第二話 夜襲
それは、サクマが十歳の誕生日を迎えてから、わずか十日後のことだった。
その夜、空は澄みわたり、星々が黒いキャンバスを隙間なく覆っていた。
人々は眠りにつき、ペルカ国は静寂に包まれていた。
このペルカ国は、薄く造られた石の城壁に囲まれている。
城門は王宮とは正反対の位置にあり、常時、兵士が交代でその守りに就いていた。
だが心地よい風と星空の下、兵たちの警戒心は自然と緩んでいた。
「今夜は星が綺麗だな」
「ああ、本当に」
門の前で立つ兵士が二人、そんな他愛もない言葉を交わしていた。
――だが、その静けさは突然、破られる。
「ん? なんだあれ……?」
片方の兵が一歩前に出て、目を凝らす。もう一人もそれに続く。
彼らの視線の先にあったのは、星の光とは異なる、無数の揺れるオレンジ色の光だった。
それは、じわじわと近づいてくるように見えた。
「ひ、人影だ……!」
「何だと!?」
声を上げた門兵の隣で、もう一人が息を呑む。
その光の正体は――松明だった。
松明を掲げる人影の群れが、馬にまたがってこちらへ向かっていた。
彼らの頭にはターバン状のヘルメット、身体には鈍い銀色のチェインメイル。その下には厚手のリネン布を巻き、腰下にはチュニック、足元には布を巻いた革製のサンダルを履いている。
装備は土の色――茶、カーキ、ベージュなど、自然に溶け込む色彩で染められていた。
腰にはサーベル、あるいは長槍。武装したその群れは、砂煙を巻き上げながら城門へと迫っていた。
泥と砂にまみれた体と装備は、彼らがひたすらに、この場所だけを目指して突き進んできたことを示していた。
二人の門兵は、ただ事ではないと悟った。
すぐに踵を返し、城内へと駆け戻る。
そして力いっぱい叫ぶ。
「夜襲だ! 夜襲だ――っ!!」