49、【不明】⑦ 破壊
ゲーム開始直後、【名無】が銃を取った。
「待て待て。とりあえず、今は落ち着こう。この部屋から出るほかの方法が見つかるかも知れない」
その言葉はもちろん適当に放った。少しでも長く生きるためである。
「だったら、お前が見つけて来い。三十分だ。三十分以内にここから出る方法を探せ。見つからなければ殺す」
滅茶苦茶な条件だが、俺自身が招いてしまったことだ。仕方がない。
今気付いたが、この部屋には時計がある。デジタル式のようだ。今は九時三十三分。午前か午後かはわからないが。
とりあえず、この時計が十時三分になるまでは、俺は安全だということだ。それまでには、こいつから逃れる方法を見つけなければならない。
俺は、部屋の中を見渡す。外れた鎖。デジタル時計。白い壁。天井には電球。窓はない。閉ざされた扉。それと、二人のプレイヤー。
「クソッ!」
俺は叫んだ。
「何もねえじゃねえかよっ!!」
鎖は壁に繋がっているため、使い物にはならない。壁はどこを見ても同じ白色で、異変を感じさせる部位はどこにもない。天井には電球ひとつ。そのため、部屋は暗いといえば暗かった。
「あと二十分だ」
俺はそれを聞いて時計を見る。九時四十四分。二十分と言われたが、正確な残り時間は十九分だ。
あと十九分で何かを探す。その何かもわからない。もしかしたら、それはないかも知れない。そんな物を見つけるなんて無理だ。だが、この勝負を仕掛けないよりはマシだった。殺される。挑まなかったら殺される。挑んでも殺される。だから、挑まないよりはマシだ。
――勝てない。
何も見つからない。俺は何も持っていない。【名無】は拳銃を持っている。俺に勝ち目はない。
「あと十分」
時計は九時五十三分。だめだ。時間が解ってしまう。時計があるから、どうしても時間が解る。何か、何か方法はないのか。ないのか?何か、何でもいいから何か。ある。あるはずだ。あるから探し続けたんじゃないか。見つかる。絶対に見つかる。見つけられる。
そうだ。あれだ。あれを捜していた。俺は生き延びられる。あれを、あれを――――
「おい【不明】!何をするんだ!!」
俺がしたのは、
「【不明】!!お前は正気か!?」
破壊すること。
「どうせそれを壊したところでどうにもならないだろう!!」
時計。時計を破壊する。高く持ち上げ、勢い良く床に叩きつける。
ガシャ
ガシャン
液晶部分が割れて、俺の手に刺さった。続いて外側が壊れ、中身が出てくる。
俺はまだ叩き続ける。ここに何か、何かが隠されていると思ったから。
「【不明】!!!」
【名無】が飛び込んでくる。俺はそれをかわす。【名無】の体が床に落ちる。手から拳銃が零れ落ちた。
ガシャン
俺は休まずに時計を壊し続け、ついに、粉々にする事ができた。
はずだったのだが、
「何だよ、これ」
大型の時計の中に埋め込まれていたのは、小型のナイフだ。
「こんなもの、何に使うんだよ」
「【不明】、見つけちまったか」
【名無】が残念そうな声を出して起き上がる。
「どういうことだ?お前はここに刃物が隠されていることを、知っていたのか?」
「ああ。これだ」
【名無】はもうどうでもいいような表情で、一枚の紙切れを出した。
『時計の中』
それしか書いていなかった。
「拳銃に張り付いてたものだ。お前にばれちゃいけないと思って、ずっと隠していた」
これは主催者の言っていた『プレイヤーにとって役立つもの』のヒントだったのだ。
「ん?待てよ。時計の中に隠されているナイフが一つ目の支給品だとしたら、もうひとつは?もうひとつは何だ?この部屋には、何も無い」
他に、何か隠していそうなものは無かった。
「だったら、だったら」
もうひとつの支給品は、
「この紙切れか?」
そうとしか考えられない。他に、この部屋にあるものといえば、この紙切れしかなかったのだ。
「つまり、俺にはこのヒントだけで、【不明】にはナイフが支給されたってことになるのか」
つまりはそういうことだ。
「で、それ、何に使うんだ?」
「…。そうだ。鍵穴に差し込んでみよう」
俺は扉の方へ向かう。
「無駄だ。その扉には、鍵穴が付いていない」
本当だ。多分、電子ロックか何かだろう。俺は諦める。
「そういうことだ。他の方法を探せ、と言っても、もう三十分経ったんだが」
【名無】が落とした銃を拾い、俺に向けた。
キィィィ
その次の瞬間、不意に扉が開く。




