20話 レトアルス組
「よし行くぞ、カズトシィ!」
「遅えよ! もうギリギリだぞ!」
ルックと相部屋になった一俊。「カズトシィ」と呼ばれることになってしまった。ルックが言うには、これが言いやすいらしいのだが、本当に意味が分からない。
そして妙にテンションが高いルックと共に寮を出て全速力で学院に向かう。ルックが無駄に身だしなみに時間をかけていたせいで時間に余裕がない。
1年生は2階の教室。階段を駆け上がり、『レトアルス』と書かれた扉を開ける。教室ではすでに2人以外は席についており、ダミアも教卓に立っていた。教室の中から一斉に一俊達に視線が集中する。
「遅いぞー2人共。さっさと席に座れ」
ダミアに言われて、開いている席を探すとナタリアを見つけたので、一俊はナタリアの隣に座る。なぜかルックもついてきて座る。
「おぉ! 久しぶりだねナタリアちゃん!」
「……お、お久しぶりです」
やはりナタリアはルックを苦手なようだ。
「よーし、全員揃ったところでまずは、互いに自己紹介といこうか! 昨日も言った通り、俺の名前は、ダミア・ドラードだ。属性は『イグニス』。これからよろしくな! じゃ、順番に紹介していってくれ」
ダミアの紹介を皮切りに続々と紹介を始める。『イグニス』の人、『アクア』の人、『ウェントゥス』の人、『トニトルス』の人、様々だ。
やがて、ナタリアの番になる。
「火賀・ナタリア、『イグニス』です! 皆さんよろしくお願いします!」
その紹介に……クラスから音が消えた。他の人の紹介の時に聞こえていた微かなざわめきもピタリ、と止まり、クラス中からナタリアに視線が集まる。それは当然なのかもしれない。
『火賀』。その苗字は特別な意味を持つのだから。
「あ……あの、えと……」
「おぉ、お前さんがそうかい! 皆、仲良くな! それじゃ、次の人!」
どうしたらよいか分からなかったナタリアに、ダミアが助け舟を出した。次は一俊の番。戸惑っているナタリアを座らせて、一俊は立ち上がる。
「カズトシ・ニーナ、『イグニス』です。どうぞよろしく」
そう、一俊の属性は『イグニス』と偽っている。『テムプス』では、問題が起きる事必至だからだ。幸い、リュークから渡された『フラマ』のおかげで怪しまれることはない。
しかし、一俊が自己紹介しても、未だにクラスは静かなままだ。この状況は、一俊にはどうにもできない。だがそんな状況を、一俊の隣に座っている馬鹿が一変させることとなる。
「俺は、ルック・バルバス! 属性は『トニトルス』だ! 女の子は、俺の元に集まれぇ!」
瞬間、ルックを除いたクラス中が凍った。そんな様子にも気づかず、堂々と立ち続けるルック。
「……はーい、次の人」
数秒後、最初に動き出したのはダミア。さすがは担任といったところか。何事も無かったかのように、次の人の紹介を促す。ちなみに、一俊はこの時初めてルックの属性を知った。
多少のアクシデントはあったものの、自己紹介は無事に終わり、ダミアが話し出す。
「よーし、じゃ早速、もうすぐ開催される『崇魅祭』のメンバーを決めるが、まずその前に崇魅祭について話すぞ。知ってるやつもいると思うが、聞いとけよー。
まず、崇魅祭というのは、この星の自然を守ってくださっているといわれるラレース様方を“崇め、己の力を魅せる”祭りで、1、2、3年それぞれのクラスからメンバーを選抜し、競技を競うものだ。お前ら1年にとっては、自分の力を誇示するいい機会とも言えるな。競技は、『速さ、技術、力』の3つがあるぞ。「速さ」は、タイムレース。「技術」は、クレアチオの正確さ。「力」は、戦闘能力だ。詳しい説明は、大会でされるぞ。何か質問はあるか?」
(おぉ! 説明する手間が省けてよかったわい)
(……お前が自然を守っているというのが嘘としか思えん)
「無いみたいだな? それじゃ、全員外に出ろ! 実力テストを実施する。その結果によって俺がメンバーを決めるからなー」