1話 予兆
初めまして。いろいろ至らない点があると思いますが、宜しくお願い致します。
こんなタイトルですが、真面目なシーンも結構あります。
世界設定が「7話 この世界は」に、歴史を「15話 歴史の語り部 トゥルサス」にて記載しております。途中で分からなくなった方や、設定等を先に知りたいという方おりましたら少しネタバレになってしまいますが、そちらをご覧ください。
戦闘要素もあるのに、初めての鍛錬が「18話 トラウマものの鍛錬」と少し先です。すみません。
「……ここは何処だ?」
物音一つせず、霧がたちこめてほとんど先が見えない暗い場所。そんな場所に一人の男が茫然と立っていた。
慌てて我に返り、男は霧でよく分からないはずの周囲を見渡す。そして、ある一点に目線を止めた。何かが見えたのだろう、視線の先にゆっくりと近づいていく。男が暗闇の中に見出したのは木。蒼蒼とした葉をつけ、太い枝が左右に一本ずつのみの大きな木。そして不思議な淡い光をたたえた木。
男は思わず立ち止まってしまい、その不思議な光景をただぼんやりと見ていた。
――――……時……君
再び男が何かに気が付いたようだ。木に向けて再び歩き出して近づいていく。その木の根元には、地面に横たわる大きな石が。その上にフタのようなものがされている。
「ふさがれてると気になるのはしょうがないよな!」
勝手な理由をつけ、男は手をのばしてフタをずらす。フタは、その大きな見た目に反してすぐに動いた。するとずらした箇所から、木よりもさらに強烈な光を放った球体が浮かんできた。
……これ、マズくないか、と思いがけない出来事に慌てる男だが、なぜかその球体は宙に留まったまま動きを見せない。
「よかった……」
なんとなくだが、光からは嫌な感じがしない。そう感じた男はホッとして、好奇心から光に手を伸ばしていく。
あと少しで光に手が届きそうだ。
そんな時だった。
「……時沢君?」
不意に衝撃を受け、男は我に返る。夢を見ていた事に気づいた男は体を起こし、肩におかれた手の先を視線で辿る。その先には友人である秦一がいた。前を指し、なにやら笑いを堪えた表情で男を見ている秦一。
「時沢一俊君!」
「……ふぁ~い」
周囲から、クスクスと笑い声が聞こえる。
そうか今は授業中だったか、と寝ぼけた返事を返す男改め、一俊。
「……この問題の答えは?」
「分かりません」
「ブフッ!」
即答で答える一俊。寝ていて何も聞いていなかったので、分からないのだろう。
彼の隣から何か聞こえたが、
(……うん、きっと気のせいだ。そうに決まってる)
一俊は現実逃避をして気にしない。そんな彼に、先生は呆れた視線を向ける。
「……分からないのなら寝ないように。……では、隣で笑っている西浦君答えて」
「ク、クク……え!? え、えっと……分かりません」
(お前もかい! それなら笑ってんじゃねえよ秦一!)
そう心の中で叫んだ一俊の心の声と共に授業終了のベルが鳴った。
「……では時沢君と西浦君のみ、今の問題は次回の授業までの宿題とします」
授業終了に喜んだのも束の間、一俊はガクッと脱力することとなる。
放課後、いつも通り一俊は秦一と学校を出る。
「なあ一俊、今日こそお前の家に行ってもい……」
「ダメだ」
「せめて最後まで聞けよ! 俺としては日頃お前のお世話してやってんだから、そろそろお前の家族に紹介してくれてもいいだろ? 妹さんとか! お姉さんとか! 妹さんとか!!」
訳の分からない事を喚く秦一に一俊は呆れた視線を向ける。
「なんで上から目線だ? ……まぁそれはどうでもいい。理由はな、この前たまたまゲーセンに行く途中で香奈海と会ったときのお前の……気持ち悪い顔を……ダメだ、思い出すだけで気分悪い」
「一俊! 貴様は親友のこの俺をロリコンだと言いたいのか!?」
「違うのか?」
「……いや、別に違うっていうわけじゃないんだが……もうちょっとこう、オブラートに包んで欲しいなぁみたいな?」
「…………」
「……無視!?」
途切れてしまった会話。
黙っていればそこそこは格好いいのに、こんな馬鹿じゃ台無しだな、と一俊は無言で秦一を見ていると、再び秦一が話してくる。
「……そうだ! そういえばさっきどんな夢見てたんだ? なにか触ろうとしてたみたいだったけどなー……もしかして~ククッ、まぁ、お前も男だもんな!」
そう言って背中を叩いてくる秦一に、コイツは相変わらず懲りないやつだ、と一俊は呆れてしまう。
「変な夢じゃな……くもないな。ただ、お前の期待しているようなものではないぞ。
見たことない景色を夢で見て、なんか変な光に触ろうと、手を伸ばしてた時にお前に起こされた。」
「ハッ! 適当にでっちあげたって俺にはお見通しだぜ! ――――――あ、今日俺買い物して帰るからここまでだ。じゃあな!」
「…………」
反論するのも面倒くさいようで、一俊は無視して歩き出す。
それから一俊は、先ほど見た夢についてぼんやりと考えながら自宅へ向った。
「時沢」と書かれた表札が目に入り、一俊は歩みを止める。どうやら考えこんでいるうちに、いつの間にか家についてしまったようだ。
夢だから深く考える必要もないだろ、と思った彼は扉の鍵を開け、家の中へと入る。
「ただいま」
「あ、かず兄! お帰り~!」
家に入ると彼を玄関まで迎えにきてくれるのは、彼の妹の香奈海。ここまではあり得ない話ではないだろう。しかし、香奈海は一俊に抱き着き、
「ご飯にする? それともお風呂にする? お風呂なら一緒に入りたいな~」
と言って期待したような顔もする。そう、香奈海は異常に一俊とスキンシップをとりたがるのだ。
香奈海がこうなったのは、昔から彼がずっと香奈海の傍にいたからだろう。
母親が死んで、「ママがいない」とずっと泣いてた香奈海。一俊も母親が死んだことがすごく悲しくて、寂しかった。
そして、その気持ちを紛らわせたかったのだろうか、一俊はいつも誰かと一緒にいたがった。一緒にいることが多かったのが、一番幼かった香奈海だ。
やがて母親の死を受け入れたのだろう。時を経るごとに香奈海は落着き、いつしか一俊に懐き、現在はこうなってしまった。
しかし、問題なのは妹だけではない。
『ガチャッ!』と玄関の扉が開き、
「話は聞いてたよ~! お姉ちゃんもかなちゃんとかー君と一緒にお風呂入る!」
そう言って一俊の背中に抱きついてきたのは姉の深幸だ。
彼女は外ではちゃんとした性格で過ごしているのだが、家ではいつもこんな感じだ。家族がそれほど信用されているのだと思うが、これはやめてほしいと一俊は思う。
彼女がこうなったのも、深幸、一俊、香奈海の三人で長く暮らしてきたせいだろう。
父親は、母親の葬式を終えてから家にいないことが多くなった。なんでも、やる事があるそうだ。
当然、三人は納得はできなかったが、いつも優しい顔をした父さんが初めて見せた真剣な表情と必死な説得に、三人は無理矢理納得せざるをえなかった。
深幸も香奈海も、ものすごく可愛い。こう思っているのは俺だけではないのだろうと一俊は思う。
その証拠に、学校では毎日のようにラブレターを貰っているらしい。二人は、頭もよく、地元の名門の高校と中学にそれぞれ通っている。
……それにひきかえ、ラブレターも貰ったこともないし、告白されたこともない自分に落ち込む一俊。しかし、落ち込んでいる場合じゃないな、とすぐに復帰する。
香奈海はまだ中学1年生だからそれほどでもないが、深幸は高校3年生だ。背中にあたる柔らかい感触に、一俊は若干焦る。
(ヤバい落ち着け、俺)
自身を落ち着かせ、彼は素早く冷静に、くっつく二人を引きはがす。
「いつも言ってるが、ダメだ」
「「えーーー……」」
「えー、じゃないっての……じゃ、先に風呂入るからな。 入ってくんなよ!」
これが男―――一俊の日常だった。
未だ後ろで文句を言う二人をしりめに、風呂に向かいながら、父さん次はいつ帰ってくるのかなー、などとのんびり考えていた一俊は……
不思議な夢を見たことなどきれいさっぱり忘れていた。
いかがでしたか?
これから宜しくお願い致します。