12話 ナタリアとの街 その3
一俊は走る。背中で怯えているナタリアを守るために。
(ワシもサポートする! 攻撃は考えず、避ける事だけを考えるのじゃ! 表通りまで全力で駆け抜けろ!)
(あぁ!)
向かってくる男達を前にして、アンの言葉を頼もしく思う一俊。
「「オラァ!!」」
男達の攻撃がくる。
そんな時、一俊には背中のナタリアがより一層抱き着くのが分かった。
(っ! ……やるしかねぇ!)
今まで喧嘩などしたことのない一俊は、この状況に恐怖があった。しかし、それでも一俊の足が止まることは無い。一俊には、絶対にゆずれない理由があったから。ただひたすらに前へ、前へと足を動かす。何が彼をそうさせるのか……それは後々分かるであろう。
「「「やっちまえ!」」」
男達は殴られて吹っ飛ばされる一俊の姿を予想して、勝ち誇ったかのように笑う。だが、一俊は時の属性を持つ者だ。時の流れが遅いことにより、男達の行動が、攻撃が……見える。
(……いける!! ……見える!!)
前から来た2人の男が一俊に殴りかかる。それに対して、男達の間を抜くように加速して避ける一俊。もちろんナタリアには触れさせない。
それを見て男達は一気に余裕の表情から焦りの表情に変わる。
「なっ、速ぇ!? オイ! 逃がすな!」
男達は一斉に一俊に襲いかかる。
(アン! 頼んだ!)
(おぅ! 前は自分で見えるな? 右後方からくるぞ!)
全方向からくる男達の攻撃。そんな状況の中でも、アンのサポート、テムプスの力もあり冷静に的確に一俊は右に、左に避ける。
「この野郎!…くそっ、何でだ? なんなんだコイツは!? 全然当たらねぇ!」
次第に男達はイラつきだす。
そんな一瞬の隙をつき、一俊は男達の包囲を突破する。
「オイ何やってやがる!? 相手は女を背負ってる上に1人なんだ! 絶対に逃がすんじゃねぇ!」
慌てて一俊を追う男達。
騒ぎを聞きつけたのか、周囲の建物から他の男達も出てきて一俊を狙う。
(……ハァ、ハァ、ハァ)
(後少しなのじゃ! 頑張れユー!)
(……ハァ、ハァ……お、おぅ!)
前から、右から、左から、後ろから。執拗に一俊を狙って来る攻撃。
理不尽な拳の嵐を必死に避けて走り続ける一俊の目に、とうとう表通りが見えてきた。
(……あと少し!)
(行くのじゃ!)
希望の光に勇気付けられ、一俊は更に加速していく。
しかし、一俊の体はとっくに限界を迎えていた。表通りに気をとられてしまったのもあっただろう。表通りまで後少しというところで、
「ぐっ!」
(ユー!?)
建物の影から出てきた男の足払いに気づかず、一俊は転倒してしまった。
「キャッ!」
倒れてしまった一俊の背中から投げ出されるナタリア。
「「「「「今だ!」」」」」」
その隙に距離を縮めてくる男達。ここにきて疲れが一気にきてしまった一俊は、足払いをかけてきた男を精一杯の力で殴りつけ、
「ナタリア! 今の内に表通りへ行け!」
ナタリアに逃げるよう指示した。
「で、でも! そんなことしたらカズトシさんが!」
「俺は大丈夫だ! 早く!」
「……急いで助けを呼んできます! どうかそれまで……」
そう言って表通りに向かうナタリア。
「くそっ! 女を逃がしやがって…… おい、テメェ! 覚悟できてんだろうなぁ!?」
疲れで逃げることができない一俊を、ナタリアに逃げられて激昂する男達が取り囲む。それを前に、無言でなんとか立ち上がる一俊。
「無事に帰れると思うなよ? オメェ達! やっちまえ!」
「「「「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」」」」
一俊に襲いかかる男達。目を閉じるでもなく、一俊は自分に向かってくる男達を見る。一俊はまだ諦めてはいなかった。しかし、ろくに動くことはできない。
そんな一俊に男達が攻撃しようとした刹那、
――――――突如現れた炎の壁が、一俊を守るように男達に立ちはだかった。
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一俊に逃げるように言われたナタリアは戸惑うも、すぐに表通りへと駆け出した。
ナタリアは自分があの場にいても何の役にも立たない、むしろ足手まといであることを理解していたからだ。ならば、助けを呼ぶことしかナタリアにはできることがなかった。
(誰か、誰か!)
辺りを見回すも、誰に助けを求めればいいかが分からないナタリア。そんなナタリアの目に映ったのは自分の姉であり、憧れでもあるレミの姿だった。
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時は数時間前。
レミは、休日である今日を、友人とレアラルスの街へ行く約束をしていた。ナタリアも誘おうと考えたレミだったが、朝食後にナタリアの部屋を訪れてもナタリアはいない。不思議に思ったレミが屋敷の人にナタリアの事を聞いたところ、一俊と出かけたことを聞かされた。
(二人きりで出かけるのを認めるなんて! どうしてそこまであの男を信用できるのかしら!?)
怒っていても仕方がないので、部屋で出かける準備をするレミ。準備も終わってゆっくりしていたところ、
「レミ様。水池様がお見えになりました」
と知らされたので、外へ出る。そこには、レミの親友である水池エレナがいた。
「やっほ~! レミ~!」
「おはよう、エレナ」
互いに挨拶をかわして街へと歩き出すレミとエレナ。
今日はどんな店に行くか、どんな物を買うかなどで盛り上がっているとレアラルスの街へ到着した。
2人で相談した結果まずは服を買うことになり、お気に入りのお店に入る。
「あ~! これなんていいんじゃない?」
「エレナにはちょっと小さくないかしら?」
「じゃ、レミはこの服どう?」
「そうねぇ……」
互いに服を吟味して、何分もかかってようやく服を買って2人は外へ出た。
「じゃ、次何処行こっか?」
「そうねぇ……あら? あれはナタリア!? どうして裏通りなんかから……」
エレナと話していたレミは、裏通りから出てきたナタリアに気づいた。ナタリアは、慌てているようで、あっちこっちを見回している。……すると、ナタリアがレミ達に気が付いて走り寄ってきた。
「助けて、姉さん! カズトシさんが……」
「……時沢さんがどうしたの?」
「私を庇って裏通りの人達に……とにかくカズトシさんを助けて!」
「……エレナ、少し付き合ってくれる?」
「もちろんよ!」
一俊を助けるのは少々気が進まないレミだったが、ナタリアに頼まれては仕方がない。それに、ナタリアを庇って助けてくれたという一俊。
(あの男の真意は分からないけど、助けないわけにはいかない!)
そう考えて裏通りに入ったレミの目には、たくさんの男に囲まれ、今にも攻撃されそうな一俊が。
状況はよく分からないが、すぐさまレミは「イグニス・バリエース」を放った。
次回で街編は終わりの予定です。
少し補足ですが、一俊の過去は、もうちょっと話が進んだら明かされる予定です。