55、【常闇】② 昼夜の試練
起きたら、白い壁に囲まれた部屋だった。さっきのゲームの部屋と同じような造り。ドアはひとつ。やはり引き戸。扉の近くにスイッチ。
俺は扉に手を掛ける。
目に文字が飛び込んできた。
『よく考えて入れ』
俺は迷わず扉を開ける。真っ暗だ。スイッチは多分、部屋の照明の点灯のために取り付けられたものだろう。俺はスイッチを押し、部屋の明かりをつける。
二つ目の部屋に入ると、何かが落ちるような音がした。振り返ると、扉の前に鉄製のシャッターが下ろされている。
部屋は、大分広かった。それに、扉が数え切れないくらいにある。五十はあるだろうか。いや、それ以上だ。これじゃ、どれが本物の扉かわからない。
そこで、声が聞こえた。
「やあ【常闇】。お前にはゲームをする前に、ここを抜けてもらう。この部屋には、八十の扉がある。それはひとつ以外は同じ所に繋がっている。が、もうひとつの扉の奥には、次のゲームの舞台がある。それが正解というわけだ。ちなみに、扉を開けた後の廊下の造りはすべて同じで、開けただけではどの扉が正解かはわからない。つまり、正解かを確かめるには、廊下の奥に進まなければいけない。だが、チャンスは一度きりだ。一度部屋の外に出たら部屋へは戻れなくなる。一発で正解の扉の奥に進まなければいけないというわけだ。解ったな?それで、制限時間は三分。三分が経過したら、この部屋は閉ざされる。
お前にヒントをやろうか。そうだな、お前の名前の意味をよく考えてみろ。それがヒントだ。それでは、ゲーム開始」
八十?八十の扉の中から正解を一発で当てろって?無理だ。無理に決まってるじゃないか。ヒントだってよく解らない。自分の名前か。俺の名前は、一体。意味は特にないだろう。適当につけられたに違いない。じゃあ何だ?名前?俺に他の名前なんてあったか?思い出せ。何か答えがあるはずだ。
そういえばこの部屋に入る前に、『よく考えて入れ』って書いてある扉があったな。あれはなんだったんだ?
俺の名前。思い出すんだ。そうしなければゲームには勝てない。そういえば、やつは最初に俺の名前を言った。何だったっけ。よく思い出せない。それほど頭がおかしくなっているというのか。
あ、思い出した。
【常闇】。それが、俺のプレイヤーネームだった。どういう意味だ?思考ができない。
『よく考えて入れ』と重ね合わせて考えてみろ。あの文字の近くにはスイッチ。照明の点灯。
俺の名前に使われている漢字。常に闇。それだけじゃ解らない。それがどうしたって言うんだ?俺は闇の中で生きていけって?じゃあ『よく考えて入れ』ってどういうことだ?スイッチがあった。照明を点灯するためのスイッチだった。その近くに、『よく考えて入れ』。入ったら元の部屋には戻れなくなった。スイッチはこの部屋にない。さっきの部屋にしかない。戻れない。照明のコントロールができない。電気は点いたまま。『よく考えて入れ』。照明が点いている状態で入るか点いていない状態で入るか。
ますます頭が混乱してきた。どういう意味だ?『よく考えて入れ』ってどういう意味だ?照明のことを言っているのは間違い無さそうだが、意図がつかめない。照明を点けて入れってことか?そんなこと誰にも解るだろう。他にも何か意味があるはず。
「あと一分三十秒」
時間がない。
常に闇。『よく考えて入れ』。照明。この三つか。これらは何を意味しているんだ?
もう一度整理してみよう。常に闇。つまり、俺が今必要としているのは闇ということになる。だが照明を点けてしまった以上、元の状態には戻せない。『よく考えて入れ』とは、このことを意味していたのか。だとすれば、正解の扉は、部屋が暗くなっているときにしか解らないのか。だったら無理だ。
「あと四十五秒」
だが、俺は正解の扉を見つけられる。あれがある。特殊能力だ。部屋の明かりを消せる。一か八かだ。これで答えが間違っていれば、俺に勝ち目はない。だが、これ以外の方法はない。試すしかない。
俺は携帯端末のメニュー画面を開き、特殊能力と書いてあるところに触る。部屋が真っ暗になった。
「あと三十秒」
俺は部屋の中を見渡す。何かないか。
あった。緑色に光っている文字。『正解』だ。あそこが正解の扉。
「あと十秒」
駆け込め。
「五」
もう少しだ。
「四」
取っ手が見つからない。暗いからだ。
「三」
見つかった。
「二」
引け。
「一」
開いた。
「零」
シャッターが下りてきた。潜り抜けろ。
「タイムオーバーだ」
シャッターが下り、部屋が閉ざされた。だが、
「見事だ【常闇】。お前はここを抜けた」
俺は生き残った。正解の扉を開け、部屋の外に出たのだ。
「舞台はこの奥だ」
俺は、薄暗い廊下を早足で進んだ。
しばらく進むと、また扉だ。開くと、明るい。だが、部屋の中は何もない。ゲームが終了した後に集合する待合室みたいな所だ。というか、そうだ。全く同じ。ここからどこかわけの解らないところへ転送される。牢獄であることは間違いないんだろうが、違うフロアに転送されるのだ。
「ご苦労。では、健闘を祈る」
目の前が真っ暗になった。




