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魔王の嫁を取り返せ!  作者: 鷲野高山
レアラルス学院編
23/38

21話 模擬戦

「フッフッフ……とうとう俺の実力を見せる時が来たようだな!」


 外への移動中、不敵な笑みを浮かべいつになくやる気を見せるルック。その様子に興味を持った一俊はルックに尋ねる。


「……まだ入学したばっかりだろ……お前、なんでそんなにやる気なんだ?」

「当たり前だ! 自分の実力を試すいい機会じゃないか! 全力でやるのが筋ってもんだろ?」


(驚いた……コイツちゃんとした考えをもってるんだな)


 ルックの言葉に一俊は思わず感心してしまう。


「それに、崇魅祭は学院外の人達もたくさん見学に来る。学院の女の子達や、見学者のお姉さん達に俺の力を魅せれば……モテモテになるのも時間の問題だぜ!」

「……それが本音か……一瞬でもお前に感心しちまった俺がどうかしてたみたいだ」


 感心したのも束の間、続けて放たれた言葉に再び一俊は呆れることとなった。鼻歌を唄いながらスキップしだしたルックと若干距離をとり歩き出す。

 やがて到着したのは学院の中庭。


「それではこれより、メンバー選抜のテストを行うが、その前に全員『リケファ』自分のメディアムに塗れ! これは、切れ味をおとすことのできるもので、崇魅祭でも実際に使われるぞ! 切れ味がなくなるわけではないから注意しろよ!」


 ダミアから渡されたのは『リケファ』というゲル状の物体。皆それぞれのメディアムに塗り始めたので、一俊も『フラマ』の刃の部分に塗っていると、アンが話しかけてきた。


(ユーはどうするんじゃ? メンバー入りを目指すのか?)

(んー? 勿論出ないぞ? 面倒くさいだろ?)


「それからもう一つ、メンバーの定員についてだ! 今年は技術が2人、力も2人、そして速さは2人でタッグを組んで1ペアだ! 要するに40人中6人の選出だ!」

「きたぁぁああ!! 俺は速さの競技メンバーになるぜぇ! そして、絶対に女子とペアになってやるんだぁ!」

「ほわ~、凄い気合いです、ルックさん……よし! 私も頑張らなきゃ!」


 ダミアの説明に歓喜の声を上げるルック。そして、それを聞いて己を奮い立てるナタリア。その発言に周辺の生徒、主に女子生徒達が遠ざかる。すなわち、ルックとその近くにいた一俊、ナタリアを中心に円が広がった。その現状に、一俊は溜め息をつくことしかできない。ちなみに、ナタリアはその事実に気づいていない。 



「……全員塗ったな? それでは、名前を呼ばれた生徒はこっちに来い。 これから1対1の戦闘を行ってもらうぞ! まずは、そうだな……「ファリグス!」それから……「ニーナ!」前へ出ろ!」


 無視するのが一番と考えたのか、完璧にスルーしたダミアは生徒の名前を読み上げる。呼ばれたのは一俊と、ファリグスと呼ばれた男子生徒。

 その名前に生徒達から微かなどよめきが上がる。


「……初っ端からかよ」

「おぅ! 気張って行けカズトシィ! ただし、速さメンバーにだけはなるなよ!」

「頑張ってください! カズトシさん!」

  

 ルックとナタリアの声援をその背に受けて、一俊はダミアの元へ向かう。


「さぁ2人共、互いに向きあって名乗りをあげろ。俺が手を叩いたら戦闘開始だ」


 戦闘用に開けられたスペースで一俊は相手と向き合う。

 ファリグスと呼ばれた男子は一俊より少し大きめの背。短くそろえられた群青の髪。一俊と同じで剣の使い手のようだ。


「では、まず私から。私の名は「ディオランド・ファリグス」属性はアクアです。ディオと呼んでください。お互い全力で頑張りましょう」


 そう名乗ったディオは剣を構える。その様子は真剣そのもので、一俊のようにふざけてはいない。

 そんなディオに感化されたのか、一俊も表情を変える。


(なんじゃ? ちゃんとやる気になったか?)

(……あぁ。初撃をもらって降参しようと思ってたがやめた。あんな真剣なのにそんな真似はできねぇよ。……少ししたら降参するが)

(はぁ……ま、考えを改めただけでもよしとするかの)


「俺は「カズトシ・ニーナ」イグニスだ。よろしくな、ディオ」


 一俊も名を名乗り、フラマ(武器)を構える。

 緊迫した空気。言葉を発する者はなく、2人は無言で構える。


 そして僅かな静寂の後――――


『……パァン!』


 ダミアの合図と共に、2人は同時に前へ踏み出した。




 最初に行動を起こしたのはディオ。接敵した一俊が剣を振り下ろす前に、ディオは一俊に切りかかる。しかし、それを見切っていた一俊は危なげなくそれを避ける。そのまま反撃するが、その剣筋はディオの剣に阻まれる。

 そうして始まった2人の剣の打ち合い。攻撃を仕掛けては防がれ、相手の攻撃を防いでは反撃する。クレアチオを使っていない、純粋な剣技のみの戦い。


 ――――キン!! キィン!! ガッ!!


 互いに一歩も引かない。剣の交差から生まれる甲高い音のみが、ただ辺りに響きわたる。

 

 その光景にその場にいる全員が驚いていた。無論その中にはアンも含まれる。

 一俊は多少真剣ではないといえ鍛錬の結果、リュークの屋敷の一番強い護衛と若干ではあるが、まともに渡り合えるほどの実力を身につけた。

 しかし、ディオはそんな一俊の動きについていけている。

 

(……驚いたのぉ。あの年であそこまでできるとは……さすが名門校の生徒といったところかの)


 理由はそれだけではない。アンは知らなかったが、ディオの家「ファリグス」はそこそこに名の知られた家。それが先程起きたどよめきの理由。ディオとあたらなくてよかったという生徒達の安堵でもある。

 故に他の生徒達の驚きの対象はアンとは真逆、現在ディオと激しい戦いを繰り広げている一俊のほうだ。

 

 理由は違くとも、誰もが驚愕した面持でみつめるのは、入学して一年目の生徒にしてはかなりハイレベルな速さで音を響かせる剣戟の音。


 互いの剣が何回交差しただろうか。やがて、ディオは一俊から距離をとって話しかける。


「初戦からこれほどの使い手に出会えるとは……光栄です! ニーナさん! 今までは純粋な剣技だけの戦いでしたが、これからは全力です!」


 そう言った途端、ディオの周辺に小さな水球がいくつも浮かび上がる。


「では改めて! 属性はアクア! ディオランド・ファリグス、行きます!」


 発射される水の弾丸と共に、再びディオは一俊へと躍り掛かった。



(こりゃちょっとキツイな……)


 襲いくる水の弾丸と、その合間を縫って時折繰り出されるディオの剣。テムプスの力を使い、その全てを見てフラマで対処しながら一俊は考えていた。


(そろそろ降参しないとな……痛いのは嫌だからなーどうすっか?)

(……降参すればいいではないか?)

(だからその方法を考えてんだろうが! 痛くない方法を!)

(……もういっその事、相手をぶっとばして勝ってしまったらどうじゃ?)

(面倒事はごめんだっての! ……ん? ぶっとばすか……よし、それ採用。フラマをぶっとばされれば攻撃やめてくれるだろ)

(はぁ……)


 決断を下した一俊は、攻撃を対処しながらタイミングを見計らう。そして、


(そこだぁ!)


 ディオの横薙ぎに合わせて勢いよく足を踏み出したのだが……

『ビチャッ!!』


(うぉっ!?)


 水溜りを思い切り踏んでバランスを崩してしまった。その衝撃で宙に舞う水しぶきがディオの腕にふりかかる。そしてそのままの勢いでお互いの剣が交わり……


 ――――カァンッ!


 音を響かせ、剣が手を離れていったのは……ディオの方だった。


((……は?))


 アンと一俊の心の声が重なる。

 それは一俊にとっては予期せぬ結果。不運の連続でおきた偶然の結果だった。

 1つは、ディオの剣筋を見てからそれに一俊が合わせていった事。要するに、剣を振ったスピードは一俊の方が速い。しかし、それだけでは、ディオの剣が飛んでいった理由にはならない。

 残された理由は2つ。それがこの結果の本当の理由。まず1つ目は、互いの攻撃の直前にディオの手が水をかぶってしまった事により、ディオの剣の握りが甘くなってしまった事。そもそもあの水溜りができてしまった原因が一俊にある。ディオの発射していた水球を一俊が撃ち落としてしまったため、破裂した水球が水溜りとなって地面に残ってしまったのだ。

 そして、最後の理由。それは、一俊がぬかるんだ土のせいでバランスを崩してしまった事。咄嗟のことに、踏ん張って体勢を整えようとしたため、全身に力が入ってしまったのである。


 すなわち、剣速は一俊の方が速く、握りも強い。対してディオは、握りは甘い。これではディオの剣が飛んでいくのは当たり前である。


「「「「「……おぉぉおおお!!」」」」」


 一拍遅れて生徒達から歓声が上がる。


「そこまで! 勝者、ニーナ・カズトシ!」

「……まじでか」





「……ニーナか……なかなかやるじゃねぇーか」


 歓声が鳴り響く中、ダミアはポツリと呟く。

 先程の戦い、圧倒的に優勢だったのはディオの方だ。序盤の剣技のみでの戦いはともかく、ディオが水の弾丸を使いだしてからはほとんど防戦一方だった一俊。生徒の中で気にするものはいないようだが、ダミアが気になったのはクレアチオを使わなかったこと。ただの剣技のみで一俊は戦っていたのだ。


(しかもニーナのやつは、足元付近の一点のみに水を落としていた。つまり最後のは狙ってやったということか……)


「こりゃ、おもしれぇやつもいたもんだ」


 ダミアは勝者である一俊を見つめる。かれは勝ち誇るでもなく、ディオと握手を交わしていた。それを見てダミアは何か思いついたのか、ニヤリ、と笑った。 

 


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