4話 異世界…なのか?
「ワシのこの姿を見て分からんのか!?」
そう言ってくる小女。
「……少なくとも俺のまわりには、宙を飛んでて人間だと主張するやつはいねぇ。……頭のネジが飛んでるっぽいやつならいたが。」
「人間ではないわ! ワシ達は『ラレース』と呼ばれる存在じゃ!……といっても分からんか。精霊のような存在と言えば分かるかの?」
「……へぇー……」
「もっと驚くのじゃ! 精霊じゃぞ! 精霊! ワシ達、ラレースを見れる人間は、特別な人間だけなのじゃぞ!」
「……証拠は?」
「ワシは飛んでおる!」
そう言い放ってドヤ顔をする少女。その顔に、少しだけムカつきながらも一俊は声を絞り出す。
「……他には?」
「えぇい! 疑り深いやつめ! ならば、ワシの力は後でゆっくり見せてやる! 今はそうじゃな……お主、自分の格好を見てみるがよい」
「服か? 服なら学校の帰りだったはずだから……なんだこの変な服は!?」
(黒一色の上下の服の上から更に黒のロングコートって……むしろどうして今まで気がつかなかったんだ俺! ……ん?)
一俊が自分の服装を確認して体を捻っていると、彼のすぐ後ろに倒れている女の子が……
「変な服言うな! ワシがせっかくお主のために素敵な服を用意してやったというのに……どうした急に後ろを向いて固まって……」
一俊が見ているものを見て精霊も言葉を止めた。
「……いつからこの子はいたんだ?」
「……な、なんじゃそんなことも分からんのか?」
「……お前気づいてたのか?」
「……と、当然じゃ! ワシはラレースじゃぞ! そのくらい……」
「……じゃ、いつからこの子はいた?」
「…………」
「…………」
互いに無言の状態が続く。
「うぅ~ん? あれ、ここは何処? 私は……」
女の子が目を覚ましたので、そちらに意識を向ける。
(……こ、これは、あのパターンじゃね!? まさかの記憶喪失……)
「あ! あなたは!」
(……違うみたいじゃの……)
「助けていただいてありがとうございました!」
「「……え?」」
「え?」
(と、とりあえずここは話をあわせておくのじゃ!)
(お、おう……)
「あぁ、なんでもない。大丈夫だった?」
「はい! おかげさまで死なずにすみました!」
(……なんかすごいことになってないか?)
(……ボロを出す前に、話をそらすのじゃ!)
一俊は改めて少女を見る。
なんかよく分からない服装。赤い瞳に金髪のショートカットの大人しそうな顔の美少女。極めつけは、『ピョン!』と勢いよく飛び出ているアホ毛。それを見て本当に異世界なんだな、と実感する。
(早くするのじゃ!)
「えっと、とりあえず、俺の名前は、時沢一俊。それでこっちが……なんだろう?」
「え? えと、こっちって、どなたかいらっしゃるんですか?」
(馬鹿もん! ワシの姿はこの娘には見えんのじゃ!)
(……道理で反応がないと思った)
(後で徹底的に教えてやるからの)
(へぇーい)
「いや、気にしないでくれ。で、君の名前は?」
「はい! 私は、火賀・ナタリアといいます」
(カガ・ナタリアか……やっぱり異世界っぽ……カガ?)
「……カガってどう書くの?」
「えっと、……こうです」
ナタリアが近くにあった木の棒で地面に書き始める。そこには、『火賀』と書かれていた。
(なんで漢字!? いや、その前に、よく考えたら言葉が通じてるぞ!?)
(そういう世界なんじゃよここは)
(……なんかしっくりこないが、まぁ異世界だからな……何があっても不思議じゃねぇか)
(ちなみにお金の単位はイェーンじゃぞ)
(……)
「あ、あの! この後何か予定ってありますか!?」
(あんのか?)
(……これから決めようとしていたところじゃ)
「……特にないよ」
「でしたら、私の家に来ませんか? 助けていただいたお礼といってはなんですが、おもてなしします!」
(どうすんの?……お礼されるようなことしてないけど)
(別にいいんじゃないかの?)
(適当だな…)
「大丈夫なの?」
「大丈夫です!」
「じゃ、お言葉に甘えて」
「ハイ! では、こっちです」
と、歩き出すナタリア。
(……火賀さん?……ナタリアさんでいいや。あの容姿で火賀って違和感感じるし)
一俊はナタリアの隣について歩く。
「それにしてもさっきのどうやったんですか? 光が出たことまでは覚えてるんですけど……」
光? ……もしかして、俺の頭が恵美さんの頭と「ゴンッ!」した時の光か? そう勘違いした一俊は言う。
「俺、超頑張った(痛みをこらえるのを)」
「頑張ったらあんなすごいことできるんですか!?」
(……なんか、さっきから全然話がかみあわない……さすが異世界。恐ろしい場所だ……)
(……異世界は関係ないのじゃ……)
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ナタリアが目を覚ますと、あの時見えた黒髪の男の人がいた。
(……男の人だったんだ……結構格好いい……じゃなくて! お礼を言わなくちゃ!)
そう思ってお礼を言うナタリアだったが、不思議そうな顔をされた。
この人じゃなかったのか、とナタリアが疑問に思っていたら、大丈夫だったかと聞いてくる男。
(やっぱりこの人だったんだ! でも、なんで? ……そうか、きっとこの人は、優しい人なんだ! だから、助けて当然って思ってるんだ! すごい人だなぁ)
勝手に勘違いするナタリア。
(トキザワ・カズトシさん……トキザワさんでいいかな?)
そう思っていたら、名前を聞かれる。
名字の火賀について聞かれたので、地面に書いた。
火賀の名字のことを知らない事に疑問に思うナタリアだったが、
(そんな事よりなにか、お礼をしなくちゃ。……そうだ!)
一俊を思い切ってナタリアの家に誘った。考えてから頷く一俊。
了承してもらったことにホッとして屋敷に案内を始めるナタリアだったが、
(あれ? なんで私こんなに積極的なんだろう?)
そう思ったけど、ナタリアは分からなかった。
道中、さっきの光について聞くナタリアに対して頑張ったらできたと答える一俊。
(すごいなぁ……落ちこぼれの私と違って……私も頑張ったらあの人みたいにすごくなれるかな?)
ナタリアがそう考えていたら屋敷に到着した。
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ナタリアと話して歩いていると、一俊の目に大きな屋敷が見えてきた。
(……すげーな……あんな家どんな金持ちが住んでんだ?)
そう考えていた一俊に対して、ナタリアはどんどん屋敷に近づいていく。
「もしかして、家ってここ?」
一俊はナタリアに聞くが、返事は返ってこなかった。
(……声が小さくて聞こえなかったんだな! 決して無視されたわけじゃない……)
(……ポジティブじゃな)
屋敷に近づくと、大きな門が見えてきた。
その付近には、門番みたいな人達が大勢いて、怒号が飛び交っている。そして、一俊とナタリアを見て、……何故か驚いたような顔をしている。
(……きっと俺の黒一色の服に驚いてるんだな! 決して俺に何か関わりあることじゃない……)
(…………ポジティブじゃな)
しかし、そんな一俊の自己暗示も意味なく、
「「「「「「貴様か! ナタリア様を連れ去ったのは!!」」」」」
門番達は一斉に何か武器のようなものを一俊に向けてきた。
―――どうしてこうなった!?
次回は主人公の事が少しだけ明らかに?
頑張って早めに更新しますのでお願いします!