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魔王の嫁を取り返せ!  作者: 鷲野高山
一章・異能の星・レトアルス
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18話 トラウマものの鍛錬

後書きに補足あります。

『鍛錬』


 それは己を鍛える物。強くなっていくための手段。武術に縁がなかった一俊は勿論したことがない。創作された話において、物語の主人公がそれをやって強くなっていくというのをただ漠然と知識として知っているだけである。


 それに軽い気持ちで挑んだ一俊は……


「……うぉぉぉ! ストォォッップ!! まじでやめろぉぉぉ!!」

「ぬははははぁぁ! そらそらぁ! どんどんいくのじゃぁぁ!」


 ……本当に後悔していた。


 


 事の起こりは鍛錬開始前に遡る。


 屋敷を出た一俊は、鍛錬に適していそうな場所を探していた。

 その途中でナタリアを見かけるが懸命に何かの練習をしているようで、今度はちゃんと護衛の人達もついている。真剣なので邪魔をしては悪いと考え別の場所を探すために歩く。


 そして辿りついた、屋敷から少し離れた地。


「よし、ようやっと鍛錬ができるのじゃ! ユー! フラマは持っているな~?」

「おー!」

「なんだ、なんだ~? いつもと違ってノリがいいではないか! 防具もちゃんと着ているな~?」

「おー!」


 鍛錬する一俊にリュークが渡してくれた防具。それは軽くて頑丈な繊維で編まれた紅い服。その上からアンの用意した黒いパーカーを羽織っている。

 本当なら鎧などの重装備がよかった一俊だが、リュークが言うにはこの世界は軽さに重点をおいた防具が主流らしい。クレアチオの前では重装備は自殺行為なのだそうだ。その説明に加え、重装備で体力がもつのかというアンの意見に渋々納得した。


「では、説明するぞ~!」

「おー!」


 先程からノリのよい返事をする一俊。その内心は、テムプスの力への期待。時を操る力を覚えられたら魔王を倒すなんて余裕じゃないか、という楽観的な考え。


「さて、まずはクレアチオの訓練じゃ!」

「おー!」

「最初に言っておくが、今のユーでは、若干しか時の流れが遅く感じる、ということしかできん」

「お……え? ……何で?」

「それが今のユーの力量じゃからじゃ」


 そんな一俊の希望は速攻で打ち砕かれる。


「……そうだよな……俺には、みゆ姉や香奈海と違って才能なんてないからな……」

「……誰じゃそれは?」

「あぁ……俺の姉と妹だよ」

「……姉と妹とな? ……まあよい、それでは本日の訓練は、回避訓練じゃ! ワシが今からユーに攻撃をするからの。それをテムプスの力でもって避けるのじゃ」

「攻撃か!? まだ最初の鍛錬なんだから絶対無理だ!」

 

 断固拒否する一俊に、アンは胸を張って答える。


「フフンッ、大丈夫じゃ! 肉体を傷つけることなく、痛覚のみを与える攻撃じゃからの。……攻撃力も高くないので問題ない!」

「まぁそれなら……」



 ……そして場面は冒頭に戻る。



 四方八方から次々と無尽に繰り出されるアンの攻撃。その膨大な量を前に、テムプスの力を使っても一俊はほとんど避ける事ができず攻撃が当たる。

 その攻撃は確かにそこまで痛くは無い。軽くつねられたような感じだ。だが、それは一発当たった時の話だ。……一俊はそれに連続で何発も当たっている。全身にだ。……その威力は推して知るべし。


「ぬははははははぁぁ! それそれそれぇ~!」

「痛てぇ! 無理!! マジで無理ー!!」





     ~~~~~~~~~~




 自分の部屋で勉強をしているレミ。屋敷の外から聞こえてくる叫び声が気になって窓から外の様子をうかがうが、そこから見えた光景に思わず眉を顰める。


「……あの男は一体何をふざけているのかしら?」


 視界の右方に見えたのは一俊。レミの目にはアンが見えないため、奇声を発しながら変な踊りをしているようにしか見えない。

 呆れたレミが無言で窓を閉めようとした時、その目が左方にいるナタリアをとらえる。


「ナタリアはあんなにも必死に努力しているというのに……あの男は!!」


 レミは歯がゆかった。日々努力をしているナタリアが報われない事に。

 それなのに近くであんなふざけた事をしている一俊に無性に腹がたった。






     ~~~~~~~~~~


 その後一俊は、何発も攻撃を受けてようやく初日の訓練は終了。すでに時は夕暮れ近くとなっていたので屋敷に戻る。帰り道に朝、ナタリアを見かけた場所を通ると未だにナタリアはそこにいた。


「ナタリア様。そろそろお帰りに……」

「もう少しだけ! もう少しだけお願いします!」


 護衛の人が帰宅をすすめるが、後少しと懇願するナタリア。


「ナタリアは健気じゃな……」

「どうゆうことだ?」

「お主、書斎での事を覚えておらんのか? イグニスの頂点である火賀家の人間には、普通は我らラレースがいるのじゃ。…しかし、あの子にはいない。つまりは…」

「…そうだったのか…」


 ナタリアを見る一俊。その目にはナタリアの姿が眩しく映っていた。






 翌日の朝、書斎にて一俊はリュークに学校の案内を受け取り、説明された。


 なんと一俊が行く予定の学校は『レアラルス高等学院』というレトアルス一番を謳われる超名門校。毎年多数の入学希望者がいて、25歳までは誰でも試験に合格すれば入学できる。地方から入学する生徒も多数いるため寮もあり、なんと無料で提供されるそうだ。そんな学校に入れるか分からなかったが、事情が事情なため、リュークが口利きしてくれたらしい。

 翌日、リュークと話し合った一俊は、学校では寮住まいにすることにした。無料の寮で暮らし、どこかでアルバイトでもする。リュークは別に屋敷から通っても構わないと言ってくれたが、これ以上お世話になるのも気がひけるので断った。


 説明を受けた後、部屋を出ようとした一俊にリュークはふと思い出したかのように告げた。なんでも今日は、家族全員で知人の家を訪ねる予定なんだとか。

 馬車に乗って出かけた皆を見送った一俊は、今日の鍛錬の計画をナタリアから説明される。


「本日のメニューはずばり、武器に慣れる事と体力をつける事じゃ! 午後から行うぞ!」

「別々の訓練をするのか?」


 そう聞き返した一俊に、意味ありげに含み笑いするアン。


「それを同時にできる訓練内容があるのじゃ! フハハハハッ、これを考えたワシは天才かもしれんな!」

「……でその内容は?」

「誰でもいいから屋敷の者に、武器を振りかざしながら追いかけてくれるように頼むのじゃ! さすれば武器にも慣れるし、体力もつく。まさに一石二鳥の特訓じゃ!」


 鍛錬の時間になり、本当にそんな上手くいくのかと若干怪しみながら仕方なく一俊は、門の番をしていたアレンに話しかける。屋敷に来た一俊に一番最初に話しかけてくれた護衛の人で、そこそこに仲もいい。


「アレンさん、ちょっと鍛錬の事でお願いがあるんですが…」

「ん? おぉ、カズトシ君か。 何だい?」

「しばらく俺の事を追いかけながら武器を振り回してくれませんか?」

「……ほほぉ…それは鍛錬なんだね?」

「えぇ、そうですが……」


 それを聞いたアレンはニヤリとして周りを見回す。いつの間にか一俊達の周りには、20人位の人が集まっていて各々が爽やかな笑顔を浮かべていた。その状況に嫌な予感がした一俊。


「……あ、やっぱりいい……」

「聞いたか皆! 行くぜぇ!!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!」」」」」

「何故だぁぁぁ!」


 そうして、一人で逃げる一俊を、20人の武器を振り回す鬼が追いかけるという理不尽な鬼ごっこが幕を開けた。




「うぉぉおお!」

「「「「「おぉぉおおおお!」」」」」


 鬼ごっこが始まって数分。武器を振り回す男達が自分を追いかける光景は一俊にとっては恐怖でしかない。


(何やっとるんじゃ、ユー! 武器に慣れるには立ち向かっていかねば……)

(馬鹿かお前は!? あんなとこに突っ込んでいけるか!)

(ふむ……しかし、1人に頼んだはずなのにあんなに鍛錬に付き合ってくれるとは……お主……愛されとるのぉ)


 ふざけた事を言うアンにブチ切れた一俊は、思わず大声で怒鳴る。


「お前馬鹿だろ!? あんなの確実に、門のいざこざの時の腹いせだろ!」

「「「「「………………」」」」」


 その一俊の一言に男達の声と動きが止まった。


「……あ」


 思わず冷や汗をたらす一俊。どうやら図星のようだ。


 徐々に男達はぶるぶると震え始め、


「「「「「おぉぉぉぉおお!!」」」」」


 一斉に動き出す。その速さは先程とは段違いだ。


「ちっくしょぉぉぉぉおお!!」


 壮絶な鬼ごっこ第2ラウンドが開幕した。





     ~~~~~~~~~~



 知人への訪問を終え、屋敷へ戻る途中のリューク達。彼らが馬車の中でくつろいでいると、どこからか地響きと絶叫が聞こえた。すわ、盗賊かと御者台のガーラスとリューク達は周囲の様子をうかがう。やがて、前方から何人かの人影が見えてきた。こちらへ一直線に向かってきている。


「皆、注意しろ!」


 振り返ってリュークが皆に警告を出すも、家族はポカーンとした表情だ。それを訝しげに思ったリュークは、視線を前に戻して硬直した。


「…………」


 それはそうだろう。なぜならそこには……武器を振り回しながら一俊を追いかける己の屋敷の者達がいたのだから。





     ~~~~~~~~~~



 一俊は、もともと体力があったわけではない。それなのに今の今まで走り続けていられたのは、生命の危機だったからだ。しかしそれにも限界はある。今まさに体力が尽きかけようとしていたその時、一俊の目に、この状況を打破できる可能性を持った希望が現れた。

 それは、朝見送ったリューク達の乗った馬車。


「リュークさぁーーん!」


 大声を上げながら馬車に接近する。一俊が、もう大丈夫だと安心した時、事件は起こった。大声を上げて大人数で接近してくる一俊達に恐怖した馬達が暴走したのだ。


「えぇーー!? なぁんでだーーー!?」


 一俊は知らなかった。馬は本来臆病な生き物である事を。

 それゆえ暴走した馬達は、一俊達を避けるように走ってゆく。


 馬車では、


ガーラスが必死に馬車を制御し、

「あらあら」とクレーヌは笑い、

「ほわぁ~楽しそうです~」とナタリアは興味津々、

「うわぁ」とファビスが感嘆し、

「……フフッ……」と青筋を立ててレミが笑う。


「……あははは……」とリュークは苦笑を浮かべるしかなかった。


 そうして、逃げる馬車、それを追いかける一俊、その一俊を追いかける護衛達という構図が出来上がる。

 一俊にとっては地獄の鬼ごっこ、第3ラウンドが幕を開けた。


「……もうヤダぁぁああ!!」


 その晩、一俊は護衛達と共に、リューク達に土下座をして謝った。



 そんなこんなで一俊が学校に入学するまでは、毎日が鍛錬。その日々は今までよりも更に熾烈なものだった。


 ある時はアンの精神攻撃に撃沈。


 また、ある時は『フラマ』で素振り。手がひたすらに痛む。


 そんな泣き言も通用せず、ガーラスとの戦闘訓練。ガーラスはとても強く、手加減されていても一方的にやられる。


 さらには、ファビスと共に護衛の人達の訓練に参加。ファビスは丁寧に指導されていたのに、一俊は大勢にフルボッコにされる。おそらくは先日の鬼ごっこの腹いせだ。


 体力トレーニングの時もあり、訓練していた山で遭難して悲惨な状況にもなる。


 などなどまさに生死を賭けた特訓。だが、そのおかげもあってテムプスの力もそこそこは安定したし、『フラマ』の重さにも慣れた。ガーラスにも「その年齢でそこまで動ければ上出来」と言わしめ、護衛の人達とも『フラマ』を持って渡りあうことができるようになった。体力も筋力も前までとは比べものにならないほどついた。


 あっという間に時は過ぎ、ようやく明日が『レアラルス高等学院』の入学式。

ちょっと鍛錬の内容が薄いかもしれませんので、ある程度話が進んでから改稿、もしくは番外編という形で更新するかもしれません。確定事項ではないのであしからず。


さて、ようやく次話から学園編突入です! 宜しくお願いします!

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