな。お前が契約内容を飲み込まなかったからだ。お前の復讐の手伝いをする代わりに、生き残ったプレイヤーを差し出す。お前はそれを途中で破棄した」
「全て、俺が蒔いた種なのか」
「そうだ。全てお前が悪い。お前は俺とのゲームに負けた。敗者は不要だ。闇の中に消えろ」
【逆風】の体のパーツがどんどん離れていく。血管は繋がっているが、皮膚とか筋肉とかが離れる。
やがて、血管が全て切れた。そこから豪雨のように血が噴き出す。
【逆風】はバラバラになって倒れた。【災禍】は次に、俺のほうへ向かって来る。俺は包丁を持つ手を固めた。
「【黒雲】、といったな。よくぞ生き残った。お前には最後に、これからどうするかを選択してもらう」
最後の選択?まだ俺は生き残れるかわからないっていうことか?




