42、Deletion
【双旋風】は殺された。さっき、携帯端末にメッセージが届いた。宛先が【不明】で、送り主は≪不明≫。よく解らなかった。
今まで、【荒廃】、【逆風】、【双旋風】の三人が殺された。
「なあ、知ってるか?」
「何をだよ」
「【荒廃】、【逆風】、【双旋風】の三人を殺したプレイヤーは、同じだってこと」
「は?」
一瞬、理解ができなかった。
「だから、誰かが三人を殺したってこと」
【文殊】は、特殊能力で他の部屋の様子が見れる。だから、【文殊】はプレイヤーが殺される様子も見ることができる。運が良ければの話だが。
「殺したヤツも解っている」
「誰?」
「【常闇】だ」
【常闇】が三人のプレイヤーを殺したとしても、別におかしくはない。あいつはそういうような人物だってことはだいたい解っていたからな。
それで、【常闇】の特殊能力も知っている。
「で、【常闇】は【逆風】を殺した時、免罪符を奪った。が、そのあとすぐに廊下で落としちまったんだよ。勿体ねえよな」
「敵だからどうでもいい」
「そのあとアイツの移動先の部屋の様子を見ていたんだが、箱のある部屋に入った様子はなかったよ」
【常闇】がプレイヤーを殺しても何も起こらなかったということは、すでに免罪符を所持していて、奪った免罪符を合わせて二枚。そのあと廊下で落とした。
「何枚落としたんだ?」
俺は訊いてみた。
「さあな。よく解らない」
が、俺でも答えはわかる。一枚だ。一枚落とした。【常闇】は一枚しか免罪符を落としていない。理由は簡単。【常闇】は、【逆風】の免罪符を奪った後に、すぐに落とした。つまり、三人目の【双旋風】を殺す前に、免罪符を落とした。が、【双旋風】を殺しても、あいつには何の変化もおきなかった(それらしいメッセージがなかったのでそう判断した)。つまり、【双旋風】を殺す時には、免罪符を一枚以上持っている。が、二枚落とした場合、箱の中の免罪符を捜さなければいけない。が、【常闇】は箱のある部屋に入らず、【双旋風】を殺しに行った。これは一枚落としたとしか考えられない。
まあとにかく、【常闇】が免罪符を持っていることには変わりない。わざわざこんな証明をしなくても、事実は変わらないのだ。というか、解ったところで何の意味もない。
「さて、俺はここらへんで」
俺は部屋から出よう。いい加減に動かないと、何処かに危険が潜んでいるかも知れないからな。というのも嘘で、ただ、【文殊】と離れたかっただけだった。別に得もないし損もないのだが、同じ部屋にいてもどうしようもないし、【常闇】が来れば二人とも殺害対象になるのは目に見えている。それ以前に、【常闇】が来るかどうかの話だが。
「もういくのか」
「違う部屋にね」
「そうじゃない」
「ん?」
【文殊】の言葉に少し違和感を感じる。
「だから、もういくのかって」
ここはやはり危険だ。俺は扉に手を掛け、部屋から逃げようとする。いや、正確には、【文殊】から。
「俺は止めないよ。逃げるなら逃げればいい。死んでも知らないが」
まるで、何かを知っているような言い方。俺が死ぬことを知っているような言い方。
俺は気味が悪くなって部屋から出た。
********
俺は【文殊】から離れてしばらく廊下をあてもなく歩き続けた。すると前から、【割符】と【常闇】がやって来る。といっても、二人は並んで歩いているわけではなく、【常闇】が足音をたてないように【割符】の後ろを歩いているような感じだ。なんとなく不気味な感じがする。
俺はこの空気にとうとう耐え切れなくなって、特殊能力で姿を消した。目の前にいた【割符】は、元々俺に気付いていなかったので、何の反応も見せなかった。が、俺が驚いたのは、【常闇】も同時に姿を消したこと。俺が特殊能力を使うのと同時に、【常闇】は消えた。見えなくなったのだ。俺と同じように。
考えていても、無駄だった。俺は解っていた。【常闇】が姿を消した後にすること。それは決まっている。
よく聞こえなかったが、一瞬、派手な音がしたような気がした。何かが爆発するような音。爆発というよりも、破裂という方が正しいかも知れないが、限りなく爆発に近い音。
聴覚よりも視覚のほうが恐ろしかった。目の前には、頭とその周辺が吹き飛んだ、【割符】が立っていた。そして、前に、倒れる。
壁は真っ赤に彩られていて、床には血の湖ができている。俺はこの地獄のような光景と、激しい吐き気から逃れるため、【文殊】のいた部屋に戻ろうとする。
後ろから、笑い声が聞こえる。さっきから、激しい耳鳴りで、耳が利かない。言葉も発していたようだが、よく聞き取れない。俺は廊下を走って逃げる。
********
【文殊】の部屋についた。部屋の中には、誰もいない。誰もいないという部屋の状態が、俺の不安を更に掻き立てた。
それにしても、おかしい。俺が消えるのと同時に、【常闇】も姿を消した。【常闇】の特殊能力は“明かりを消す”のはずだった。それなのに、姿が消えた。俺の特殊能力と全く同じだった。俺が調べたことなのだが、他のプレイヤーの特殊能力を、そのプレイヤーと同時に使えるプレイヤーは、【逆風】しかいないはずだ。横取りができるのは【逆風】しかいない。が、【常闇】は【逆風】の特殊能力を使った。明らかにおかしい。
あ、待てよ、【常闇】は【逆風】を殺した。
特殊能力は携帯端末のメニュー画面で使用できる。
端末は各プレイヤーがそれぞれ持っている。
ということは、
【常闇】が【逆風】を殺した時、端末を奪っていれば、【常闇】は【逆風】の特殊能力を使える。だったら、
――プレイヤーを殺せば、そのプレイヤーの特殊能力が使えるようになる――
そういうことか。そういうことだったのか。これによって、使える特殊能力が増え、生き残れる可能性が大幅に増える。
すっと気になっていた、端末にパスワードを設定できない理由がわかった。それは、他のプレイヤーにも使えるようにして、殺し合いを誘発させるため。
俺達に殺し合いをさせるためだったんだ。
【割符】、頭を吹っ飛ばされて死亡。惨たらしいですね。
【常闇】がすごく悪人でした。




