神様からの贈り物~僕の物語~
神様からの贈り物を「きみ」目線、「僕の物語」という形でお送りします。
読んで居ない方は、「神様からの贈り物」から読んでいただけると嬉しいです。
この小説では「前作:きみ」→今作:僕、「前作:私」→今作:きみ
なので、ちょっとややこしいかもしれません。
いつも傍に居たきみは、穢れを知らなかった。
綺麗なままで育ったきみは、僕の汚れた心なんて知らなかったんだ。
†
きみと出会ったのは小学校のときだった。
目が見えない事が原因で、いじめられていたのを覚えている。
僕はきみの事が好きだった。いじめられても耐え、強く生きていたきみが。
きみは僕にとって光そのものだった。
両親からの虐待を知った時は、どれだけ悲しんだことだろう。
幼かった僕に救えるはずも無かった。だから、出来るだけ一緒に遊ぶようにした。
遊ぶ相手の居なかったきみは、いつも嬉しそうに遊んだ。
きみは、どんどん明るい子になっていった。
†
いつだっただろう。
きみが階段を踏み外して、生死の境をさまよったとき。
あの時僕は、自分の心臓も止まるんじゃ無いかと思った。
毎日見舞いに行き、学校の話を聞かせていた。意識が無いから聞いているはずは無いが、ぼくは話すだけで良かった。そうしなきゃいけない気がしていた。
やがて一週間が経ち、僕がクラスメイトのくだらない話をしていたとき。
突然きみが笑い出して、ひどく驚いた。でも、とてもとても嬉しくて、泣きながら喜んだ記憶がある。
きっと、きみの世界には僕しか居ないのだろう。
僕が出来ることなら、なんでもしてあげたい。
僕にとってもたった一人の友達のきみは、僕にとっても大切な存在だったんだ。
†
高校に入学すると、僕には自然と友達が出来た。
元々暗い方ではなかった僕は、新しい友人たちにもすぐ馴染めた。
でも、きみがいた。
きみはもういじめられっ子ではなく、明るく育った普通の女の子だった。
いつも僕に付いて来るきみ。友人も最初は「彼女だろー」などと言ってからかうだけだったが、次第に「付き合いが悪い」などと、僕を疎遠に扱うようになった。
いじめられこそしないものの、どこかよそよそしい。
僕はきみのせいだと思った。
†
きみを殺したい。
僕から全てを奪っていったきみを。
きみがいなければ全てうまくいっていたのに。邪魔するんだ、いつもきみは。
邪魔、邪魔邪魔邪魔。
ああもう、きみなんか生まれてこなければ良かったんだ。
何で僕はきみなんかに関わったんだろう。きみのせいで僕の人生はめちゃくちゃだ。
僕の黒い心を知らず、きみは真っ白な笑顔を見せる。
整った、美しい顔立ち。それはまるで、きみの心を映して居るようだ。
ならば僕は今、どんな顔をしているのだろう。
今日もきみは、僕の隣で楽しそうに笑っている。
明日もきみは、僕の隣で笑っているのだろう。
桜並木の香りを楽しみながら。
海の香りを楽しみながら。
†
僕たちは18歳になった。
大学もきみと一緒。もう、離れられない悪夢のように僕に付きまとう。
「屋上に行かない?」
卒業式が終わり、きみを屋上へ誘う。無垢な笑顔で、きみは僕についてきた。
僕のポケットに入っている、きみの命を奪う道具がある事も知らずに。
いつも通り、無意識に腕を支えた。当たり前のようにきみが手を添える。
これで最期なんだ。この手できみを殺すんだ。
そう思うと、笑みが止まらなかった。僕は解放されるんだ。
いつも通り、明るく接する。桜の話を持ち出すと、君は嬉しそうに答えた。
他愛ない話。いつも通り、だけどもうこれで終わり。
音もなく、きみの腹にナイフが刺さった。どろどろと、真っ赤な血が流れる。
ゆっくりと目をあけたきみは、驚愕の表情を見せた。
僕が見えているのだろうか。醜くなった僕を。きっと今、笑っているだろう僕を。
きみは辺りを見回し、満足そうにまた僕を見た。穢れを知らない、純粋な瞳で。
ああ、目が見えているのか。
なんとなく、僕はそう思った。だから、言った。優しく微笑んで。
「ごめんね。もう、疲れたんだ。邪魔なんだよ。いつもいつも僕に付きまとってさ」
きみはひどく悲しそうな目をした。でも、全てを悟ったように、笑った。
死ぬ直前で、絶望を味わったんだ。
僕は高らかに笑った。
きみを殺せた事に。
己の醜さに。
今更気付いた、自分の気持ちに。
涙は止め処なく流れていった。
†
死体のきみは、この世界の何よりも美しい。そして、何よりも愛おしかった。
既に冷たくなってきたきみの頬を、そっと撫でる。
きみの血と僕の涙が混ざっていく。
もう、どれくらいこうしていたことか。
未来に希望はない。人を殺めたなら、更に酷い人生になるだろう。
きみの緩く握られた手のひらに、桜の花びらが乗っていた。
まだ咲いているはずのない桜。いったい、何処から来たのだろう。
帰り道、土手の桜並木に、一本だけ満開に桜が咲いている。
早咲きの桜は、まるできみへの鎮魂歌を歌うように、さわさわと揺れていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
急ピッチで仕上げたもので、見苦しい点多々あるかと思います。
時間があるときにまた編集して行きますので、大体の「僕」の心情が分かっていただければ嬉しいです。
さて、「僕」は結局、「きみ」の事が好きだったのかもしれません。
殺してしまってから気付いたその気持ちを、どう受け止めていくかは「僕」次第ですよね。
罪を背負って生きていくのでしょうか。自分も、自殺という道を選んでしまうのでしょうか。
そこは、読者の皆様の想像にお任せいたします。
自分なりのストーリーを描いていただければ幸いです。
番外編と言う形で、幸せな結末を書いたりしてみても面白いかな…と思ったりしてます。
さて、二作両方のこだわりとして、一人称は漢字、「きみ」は平仮名なんですよね。
平仮名にする事によって、色々な意味をもたせたくてこうしました。
変なこだわりですよね(笑)
それでは、長々と失礼しました。