2話 日常の崩壊
3話から物語の開始です。
「ピピピピッ! ピピピピッ! ピピピピッ! ピ……」
ケータイのアラームを止め、一俊はゆっくりと行動を開始する。
顔を洗って、リビングに行こうと階段をおりていると、香奈海が階段をのぼってきた。
「おはよう。香奈海」
「あー! 今から起こしにいこうと思ってたのにぃ……」
「……起きてて悪かったな」
「本当にそう思ってる?」
「思ってる、思ってる」
「じゃ~、香奈海の頭撫でて!」
「……ほら」
一俊が仕方なく頭を撫でると、途端に嬉しそうな顔をする香奈海。
「はい、終わり」
「えぇ~? もう終わり~?」
「頬を膨らませたって終わりだ。みゆ姉は起きてるか?」
「ぶぅ~……たぶんまだ寝てるよ」
「じゃあ、俺が起こしてくるから。朝ごはん頼むな」
「……分かった。後でまた頭撫でてね!」
ドタドタ、と香奈海は階段をおりていく。
それを見送った一俊は、深幸を起こしに部屋へ向かう。
「みゆ姉ー起きてるかー?」
「………………」
返事が無いので仕方なく部屋に入る一俊だが、
「みゆ姉ー起きろ―!」
彼がユサユサと深幸を揺するも、彼女は起きない。
「………………」
「おーきーろー!」
「……う~ん……あ、かー君おはよ~!」
飛びついてくる深幸の手を避け、一歩後ろに下がった一俊は、ベッドの上で「う~……」と軽く睨んでくる深幸を無視し、リビングへ向かう。
リビングでは、すでに香奈海が朝ごはんをテーブルに並べて席についていたので、一俊も席に座る。数分後、深幸もやってきた。
「(ジー)…………」
「………………」
視線を感じるが一俊は相手にしない。
「(ジー)…………」
「………………」
「(ジー)…………」
「………………」
「……かー君の意地悪……」
と呟き、席に座る深幸。
「…………(勝った!)」
「「「いただきまーす」」」
いつも通りに三人で朝ごはんを食べはじめる。
「かず兄、今日の晩ごはんは何がいい?」
「んー、ステーキが食いたいな」
「お姉ちゃんもそれでいい?」
「ふぃ~よぉ」
「……食べたまま喋るな、みゆ姉」
そして、普段通り他愛もない会話をしながら朝ごはんを終える三人。
「「「ごちそうさまでした」」」
一俊は二人とは違って、学力はそこそこの学校に通っているため、二人より少し早く家を出る。
「はい、かず兄。香奈海の作ったお弁当!」
「はいはい、ありがとな」
香奈海の頭を一俊は軽く撫でる。
「かー君! かー君! お姉ちゃんの頭も撫でてー!」
そう言ってくる深幸の頭も、しょうがないから軽く撫でる。
(…なんだかんだいって俺も二人に甘いな)
そんな事を考える一俊であった。
「じゃ、行ってきます」
「「いってらっしゃい!」」
帰りの先生の話も終了し、いざ帰ろうと一俊が鞄を手に持つと秦一が話しかけてきた。
「悪い一俊、今日は一緒に帰れねぇや」
「なんか用事でもあんのか?」
「あぁ……。ちょっと野暮用がな……」
「……全然格好よくねぇ……」
話し相手がいないので、帰ったら何をしようかと考えて帰り道を歩く一俊は、
「やっほ~、かず君~」
名前を呼ばれたので、考え事を止めて立ち止まる。
一俊が振り返ると、彼の家のお隣さんの大学4年生の恵美がニコニコして手を振っていた。
「白川恵美」と大きく書かれた手提げ袋を持っている恵美。買い物の帰りだろう。人参が袋からはみ出ている。
「今学校の帰り? じゃ、一緒に行きましょ~」
一俊はなぜか恵美と一緒に帰ることになった。
「晩ごはんの買い物の帰りですか?」
「そうよ~。今日はなぁんと、カレーなの~」
「……一昨日ぐらいに聞いた時もカレーだった気が……」
「え~? そうだったかしら~?」
(相変わらず、ぬけているというか、のほほんとしているというか……まぁ、天然っぽい人だな)
そんな事を一俊が考えていると、一瞬あたりが光った。そして、急に一俊の頭が痛くなり、思わず一俊はしゃがみこんで頭をおさえる。
「それでね~……ん? どうしたの~?」
恵美は、一俊が隣を歩いていないことに気づいて振り返り、未だしゃがみこむ一俊に近づいていく。
「ちょっと頭が痛くなっ『キャッ』て……」
(何事!?)
悲鳴を聞いて顔をあげた一俊の目に入ったものは……
何故か倒れこんでくる恵美の頭。心なしか時の流れが遅く感じて、悠長な事を考えてしまう。
(このままいくと俺の頭とぶつかるっぽい……じゃねぇ!
ええぇぇぇー! ちょ、ヤメテ! 今頭うったら痛みでおかしく……)
そんな一俊の願いも虚しく、
「ゴンッ!」
世界が光に包まれた……
朦朧とする一俊の耳に聞こえたのは、
「カラン、カラン……」
という空き缶が転がったような音。
光が消えた場所には、最初から何事もなかったかのように……ただ空き缶だけが転がっていた。
次回から物語は始まります!