8話 レトアルスとは
「ワシ、ふっか~つ!ではまず、この星レトアルスについて説明するぞ。……今度は質問をしたいときにしていいのじゃ」
「学習能力はあるようでなによりだ」
「うぅ……」
「…………」
そんな精霊をジト目で一俊は見る。気まずくなったのか、ごまかすように咳払いを始めた。
「……オ、オホン! まずクレアチオについてじゃ。クレアチオには六つの属性がある。
『イグニス』、『アクア』、『ウェントゥス』、『トニトルス』、『カエルム』、『テムプス』の六つじゃ。そのうち『カエルム』と『テムプス』は希少だった。しかし現在使い手はほとんどおらん」
「どうしてだ? それに、だったら何で俺は『テムプス』なんだ? 素質があったのか?」
「それはこの星の歴史と関係しておる。お主が『テムプス』なのは……ワシには分からん。」
「歴史っていうのは?」
「それはすぐ知る事になるのでな。ワシが今教える必要はない」
「あまり納得いかないが……分かった」
「そしてそれぞれの属性には、その属性の頂点に位置する家系というものがある。……ちなみにこの星では、ワシ達ラレースは偉い存在なのじゃ。そしてラレースは、頂点に位置する家系の者にしか見ることができん」
その説明に一俊は疑問を持った。
「……偉い?」
「そうじゃ! 見直したか?」
「じゃ、何で俺には見える?」
「……ワシは特殊な存在なのでな。そういう事もある」
「……答えがあいまいなことばっかりだな」
「……では続きじゃ。その家系とは、『火賀』、『水池』、『風間』、『雷条』、『空井』、『時沢』じゃ。この星ではこの六家にしか姓に漢字が与えられていない。他の人々は全部カタカナの姓名じゃ」
(……よく分からない星だ……ん?)
「火賀ってこの家か!? 道理でこんなでかい屋敷に住んでるわけだ。……しかも時沢? まさか俺がテムプスを使えるのって、たまたま日本で時沢の名字だったからじゃ……」
「その可能性もあるの。そして、クレアチオは使用するクレアトールの能力によって『1回で操れる量、範囲、質』が決まる。クレアチオは使う度に多少疲れはするが、気を失わない限り何度でも使えるぞ。
ちなみに決まった呪文とかはないが使用するにはイメージが必要なので、大半の人は自分がイメージしやすいように言葉を発するぞ。
こんなもんかの? 言い忘れていた事があったら思い出したら教えるぞい。何か質問は?」
「……適当だな」
「仕方ないじゃろ、いっぱいあるんじゃから。だから分からない事はその時質問せい」
そんな精霊に一俊は呆れるも、質問をする。
「現時点でいくつかあるが、まず1つ目。さっき護衛の人達が使っていた武器みたいなものはなんだ? 剣やら槍に似ていたが、火が出てたぞ……今更ながら、あれでよくビビらなかったな俺」
「あれは『メディアム』というものじゃ。メディアムに自身のクレアチオを使う事で、武器として使用できるのじゃ。例えば剣だったら、刃の部分がクレアチオで構成される。刃の長さは自分で決められるぞ。まさに、自分専用の武器じゃな。一度クレアチオを使ったら、自身が念じるまで消えんという、一回一回クレアチオを使わずにすむ優れものじゃ。剣、槍、戟、その他にもいろいろな種類があるぞ」
一俊には武術の心得などない。
「俺は武器なんて使ったことないけどな……まぁ、ないよりあった方がいいか」
「お主の属性では無理じゃぞ」
「……何で?」
「当然じゃ。そもそもこれは、『イグニス』、『アクア』、『ウェントゥス』、『トニトルス』が希少属性である『カエルム』と『テムプス』に対抗するために作られたものじゃ。どうやって時と空を武器にしろと?」
「……マジか」
「他に何かあるか?」
考える一俊だったが、ふとあることに気づく。
「お前と声に出して会話したり、頭の中に声が聞こえたりする時があるのはなんでだ?」
「お主が一人の時は声に出して会話する。その方が楽しいじゃろ? 誰かが一緒にいる時は声を出さずに会話する。話したい事を思い浮かべれば大丈夫じゃ。じゃから、周囲に人がいる時にワシに話しかけたければ声を出さずともよいぞ。うっかり声に出したら、周りから変なやつじゃと思われるぞ」
(……コイツには言われたくないな……)
「……じゃ、最後に一つ。お前に名前はあるのか?」
「ワシの名前は……『アン』じゃ! ワシにぴったりの可愛らしい名前じゃろ?」
「……似合わん」
「ワシにぴったりではないか! これからはワシを『アン』と呼ぶのじゃ!お主のことは……『ユー』と呼ぶことにしよう」
「……you?」
「ユーじゃ!」
「……なぜそうなったのかを聞いても?」
「呼びやすいからじゃ!」
「……何の関連もないが……まぁいいけど」
とりあえず説明が終わり、一俊がベッドで休んでいると、ドアがノックがされた。
「はい?」
「カズトシ様、ご夕食の用意ができました」
「分かりました」
部屋を出ると、ガーラスが。
「では、ご案内します」
ガーラスについて階段を下りる一俊。
(楽しみじゃの!)
(どうやって食べるんだよ? そもそも食べれんのか?)
(大丈夫じゃ! ユーが食べるとワシも食べた気になるんじゃ。ユーの食べるのを隣でじっと見とるからの!)
(それは怖いからやめろ)
「こちらが食堂です」
中に入ると、皆さん勢揃い。睨んでくるレミを気にしないようにして用意された席に座る一俊。
ナタリアの隣でリュークの正面だ。
「少しはくつろげたかね?」
「えぇ。あんなにいい部屋を用意していただいてありがとうございます」
「かまわないよ。喜んでくれてなによりだ」
一俊がリュークと会話している間に料理が運ばれてくる。美味しそうな料理だ。
異世界だから少し警戒していた一俊だったが、そんな心配はどうやら必要ないようだ。
「「「「「「いただきます」」」」」」
(いつもの癖で言っちゃったけど、ここでも「いただきます」は言うのか…)
食器の音だけが鳴り響き、誰も喋ることはない。
「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」
パン、サラダ、スープ、肉、そしてデザート。全てが美味しかった。満足している一俊に、ナタリアが話しかけてきた。
「さっきはすみませんでした……」
「大丈夫だよ。ナタリアさんこそ大丈夫?」
「はい、おかげさまで。……それと、わ、私のことはナタリアと呼んでください」
「それはさすがに……えっと、ナタリアさんって何歳?」
「後もう少しで13歳になります! トキザワさんはおいくつですか?」
「俺こそトキザワか、カズトシで大丈夫だよ。今15歳だよ」
「で、ではカ、カ、カズトシさんと……」
顔が真っ赤だ。大丈夫だろうか?
(ユーは女たらしじゃの!)
(まさか。……俺なんてあの二人に比べたら容姿も整ってるわけじゃないし、モテてもないし……言ってて悲しくなってきた)
(あの二人?)
「ナタリアさん大丈……」
「ナタリアです!」
「じゃあ……ナタリア、大丈夫?」
「は、はい!」
どうやら落ち着いた様子のナタリア。
(……どうしよう……レミさんがさっきよりも更に鋭い目でこちらを見てくる。……ファビス君は何故キラキラした目でこちらを見てくる?)
「僕のこともファビスと呼んでください! 僕は10歳です! あの、僕もカズトシさんと呼んでもいいですか?」
「大丈夫だよ。じゃあこれからよろしく、ファビス」
「はい! よろしくお願いします!」
『ガタンッ!』
「私は部屋へ戻ります」
そういってレミは席を立って行ってしまった。
「あらあら、レミったら」
「気にしないでくれ、カズトシ君。きっと照れてるんだよ」
(……絶対違うと思うんだが……)
「そうだ、カズトシ君。これから書斎に来てくれないか」
「分かりました」
食堂を出て、リュークとクレーヌに続いて書斎に入る一俊。
「夕食は満足していただけたかい?」
「すごく美味しかったです!」
「それはよかった。さて、君はこれから何をするのかは決まっているのかい?」
(どうすんだ?)
(とりあえず明日は行きたい場所があるのでな。その後は鍛錬じゃ。そして、学校に入学じゃ)
「えっと、明日はちょっと行きたい所があります。
その後は、鍛錬して、学校に入学する予定です」
「学校に入学するのかい?
それだったら、ちょうどよかった。ナタリアも今度から学校に通う予定なんだ。私が学校の手配をしてあげよう。
鍛錬とは何の鍛錬をするんだい?」
(クレアチオの特訓と、戦闘訓練じゃ)
「クレアチオの特訓と、戦闘訓練です」
「クレアチオの特訓は無理だが、ガーラスはああ見えてもなかなかの手練れだから、戦闘訓練で分からないことがあったりしたら聞くがいい。練習相手をしてもらってもかまわないよ」
「ありがとうございます」
「それと、君にぴったりのいい物がある。後で用意させるから、気にいったら使ってみてくれ」
「色々とすみません」
「大丈夫だよ。私からの話は以上だよ。何か聞きたいことはあるかい?」
「えっと…大丈夫です。では、お休みなさい」
「「お休み(なさい)」」
(……眠い……まだ寝るにはかなり早いけど……風呂は明日の朝入ろう)
(何ぃ!? ユーにはまだ聞きたいことが……)
疲れが溜まっていたのだろう。その夜、一俊はぐっすり眠った。
いかがでしたか?
次回は幕間の予定です。
ルビが見にくい方のために。属性は順番に火、水、風、雷、空、時です。