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絵の中の父

ある日の放課後

美術室で一枚の絵を描いていた


僕はあれからずっと絵を描き続けていた

父が褒めてくれたことが嬉しくて

そして

描くことで父とつながって

いられるような気がしていたからだ


「おーい、そろそろ帰らねぇのか?」


クラスメイトが声をかけてきた

気づけば外は夕焼けで茜色に染まり

校舎の影が長く伸びていた


「もうちょっとで完成だから」


僕は筆を走らせる

描いているのは青空の下を走る自転車

今度はペダルを漕ぐ僕の横を

父が並んで走っていた


クラスメイトは

「相変わらずうまいな」と感心しながら

絵を覗き込む


「これ、お父さん?」


「……うん」


「そっか。でも、なんか楽しそうでいいな」


僕はその言葉にハッとした


悲しい思い出として描いたつもりはなかった

ただあの日の夏のように

僕の心の中では今も父と並んで走っている

だからこそ

この絵の中の父は笑っているんだ



それから数年後

僕は美術大学に進学し

やがてイラストレーターとしての道を

歩み始めた


仕事が忙しくなっても

時々あの夏の日のことを思い出す

父が病院のベンチで直してくれた自転車

照れくさそうに

「また乗りたいな」と言った言葉

そして…最後に見せた微笑み



ある日、僕は一枚の絵を描いた

タイトルは 「夏の日の整備工房」


鮮やかな夏空の下、父が自転車を直している

幼い僕がその横で目を輝かせて見つめている


その絵を個展で発表すると

一人の老紳士が立ち止まった


「…これは、お父さんとの思い出の絵ですか?」


「はい。父は 僕が小さい頃に亡くなったんです

でも、ずっと忘れられなくて」


老紳士はしばらく絵を見つめていた


「いい絵ですね

まるで そこに本当にお父さんがいるみたいだ」


僕は少し驚いた

自分でもそう思っていたからだ

きっと、この絵の中では

父はずっと生き続けるのだろう


個展の最後

僕は会場を見渡しながら静かに呟いた


「父さん、俺、ちゃんと描き続けてるよ」


青い空を見上げると

夏の日の風がふっと頬を撫でていった



── 終わらない物語は

これからも僕の絵の中にある



つづく


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