10話 ナタリアとの街 その1
部屋に戻った一俊。
「……なぁ、本当にこんな服ばっかしかないのか? せっかく街へ行くんだ。どうせならもっとマシな服……」
一縷の望みに託してアンに問いかけるが、
「無いのじゃ」
「やっぱりか……」
予想していた返事に撃沈する。一俊がそのままベッドに沈んだまま数分の時が過ぎたが、コンコンと沈黙した部屋に鳴り響いたノックの音で体を起こす。気だるげにドアに開けた一俊だったが、ドアの先の光景にいっきに現実に引き戻される。
そこにいたのは、一緒に街へ行く約束をしたナタリア。彼女は高価な衣服を身に着けている訳ではない。むしろ控えめといっていいだろう。しかし、それが逆に美少女であるナタリアの存在を引き立たせていた。
褒め言葉を言うでもなく、なんらかの反応を示すわけでもなく、ナタリアに見惚れてぼーっとする一俊。
「あ、あのどうでしょうか? わ、私、変じゃないでしょうか!?」
ナタリアの言葉で我に返るが、
「え、えっと……その……凄くいいと思う」
月並みな言葉しか出てこない。それでも、顔を真っ赤にするナタリアだったが、
「あ、ありがとうございます!」
そう言って黙り込んでしまった。互いに無言の状態が続く。
(ユー、何をしておるのじゃ! こういう場合は男がリードせんと!)
(……俺は街の場所を知らないんだが……)
(屋敷の外に出るくらいはできるじゃろ)
アンの言葉で動きだす一俊。
「えー、じゃあ行こうか?」
「……ぁ、はい! ごめんなさい!」
そう言って二人は屋敷の外へ出た。
「で、街って何処にあるの?」
「はい! レアラルスの街は歩いて十分ほどです」
「レアラルスって街の名前?」
「そうです! この星で一番の大きな街なんですよ! 学校も街の近くにあります。 ……一俊さんは聞いた事もないですか?」
「あ、あー! そうだった! 行った事はないけど、聞いたことはあるよ!」
(そういや、ナタリアには事情説明してないんだっけ? ……なら、どうして何も聞いてこないんだ?)
(リュークが上手く説明してくれたんじゃろ)
アンの言葉に納得する一俊は、ナタリアの言葉に顔をあげる。
「見えてきましたよ! あれがレアラルスの街です!」
そこには、巨大な門があった。衛兵らしき人もいて、身分確認みたいな事をしている。
(……俺……入れるんだろうか?)
疑問に思う一俊。真っ黒な一俊を見た衛兵は眉を顰めるが、次にナタリアを見た衛兵は一俊とナタリアを丁重に門の中へと入れてくれた。
(……なんでだ?)
(……火賀の家については説明したじゃろう……)
アンの言葉に納得する。そんなことをしていると
「さ、さぁ、行きますよカズトシさん!」
と言って手を繋いできたナタリアに案内されて、一俊はレアラルスの街への第一歩を踏み出した。
ナタリアに連れられた一俊が最初に入った店は、メディアムの店だった。剣、槍、棍、弓、盾、鎚……様々な物がたくさんある。
「この街には他にもたくさんメディアムのお店はあるんですけど、私のおすすめはここです!」
物珍しそうに見ている一俊にナタリアが説明する。
(……その年でおすすめの武器屋があるって……)
(そういう世界なんじゃ。諦めい)
アンに説明されて渋々納得した一俊は、気を取り直してメディアムを見る。
(俺はやっぱり棍がいいかな? リーチ長いし……いや、弓もいいかな? 接近戦とか怖いし……)
(……その根性、後で鍛え直してやるのじゃ。)
(だって俺武器なんて使った事ないんだぜ!? そんな俺にいきなり剣なんか持たしてみろ! ……自爆する気しかしねぇ……)
(……それにユーはメディアムが使えんと言ったじゃろうが)
(…………そうだった…………じゃあ俺が見ても意味ないじゃん)
(ナタリアと一緒に見て回ったらよかろう)
ということでナタリアの所に行く一俊。
「ナタリアのメディアムはどんなの?」
「私は弓です……クレアチオを操るのが苦手なので」
少し悲しげな顔をするナタリア。
(どういう事?)
(……この前メディアムについては説明したな? クレアチオを操るのが得意なクレアドールは、メディアムで接近戦をしながらクレアチオで攻撃したり、クレアチオのみで遠距離攻撃ができる。
しかし、苦手なクレアドールはメディアムで接近戦を挑むと、相手が強い場合は相手の剣などの近距離型メディアムと、相手の操るクレアチオを同時に相手にしなければならなく、確実に不利になる。…よほど接近戦が強ければ別じゃが。
よって、苦手なクレアドールは、まだ勝機のある遠距離攻撃型のメディアムを選ぶのじゃ)
(……要するに、得意なクレアドールはメディアム使いながらクレアチオ使えるけど、苦手な場合は、メディアム使うか、クレアチオ使うかの二択しかできないと?)
(そういう事じゃ。まぁ、得意なクレアドールでも、超長距離狙撃手は遠距離型のメディアムを使うがの)
アンと頭の中で話して納得した一俊にナタリアから声がかかる。
「カズトシさんはもう大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ナタリアは?」
「私ももう終わりました! では、次の店に行きましょう!」
そういって再び一俊の手をとるナタリア。その顔は先程の悲しげな表情の面影はなく、とても嬉しそうな表情だった。
次に2人が訪れたのは衣服の店だった。その店は男と女のエリアに分かれていたので、再び入口で落ち合う事を約束した一俊とナタリア。店の中を見渡して、普通の衣服がある事に一俊のテンションは急上昇する。
(おぉ! 普通の服があるじゃねぇか! よかったぁ~)
そんな一俊を見て焦るアン。
『……まずいのじゃ! リュークがお金を渡していなかったら服が買えなかったのに余計な事を……どうにかしてこの店から……あれは!』
変な事を考えているアンに気づかず、一俊は普通の服を見つけた感動に打ち震える。
(この真っ黒な格好で街の人から散々変な目で見られ、それに耐える事……45分位か?
やっと! やっと! 俺は解放される!)
(ユー! ユー! 一旦店を出るのじゃ! すぐ戻ってよいから!)
(なんでだよ?)
(お主にまだ話していないことがあった)
(じゃあ言えばいいじゃん)
(……実物を見ての方が分かりやすいからじゃ! 早くワシの言う方向へ行くのじゃ!)
(……しょうがないな)
仕方なく店を出る一俊。アンの言う方向に進む。
(この街には裏通りがあっての。そう、今ユーが歩いてる道じゃ。ここには絶対入ってはいかんぞ!)
(………絶対に入ってはいかんも何も、お前が言うからもうだいぶ入ってるんだが………)
(……あ!)
(……あ! じゃねぇよ! どうすんだよ?)
(すぐに出るのじゃ!)
そう言われて振り返ろうとした一俊の肩が叩かれた。
「チョット! チョット!」
一俊の振り向いた先にいたのは怪しげな男。何故か片言だ。
「オミセ! ミテクダケ!」
そして手を掴まれる一俊。
(……まさかこの世界には英語まであるというのか!? ……今こそ俺の英語力を発揮する時!)
「アハン? ワッチュネー?」
(…………英語力?)
(……うるせぇ! 英語はずっと苦手教科だったんだよ!)
「ンー? トシイクツ?」
そんな一俊を無視して会話を続ける男。
(無視された………)
(当然じゃこの世界には英語は無いからの)
「……15歳ですけど」
「オォー! オナイドシ! オナイドシ!」
「「ウソつけぇ!」」
怪しげな男はどう見ても年上なので、一俊とアンは思わず突っ込んでしまう。
「オナイドシ! オナイドシ!」
「………分かった。そういう事にしておくよ」
「オナイドシ! オナイドシ!」
「………うん……」
「オナイドシ! オナイドシ!」
「「それが何か意味あるのか!?」」
再び突っ込んでしまった一俊とアン。突っ込んだせいで思わず前のめりになったので、行く気になったと勘違いした男が一俊を無理矢理連れて行く。力が強いため一俊は抵抗ができない。
(……どうしよう?)
(……しょうがない。適当にはぐらかして逃げるのじゃ)
男に半ば引きずられて店に入る一俊。そこは変な服を売ってる店だった。怪しい男2人もいる。
「コレ、チョーヤスイ!」
「……そうですね」
(ヤバいヤバい! どうやってはぐらかすんだよ!? 周り囲まれてるじゃねーか! 逃がさない気まんまんじゃねぇーか!)
(考えるのじゃ!)
「ココノモノゼンブヤスイ!」
「………………」
(どうする!? 片言の男、英語は通じない……ん? 英語が使われていない? この世界には英語が無い? ……来た! この世界なら俺は英語で苦労することはない! フフフッ、フフ)
「………フハハハハハハハハハァ!」
突然笑い出した一俊にビクッとする男達。
「ハハハッハハハハハッ!」
なおも一俊は笑い続けている。それを見て一俊からそっと離れる男達。
「……オイ! アイツ、クレイジーダゼ! オマエイッテキテクレヨ!」
「ヤダヨ! ツレテキタノオマエ! オマエイケヨ!」
「……カエルマデオクニイヨウゼ……」
「「……ソウダナ」」
数分後ようやく笑い終わった一俊は、男達がいないことに気づいた。
「……あれ? 諦めたのか? よかった~」
そして店を出ていく一俊。それを見てアンは、
(……不憫なやつじゃな……)
溜め息を吐いた。
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その頃店の前で待っていたナタリアは、
「カズトシさん遅いな……店員さんに聞いてみようかな?」
遅すぎる一俊の事を店員に聞いた。
「あの、すみません。真っ黒な格好の人見ませんでしたか?」
「あーあの人ですか? 随分前に裏通りの方に行ったのが見えたけど……もの凄い目立ってたし……」
「裏通りですか!? どうしよう……カズトシさん知らないんだ……探さなきゃ!」
そしてナタリアは慌てて裏通りに向かった。
はい! ということで街編その1でした!
次回はナタリア視点から始まります。