6話 紹介
次回は説明等の話です。
一部の護衛の人達から訝しげな目を向けられている一俊だったが、気にしないようにしてリュークに続く。
若干ビクビクしながら大きな門をくぐる一俊だったが、そんな気持ちも吹き飛んでしまった。門を抜けて姿を現したのは緑豊かな庭園。華美なものは置かれていないが、自然の美しさを感じさせる庭園だ。
「……すごい……」
「そうだろう?我が家の自慢の庭園だ」
「えぇ……」
思わず一俊が賞賛の声を漏らすと、リュークが振り向き、笑って答えた。
しばしの間一俊が庭園に見惚れていると、
「「「「「お帰りなさいませ!」」」」」
メイドらしき人達が屋敷の扉を開けた。
「あぁ、ただいま。こちらは私の客人だ」
「「「「「ようこそいらっしゃいました!」」」」」
「……あ、え、えっとこんにちは」
どもりながらも、なんとか挨拶を返す一俊。
屋敷の中も、庭園同様にそれほど豪勢な装飾がなされているわけではないが、違和感を感じない。
(センスいいな……)
(フフン、ワシの服のセンスもいいじゃろ?)
(…………)
(なあ、ワシのセンスいいじゃろ!?)
そうこうしているうちに一俊が案内されたのは広大な屋敷の一室。
「疲れただろう? 座ってくつろいでいてくれてかまわないよ。今紅茶を持ってこさせよう」
「えっと、……では失礼して」
一俊はソファーに腰掛ける。リュークも向かいに腰掛ける。隣で精霊が飛び跳ねる……
(ふっかふかじゃの~!)
(コイツは……)
イラッとした一俊が精霊を見ていると、
「「「失礼します」」」
ナタリアと女性と男の子が入ってきた。慌てて立とうとした一俊をリュークが手で制する。
「座ったままでかまわないよ。お前たちもこちらに来て座りなさい」
そう言われた一俊は座ったままでいた。向かいに三人が座る。
(……すごい疎外感を感じる)
(ワシがいるじゃろ!)
「では、まず自己紹介をしようか。先程もしたが、私は火賀・リューク。この火賀家の当主だ」
リュークの名乗りを皮切りに続いて話したのは、
「リュークの妻の火賀・クレーヌです。よろしくね」
クレーヌと名乗る女性。紅い髪に赤い瞳の美女だ。
「さっきは止められないですみませんでした。改めまして火賀・ナタリアです」
ナタリアが謝る。それに軽く頷いて返事を返すと、次に名乗ったのは、
「僕は火賀・ファビスです! よろしくお願いします!」
ファビスと名乗る男の子。こちらもリュークとクレーヌ同様の紅い髪の赤い瞳の将来が期待できそうなカッコいい少年だ。
「時沢一俊です。よろしくお願いします」
「ではナタリア、カズトシ君。何が起きたのか説明してくれるか?」
「……すみません、お父さん……全部私が悪いんです……私が黙って屋敷を抜け出したばっかりに誰かに襲われて……そしたら、トキザワさんが助けてくれて……」
「……何故誰にも告げずに外に出たんだい?」
「それは……私がラレース様の力を使えないから……頑張って練習して皆を喜ばせようと……」
「「ナタリア……」」「姉さん……」
リュークから発せられる質問にポツリ、ポツリと答えていくナタリア。その表情には先程までの元気さの欠片もなく、今にも泣きそうだ。
やがて、その小さい体が震え始めた。その両手はギュッ、と握りしめられ、その瞳には涙が浮かぶ。
「全部私が悪いんです!! 私が落ちこぼ…」
「「「ナタリア(姉さん)!!」」」
感情が高ぶったナタリアを皆が抱きしめる。涙を湛えたその両瞳からこぼれ落ちる一筋の雫。
「いつも言っているだろう? 焦らなくたっていい。いつかきっとラレースはナタリアの力になってくれる」
「そうよ、ナタリア」「そうだよ姉さん!」
「……ご、ごめん……な……さい」
涙を見せるナタリアを皆でなだめる。抱きしめられたことで徐々に落着きを取り戻した様子のナタリア。それを確認して、リュークはファビスに告げる。
「ファビス、ナタリアを部屋へ」
「はい。さぁ、姉さん」
「でも……トキザワさんは」
「とりあえず部屋に戻って落ち着きなさい。彼には私からもお礼を言わなければいけないからな」
「……はい。では、トキザワさん、失礼します……またあとで」
「後でね! トキザワさん!」
退出するナタリアとファビス。
「まずはカズトシ君、娘を助けてくれて本当にありがとう。」
「私からもお礼を。ナタリアを助けてくれてありがとう。私もカズトシ君と呼んでもいいかしら?」
「はぁ……えっと、大丈夫ですよ。俺も、リュークさんとクレーヌさんと呼んで大丈夫ですか?」
状況が状況であったため、絶賛混乱中の一俊は安易に彼らの名前を呼ぶ。一俊とは比べるまでもなく身分が高い彼らであったので本来それは不敬にあたるのだが、彼らにとってそれは些細な問題だったようだ。両人とも、ニッコリとした笑みを浮かべ一俊に応答する。
「「もちろんだとも(もちろんよ)」」
それからリュークが少し真剣な表情になり、一俊に質問を求めた。
「少し聞きたいんだがいいかな?」
「俺で答えられる範囲ならば」
「君は、テムプスのクレアトールだね?」
(テムプス? クレアトール?)
(ワシの言う通りに応答するのじゃ。これは肯定じゃ)
「……はい」
「では、君にはラレースが見えるね?」
(肯定じゃ)
「はい」
「どうしてあそこにいたのか教えてくれるかい?」
(ありのままでよい)
(……ありのままでよいと言われても……)
上手く言えないが、ありのままに一俊は話す。
「……よく分からないんですけど、いきなり光に包まれて気がついたらあそこにいました。」
「……光?」
(なぁ、これでいいのか?)
(大丈夫じゃ。ワシを信じろ)
(そうだ! 魔王の事言った方がいいんじゃ)
(好きにせい)
「それと、伝えたい事が一つあるんですけど」
「なんだね?」
「魔王が戦争して星を支配するらしいんです! 何か知ってませんか!?」
「……魔王? ……いや、心当たりはないが……」
「……そうですか」
「……ところでカズトシ君…何処か行く当てはあるのかい?」
(あるのか?)
(いや、無い)
(ないのかよ!?)
(……いいからさっさと答えい!)
「……特に無いです」
「では、しばらく家にいないかい? ナタリアもファビスも君の事はよく思ってるようだし……」
「えぇ!? それはさすがに厚かましいというか……」
「大丈夫だよ。私も君の事は『あなた、私もですよ』…私もクレーヌも君の事はよく思ってるからね。それに、ナタリアを助けてもらった事もあるし」
(どうするんだ?)
(いいんじゃないかの? きっとベッドも、ふっかふかじゃぞ!)
(………………)
「……では、お言葉に甘えさせていただきます」
「そうか、それはよかった!」
そう言って笑うリューク。
笑った顔がすごく様になるな、と一俊がそんな事を思っていると、扉がノックされた。入ってきたのは、セミロングの紅い髪に、紅い瞳をもった気の強そうな美少女だ。
「失礼します。お父様、ただいま帰りました」
「ちょうどいい、紹介しようカズトシ君。この娘はレミ。火賀家の長女だ。レミ、こちらカズトシ君。お客様だ」
「……初めまして。火賀・レミと申します」
「ど、どうも。時沢一俊です。よろしく」
「レミ、カズトシ君は今日から家に住む事になったからな」
「……どうしてですか?」
「ナタリアを助けてもらってな。行く当ても特に無いと言うからお礼としてね」
「……そうですか……話は以上ですか? では、失礼します」
レミに去り際に睨まれる一俊。しかし、睨まれる心当たりが一俊には無い。
「ガーラス、カズトシ君を部屋へ案内してくれ。では、カズトシ君また後でな」
「はっ! ではカズトシ様、お部屋へ案内します」
「はい。えっとガーラスさん? お願いします」
そうして一俊は、ガーラスについて部屋を出た。
(あれ? そう言えば、ナタリアだけ髪の色が……異世界ってのはなんでもありなんだな)
(………………)
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「別に反対はしないけど、大丈夫なの? あなた?」
「クレーヌ、君も分かっているだろ? 彼の立場を?」
「それは、そうだけど」
「なら私たちは見守ることしかできない」
「カズトシ君や子供達には、本当の事を伝えないの?」
「いずれ知るだろう……それよりも、魔王というのが気になる。念のため情報を集めておくか……」
「そうね」
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(なんなのあの男は? この家に住むってどうゆうこと? お父様は、ナタリアを助けたお礼と言っていたけど、きっとナタリアの事を騙してるに決まってるわ。そもそも、行く当てが無いっておかしいじゃない! あのトキザワって男……時沢!? 確実に偽名じゃない! 変な真似したらただじゃおかないんだから!)
レミは、そう決意して部屋に戻った。
次回、説明です。
もう少しで幕間も入れる予定です。
よろしくお願いします。