44、不運
主催者の過去が明かされる。これが全ての始まりです。
「あいつは死んだよ」
「え?」
「だから死んだんだって」
目の前の男から発せられた言葉が、俺はどうも理解できなかった。
「あんたの親は死んだ。あいつさえいなければ、私があの寺の和尚になれる。だから死んでも別に私は悲しいとは思わないさ」
男は笑いながら言う。俺はそれを聴きながら、男に見えないところで拳を握っていた。本当は、殴ってやりたかった。殴り殺してやりたかった。
「誰が殺したのかはまだわかっていない。でも、死んだのは事実だ。事実は覆らない」
事実は覆らない。その言葉が俺の脳内を占拠し、聞こえてくるもの、見えるもの、外から入って来る情報の全てを認知できなくなった。
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気付いたら、寺の外にいた。無意識のうちに逃げ出してきたのだろうか。体が重い。
視覚と聴覚は正常に戻ったものの、脳内はやはり、あの男の言葉が占領している。
――事実は覆らない――
俺は重い足取りで家に向かう。
親が死んだ。その事実ひとつが、俺の食欲と睡眠欲、などなど、全ての欲を完全に奪い取っていった。
俺は何も考えられない。何も考えたくない。考えているのは、死んだ親の様子が見たい、死ぬ直前に会えなかった、ということだけだ。
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翌朝、俺は早速外に出る。気分は晴れない。が、動かなければいけない。なぜなら、俺は情報を集めるからだ。親の死因についてな。
町には人がたくさんいる。特に、寺の周りには。人が死んだことを寺の近くで話すのはさすがにどうかとは思うが、情報集めのためだ。
俺は、道行く人から情報をかき集める。
「あそこで、死因を知っていそうな人がいるよ」
「その人の家のほうから騒いでいるような物音が聞こえたけど」
「病死じゃないか?あの人、歳だったから」
詳しいことを知っている人はここにはいない。俺は、最初に話した人が言っていたほうに行ってみる。
「ああ、あの人ね。あれは、毒殺だとは思う」
「は?」
「だから、毒殺」
俺は一瞬、目の前が真っ暗になった気がした。が、気が付けば家にいる。また無意識のうちに家に帰って来た。詳しい話は聞けなかった。話を聞きに行った時は朝だったのに、いつの間にか夜になっている。昨日の夜から何も食べていない。今日も何も食べていない。腹が減った。が、食欲はない。
毒殺。その二文字が俺の脳内を占拠する。事実は覆らない。男の言っていた言葉とも重なる。毒殺。事実は覆らない。毒殺の事実は覆らない。だったら、誰が殺したんだ?いったい、誰が…。
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俺は翌朝も情報をかき集めにいった。誰も知らないような情報を取り扱っている組織にも話を聞きに行った。それで、やっとひとつの情報が手に入った。それも、重要な。
――寺の和尚――
あの男は、寺の和尚になっていた。そいつが、俺の親を殺した。
――事実は覆らない――
そう、事実は覆らない。毒殺の事実は覆らない。あの男が殺したという事実は、覆らない。
――――――事実は覆らない事実は覆らない事実は覆らない事実ハ覆ラナイ事実ハ覆ラナイジジツハクツガエラナイジジツハクツガエラナイジジツハクツガエラナイクツガエラナイクツガエラナイクツガエラナイ――――――
人の命の代償、それも命で埋めなければならない。そう、あの男の命で。
俺は復讐を誓った。無意味な復讐だ。俺があの男に復習することは無理だ。なぜなら、俺は次の日に死んだのだから。




