60、冷凍倉庫大迷宮
扉の奥はまた扉があった。簡単に開く。
その後も廊下が続いている。走る。だが、体が思うように動かない。腹が減った。何も食べていない。あるものといえば、水しかない。水だけではエネルギーにならない。
今はここから出ることを考えよう。
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【黒雲】が最後だ。こいつを殺せば俺が殺したいヤツは全員。あと少しだ。あと少しであいつは死ぬ。待っていても死ぬだろう。が、あいつがそれなりの実力を持っているなら、俺と会うことができるだろう。
さて、俺に会うための最後の試練が始まる。
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廊下を歩き続けると、大きな扉があった。金属製だ。
触ると冷たい。凍傷を起こしそうだ。これでは開けられない。何か、何か手袋の代わりになるものはないか。俺は袋を漁る。
あった。これだ。包帯。これを手に巻けば、いくらか冷たさは抑えられるだろう。包帯を右手に巻けるだけ巻いた。それから、取っ手に手を掛けて、引く。
ぎぃぃぃぃ
扉は重い。
開けられると同時に、強烈な冷気が噴き出してくる。凍えそうだ。
仕方なく、中に入る。寒い。いや、これは寒いとか言うレベルじゃない。極寒の場所だ。ここに何分もいたら死ぬ。主催者はこんな所で何をさせようとしているんだ?
ガタン
扉が閉まった。開けようとするが、開かない。ロックされた。出られない。
不意に、声が聞こえた。
「【黒雲】、ここから抜け出せたら、俺に会わせてやろう。そこは冷凍倉庫だ。だが、ただの冷凍倉庫ではない。中が迷路になっている。簡単に出ることは出来ない。が、出ないとお前は死ぬ。必ずだ。死を回避するには、この迷宮を突破してみよ。【黒雲】、お前が俺に会う資格を持っているか、試させてもらう」
ヤツの声が倉庫中に響く。俺は、理解できなかった。
迷宮。この中は迷宮。出られるか解らない。出られないかもしれない。出られなかったら死ぬ。出られなかったら、俺がゲームに生き残った意味がなくなる。死ぬ。意味がなくなる。死んだら俺はいなくなる。死ぬ。死。死を回避する。出る。
ますます頭が混乱してきた。こんな寒い中では頭が働かない。このままでは死ぬ。だがどうすればいい?
頭より先に体が動いた。本能的に。もたもたしてたら死ぬ。死を回避するためには、出るしかない。とにかく動く。ゴールを探すためには、そうするしかない。
しばらく歩いた。行き止まりだ。元来た道を戻る。
別の道に進む。行き止まりだ。戻る。違う道。行き止まり。戻る。もうひとつの道。三つの分岐路。進む。壁にぶち当たる。戻る。道を変える。今度もダメだ。もうひとつ残った道。正規ルートだ。先がある。
ダメだ。こんなことしていたら体の限界が先に来る。死ぬ。意識も薄れてきた。でも進むしかない。
視界が霞む。進むしかない。
どうしたら抜けられるんだ。
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辿り着いた。とうとう辿り着いた。ここまで来るのに何分かかったのか解らない。すごく長い時間だったような気がする。体が勝手に動いてここまで来た。
だが、目の前は扉。開けようとしても、開かない。死にそうだ。
そこで、声が聞こえた。
「【黒雲】、ゴールまで辿り着いたようだな。だが、その扉は閉ざされている。扉を開くには、鍵が必要だ。その鍵は、お前の左手の中に埋め込まれている。手の平のほうだな。鍵を取りたければ、自分で取るがいい。以上だ」
俺の意識が完全に目覚める。ヤツの声で全てが蘇った。
手の平に鍵が埋め込まれている。そんなことがあるだろうか。あってたまるだろうか。俺は手の平に埋め込まれた鍵を、なんとかして取り出さなければいけない。が、手に穴を空けられる道具なんて……、
「あった」
包丁があった。これで、これで手の肉を刳りぬけっていうのか?自分で?ヤツは、ヤツは本当に人間なのか?これは人間が考えることなのか?考えても、実行するのか?ありえない。考えられない。
今は仕方がない。生きるためには、鍵を取り出すしかない。第一、左手がダメになろうとも、生きることはできる。そう思ったときには、実行していた。
「ああああああ!!!」
刃が手に入っていくのがよく解る。同時に激痛。手の平から血が飛ぶ。少しだけだが、痛いのには変わらない。
やめたい。やめたいと思ったが、体がいうことを聞かない。まるで操られているみたいだ。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」
小さな塊が床に落ちた。足にも、温かい液体がかかっている。が、しばらくすると凍った。
まだ鍵は出てこないのか。俺はもっと深いところまで包丁を入れた。
「ぐぅぅぅぁぁぁぁぁ!!!!」
何かが落ちた。鍵だ。鍵が出てきた。俺は、痛む左手のやり場に困った。とりあえず包丁を捨て、包帯で左手を巻いた。このために包帯が用意されてあったのか。
右手で鍵を扉の鍵穴に差し込む。手が震えて差し込みづらい。何とか入れて回した。押すと、扉が開いた。これで出られる。
俺がそこで見た人間は、
「よくここまで来た。俺を覚えているか?」
まさか、コイツが…………




