52、災
【無情】が【災禍】の部下になる前の話。【無情】がゲームに生き残ったあと。
「この国は本当に腐っている」
【災禍】は、そう言った。残念そうな声だ。
「今から十一年前、そうだな、泰邦六年。今の一つ前で、平成の次の年号かな。君はまだ生き返っていないか。そのときに、謎の疫病が流行った。未知のウイルスによるもので、治療法を発見するのは難しかったが、頑張れば発見できたようなものだった。が、当時の医療関係者たちは何も手を打たなかった。見て見ぬふりをした。考えることを放棄した。政治家達も何の問題もないといい、何事もなかったように政治は進められた。消費税の上昇も、強制労働制度も、いつも通り行われた。そんな世の中があっていいと思うか?人々は病で死んでいくんだ。上に立つものはいい暮らしをするんだ。いや、正確には、上にたつものだけが、だな」
【災禍】は言葉を続ける。
「それに嫌気がさした私は、恐怖のゲームを提案した。それが望安九年。私が時空の歪システムを発見した年だ。つまり、一昨年だな。私は気の合う人たちとともに、政治家達を拉致し、死のゲームに参加させた。その効果は絶大だったよ。そいつらは、結構上のほうに立っていたやつらで、あまり良いとはいえないことをしていたやつらだった。が、それに他の政治家は反発できない。絶大な権力を持っていたからだ。それが失われて、この国の政治は大分よくなった。だが、まだ足りない。私は死のゲームを続けた。今度のターゲットは一般人だ。何の関係のない人たちをゲームに参加させ、上のやつらに無力さを実感させたかった。国民を守れない無力さを。だが、それは失敗に終わった。もともと国民のことなんか考えていないやつらだったからだ。このことは発見されてもニュースにもされなかった。ほぼ無意味だった。私はそれが悔しい」
俺は黙って聴いている。
「が、去年、政治を行う者が一新して、政治の様子はもっとよくなった。これで、私のやることはなくなった。そう思ったときだった。去年の冬、犯罪の件数が急激に上がった。原因は解らない。が、実際にそういうことは起こった。気に喰わない。今までいくつもの狂った犯罪をした私は思った。私以外の犯罪者が出るのは好ましくない。私はただ目立ちたいわけではない。兇悪犯罪を通して、この国がこれほど、こんなことが起こるほど腐っているのだ、と示したかった。だがつぎは、犯罪者達に、少しでも恐怖を感じてもらいたかった。被害者側の恐怖。加害者の私がいうのもなんだが、私は、この国を恐怖のどん底に落としたかった。そうして、他人の気持ちというのを考えてもらいたかった。殺人、窃盗、いじめ、などなど、この世界には沢山の問題が、山のように存在している。それを解決するには、未然に防ぐにはどうすればいいか。答えは簡単だ。相手の気持ちを考えればいい。幼稚な考えだとは自分でも思うが、実際そうだとは思う。だからこそ、このゲームを作った。インターネットを通じて世界に発信した。それは、やられる側の気持ちを知ってもらいたいから。プレイヤーの悲痛な叫びや行動を視聴して、ゲームの主催者である私が楽しむ様子を見て、こんなひどいことはないと思ってもらいたいからだ」
だんだん、一度に話す量が多くなっていくのに気付いた。【災禍】は興奮しているのだろう。
「矛盾してると思うか?」
「…。はい」
「君は正直だ」
聞いてて、本当に矛盾していると思う。犯罪をなくすために犯罪をする。そんな馬鹿げた話があるかと思う。効果なんて出るわけがないとも思う。だが、この人の話には、何か魅かれるものがある。
「矛盾しているとは思いますが、悪いとは思っていません」
「なぜ君はそう思う?」
「それは…」
答えられなかった。答えることはいくつもある。が、それがまとまらなければ、何の意味も成さない。それは、答えられなかった自分に対しての言い訳に過ぎないが。
「まあ、今日の話はこれで終わりにしよう。君が私の元で働いてくれるかどうかを決めるのは、君自身だ」
「待ってください」
「何だ?」
「もっと話を聞きたい」
【災禍】は、ゲームの内容や、部下についたときにはどんな仕事があるのか、ということまで、細かく話してくれた。
「金も出る」
「金は要りません」
俺がそう言ったとき、【最下】は驚いていた。
「何故だ」
「必要がないからです」
「どうしてそう思うか」
「金を貰っていても、ここで働く限りでは、必要のないものではありませんか?」
「それはそうだが、君には全くといっていいほど、欲がないな」
「人間らしくないと言いたいわけですか」
「まあ、そういうものだ」
【災禍】は部屋を後にした。俺は、部屋から出る【災禍】を見送っていやることしかできない。それ以前に、この部屋から出ることができない。まだ、俺は【災禍】の元で働くことが認められていないからだ。
三六七五号室。俺の部屋は閉ざされた。




