53、禍
もうすぐ試験勉強期間でPCが封印されるので早く完結させないと。とか書きながらどうでもよさそうな話を書きました。
「一見完璧に見えるこの世界の、唯一の欠点」
【災禍】は話し始めた。
「人間の欲望」
いくらか納得はいく。当たり前のことだ。
「人間は欲に駆られて行動する。それは私も同じだ。金が欲しければ金があるところに行き、やりたいことがあればそれをする。私は、短所を長所にしたい。だから、このゲームを行う」
短所とは、恐らく「人間の欲望」のことなのだろう。長所というのがいまいちよく解らないが。
「この世界の欠点である欲望が、短所から長所に変わる。欲があるということ自体は悪いことではない。だが問題は、何を欲するか、だ。私が望むのは、人々が平和を望むこと」
「やはり、矛盾しているのでは」
「ああ。私の言っていることとやっていることは、明らかに矛盾している。だが重要なのは、その矛盾をいかにして覆すか、というところだ。私はこのゲームを通じて、人々に平和を望んでもらいたい。もちろん、私の行うゲームには、平和の文字はどこにも存在しない。殺伐。絶望。狂気。それしかない。だから、その状況に置かれてこそ、いつもの平和な日常を大切に思うのだ。それが、去年の私の考えだ。もちろん、今もそういう考えで動いている」
【災禍】は昨日よりは落ち着いた話し方をしている。
「それで、ゲームに生き残ったプレイヤーには、このゲームの真の意味を理解してもらい、ここで私の下僕として働くか、それともいつもの生活に戻るか、選んでもらう。それが今の君の状態だ」
「俺はここで働く気があります。そうするしかありません。それで何故俺を下僕として迎えないんですか」
「それは、まだ君がそうなれる状態ではないからだ。まだ君はこのゲームの全てを知っていない」
俺は俯いた。
「しばらくの間は、私の話を大人しく聞いていてくれ。そして理解してくれ。これは試験だ。君に対する登用試験だ。そう思ってくれ」
その後も、【災禍】は話し続け、俺はそれを聴いていた。俺は、最初に話を聞いたときから【災禍】の味方につくつもりだったから、こんなものは無意味だった。だが【災禍】は用心深い。何処かで自分の味方についてふりをして、仕返しなんかを企んでいる人間がいないか、こうして確かめている。隠そうとしても、【災禍】には見ただけでばれる。だから、働く気がないと見たものはすぐに追放される。仕返しを企むだけ無駄なことだ。
しばらく話を聞いていると、【災禍】は疲れだしたらしく、話を中断して俺の部屋から出て行った。
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俺はこのゲームの狂信者だ。
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そのあと、何日も、【災禍】の話を聞かされた。別に俺は嫌ではなかったが、ただひとつ不満なことがあった。
どうして俺をすぐに登用してくれないのか。それが不満だった。【災禍】の方にも色々と込み入った事情があるのだろうが、俺にも俺の事情がある。さっさと登用して欲しい。【災禍】にそう言っても、いつも「これは試験だ」と言うだけだ。
今日も【災禍】の話を聞いた。いい加減に疲れてきた。何日もこの部屋に監禁されて、何日も何回も【災禍】の話を聞かされて、気が狂いそうだ。【災禍】はそうして部下を増やしているのかも知れない。俺はすでにこのゲームの、【災禍】の狂信者だ。そんなことしなくてもいい。俺はそれからも何日も話を聞き続けた。
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とうとう、俺が正式に雇われる日が来た。全ての話を聞き終えたのだ。【災禍】は、本当にここで働くかどうかを訊いてきた。
「はい。帰る気はありません」
何年も開かれることのなかった三六七五号室の扉は開け放たれた。




