14話 時の霊廟
翌朝、朝ご飯を食べ終えた一俊は屋敷を出て一時間ほど歩いていた。アンの言う通りに湖や山を通り過ぎ、現在は森の中だ。
森には色とりどりの葉をつけた木々が立ち並んでおり、差し込む朝陽に照らされて光り輝いているように見える。所々から何かの鳴き声も時々聞こえる。一俊はここにいるだけで気分がよくなっていくような感じがした。
一俊がそのまま景色を楽しみながら歩き続けていると、やがて開けた場所に出た。そこにあったものを見て思わず一俊は立ち止まる。
「……ここは……あの夢の」
一俊にはその光景に見覚えがあった。あの夢で見た場所だ。夢では、周りには霧が立ち込めていたが、あの目の前に立つ不思議な大きな木は間違えようがない。
木の根元に近づくと、そこには夢で一俊が開けたフタがそのままの状態で開いていた。夢では出てきた光に気をとられて気が付かなかったが、フタの下には階段があって地下へ続いていた。
「……あの夢の場所がなんで?」
「……その階段が時の霊廟へと続いておる。ここから先は堂々と自分を強く持つのじゃ。さすれば危険は……無いから安心してよいぞ」
一俊の疑問にアンは答えなかった。
アンの説明の間が気になった一俊だったが、なぜか自身も直感的に安全だと感じ、フタを完全にどかして階段を下りていく。外の光は入ってきていなく、明かりも無いはずなのになぜか少し明るい。そのまま無言で階段を下りていく一俊。
やがて階段は終わりを迎え、一俊は大きな部屋にたどり着いた。その部屋は、人が2人は入れそうな大きさの石がいくつもあり、左右に丁寧に並べられていて、真ん中は通り道となっていた。一俊は、石の間の道を更に奥へと進んでいく。
左右の石も無くなり、少し歩いた先には再び開けた場所が。
そこで一俊は困惑した。今度は何も無く、行き止まりだったのだ。アンに呼びかける一俊だったが、返ってきた返事は、アンの声ではなかった。
『ここは時の霊廟……無闇矢鱈と近づいてはならぬ場所……ここを訪れし愚か者……汝は何者か? ……名乗るがいい』
重く響く声に一俊は硬直し、誰かに見られているような感覚に冷や汗が流れる。しかし、アンの『自分を強く』という言葉を思い出して口を動かす。
「お、俺の名前は時沢一俊だ!」
大声で名乗った一俊。未だに視線を感じるが、表面上は堂々と立つ。しかし、内心冷や汗だらだらだ。
『……よかろう……時の系譜に連なる者よ』
再び響きわたった言葉と共に目の前の行き止まりが突然動き出す。
その光景を唖然として見ていた一俊の前に現れたのは……一匹の巨大なサイ。今まで一俊が壁の一部だと思っていたのは巨大なサイだったのだ。
『……我が名はトゥルサス……時の霊廟を守護するものなり……運命の子よ……いかようにして参った?』
「……運命の子?」
一俊が疑問に思っていると、今まで沈黙を保っていたアンがトゥルサスと話し出した。
「久しいのトゥルサス。今日は、こやつにお前の話を聞かせたくて参った次第じゃ」
『……そなたは……そうか……ならば語るとしよう……この世界を……失われつつある歴史を』
そうしてトゥルサスは語りだした。