57、Ashes
俺は、【名無】のいる部屋の扉に背中をつけている。【名無】は部屋の真ん中だ。
「【常闇】、こんなことをして俺をどうするつもりだ」
【名無】は、包帯で足と手首を縛られて身動きが出来ないようになっていて、おまけに三重の目隠しまでされている。全て俺がやったことだ。それも、解っていたからだ。
さっき、明かりを消してみた。すると、床に文字が書かれている。夜光塗料だ。確か、火、だった。
「お前は死ぬよ。逃れることはできない」
道具も全て奪った。
明かりを点けてから、【名無】が来た。解っていた俺は【名無】の自由を奪い、部屋の真ん中に放置。俺は扉の近く。すぐに逃げられるようにするためだ。
「もうすぐだ。あと二分でお前は死ぬ。何か、言い残したことは?」
「ふざけんじゃねえ!!お前の勝手で俺の命が無駄にされてたまるか!!俺は生き残る!!お前なんかに構っている暇はねえんだよ!!」
「随分と威勢のいいことだ。というよりも、少し錯乱気味だな」
「うるせえ!!俺よりもお前の方が数倍は狂っている!!数倍じゃきかねえ、数十倍だ!!」
「そんなことはどうでもいいだろう。あと一分だ」
【名無】はようやく大人しくなった。抵抗は無駄だと悟ったのだろうか。
あと三十秒だ。三十秒でこいつの命は絶たれる。俺はすぐに逃げられるように、扉を開く。
「あと何秒だ?」
「残念だ。あと六秒」
言い終えたところで、サイレンが鳴った。やかましい。発火五秒前に鳴るようになっているのだろう。俺は部屋の外に出る。
「うあああああああ!!!!!死ぬのか!!?俺は死ぬのか!!?うああああああああ!!!!!」
ガタン
鉄格子のシャッターが落とされた。これで部屋は焼ける。中にいるプレイヤーが逃げ出すこともない。
ゴト
続いて、何もかもをシャットアウトするようなシャッターも落とされた。これでは部屋の様子が見えない。
「ぎああああああああ!!!!!」
【名無】の悲鳴が聞こえる。発火装置が作動したのだろう。熱がこちらにも伝わってくる。
「ぎゃああああああ!!!!助けろ!!!誰でもいいから俺を助けろ!!!ああああああああ!!!!!!」
重いシャッター越しに、【名無】の悲鳴が聞こえる。
「あああああ、あああああ!!!!ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
この分だと長くは持ちそうにない。
「ぁぁぁぁぁぁぁ」
突然、音が途切れた。もう死んだか。あの中では死体の焼却作業が行われていて、【名無】は原形を全くとどめていない醜い姿のまま灰になるんだろうな。
「十分の経過により、部屋がひとつ閉鎖された。残りの部屋は十五」
ヤツの声が聞こえる。このゲームを行っているのはヤツだ。
いつまでもここにいてもどうしようもないな。何処かに行くか。
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【名無】が死んだか。残り三人か。
「入るぞ、【最悪】」
【無情】が戻ってきた。
「契約は破棄だそうだ。【災禍】から連絡があった。お前はいつ殺されてもおかしくない」
「そうか」
俺は適当に返事をした。
「早速一人死んだか。残りのプレイヤーは三人、いや、お前を合わせれば四人か」
「俺はすでに死んだ扱いになっている。もうプレイヤーではない」
「そういえば、契約は破棄だそうだぞ」
「それはさっきも聞いた」
「何か反応を示せよ」
「別に、反応することがない」
俺は興味の無さそうな返事をして、目の前のモニターから目を離さないようにしていた。
「【災禍】がお前を殺しに来るぞ。ゲームが終了する前にだ」
「それは困るな」
はっきりいって、【災禍】のことなどどうでもよかった。話を聞く気にもなれない。
「本当に困っているのか?困っていそうだが、お前は何も感じていないように見えるな」
「どうでもいい」
俺が気付かないうちに、【無情】は部屋からいなくなっていた。
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生き残れない。俺はそう思った。【常闇】という脅威がある。【不明】という強敵がいる。【名無】が死んだ。俺には、何にもない。
俺はただひとり、部屋で立ち尽くしていた。
やったーやったー【名無】が死んだー。いちいち名無しって変換してから「し」消すの面倒くさかったんですよ。よかった。でももっと早く死なせておけば良かった。




