第三話 炎に呑まれしペルカ
門兵の叫びは、やがて城内を駆け巡り、国中へと伝わった。
そしてついには、王の耳にも届いた。
だが、その時にはすでに遅かった。
城壁は破られ、火の手は街を飲み込み始めていた。
ペルカ国は、一夜にして混乱の渦に呑まれた。
静けさは消え去り、逃げ惑う人々の悲鳴、赤子の泣き声、燃え崩れる家屋の音が、無秩序に響き渡った。
武装した襲撃者たちは、逃げる民を容赦なく斬り伏せた。
その姿は、怯えた獣を追い立てる狩人のようであった。
王宮のバルコニーから、王と王妃はその惨状をただ見下ろしていた。
沈黙の中、目を疑うように――そして、唖然としたまま。
そこへ、小さな足音が忍び寄る。
瞼をこすりながら歩いてくるのは、王女サクマだった。
彼女は眠たげな目で外を見やり、その光景に小さく悲鳴を漏らすと、王の足元にすがりついた。
王はその小さな身体を両腕で抱きしめ、王妃に視線を送る。
「逃げなさい」
その声は低く、震えながらも揺るぎないものだった。
王妃は唇を強く噛みしめる。
だがやがて、顔を静かにほころばせてこう言った。
「私はあなたと最期を共にします」
その声には、どこか諦めに近いものが滲んでいた。
だがその表情は、愛しい者を見つめる微笑に満ちていた。
サクマはその言葉の意味を理解できず、ただ父の胸にしがみついていた。
決して、離すまいと。
――その時だった。
背後で悲鳴が上がり、鈍く大きな音が響く。
振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
男の目はまっすぐに、王と王妃を捉えていた。