episode2
「………やっと少し休めるな、風が心地いい」
隣国に行こうと思い立ち善は急げと準備をし(と言っても家からも追い出され、私物などほとんどないのだが)隣国へ行くと言う貨物船に乗せてもらった。
「隣国に1人で行く若者なんざ珍しいなぁっ!」
ガハハと豪快に笑うこの船の船主。
最近、船に乗り貨物を盗んでいく輩もいるというのに、快く乗船を許してくれた。
「少し訳ありで….」
適当に流し、またそよそよと心地よい風に吹かれる。
隣国へ行くのに、船では約1日かかる。
寝床と食料まで分けていただき、その日は幕を閉じた。
翌朝、目が覚めるともう昼前で、隣国についた後だった。
どうやら、盛大に寝坊してしまったらしい。
「おはようございます。すみません、寝坊なんて」
「いいってことよ!ほら、おまえさんが行きたがっていた隣国、アルモニーだ!」
船降り場からまっすぐに伸びる城下町。
見たところ、ケーキ屋に服屋、さまざまな店が立ち並んでいる。
そして、街の奥にそびえ立つ美しく大きな王城。
母国であるパルティシオンとはまるで大きく異なっていて面白い。
そして1番目立つのは…
(余りにも活気がありすぎないか……?)
母国パルティシオンもそれなりに大きな国で、人口と多く活気がある方だった。
それと比べても、活気に満ち溢れている。
「流石大国……伊達じゃないな」
どこの道を通ろうが人が多い。
人というか、獣人と思われるヒトも多くいる。
(ケモ耳……日本じゃ、というか母国ですら絶対に見れない光景…)
パルティシオンは獣人の入国を厳しく制限していて、街で見かけるなんてなかった。
リークは1人幸せを噛み締めながら街を歩いていると、“とあるもの”を見つけ、目を輝かせた。
「と、図書館じゃないか………っ!!」
前世からの、リークのたった一つの趣味。
それが読書だ。
歴史書、小説、論文、図鑑、様々な本が自分の知識を深めていってくれる、それに快感すら覚え、どんどん読書が好きになっていった。
アルモニーの図書館はパティシオンの王都にある図書館の何倍もの大きさで、リークをそれはそれは興奮させる。
早速本棚を見て、気になったタイトルを手に取っていく。
手に持っている本が5冊ほどになったところで、ある本に目がいった。
「アルモニーの神話の本……か、?」
なぜかその本だけがイヤに目を引く。
神話。確かに少し読んだことはあるが、そこまで興味があるかと問われれば、頷けはしない分野だった。
なぜ目を引くのか、読むべきだろうか、ともんもんと考えて、結局それも手に取り、読書コーナーへ持っていった。
さてどれから読もうと悩むが、さっきの神話の本がやっぱり気になり、それから読むこととした。
「……アルモニーには神が降りてきたという泉がある、ねぇ」
本に書いていることは結構面白かった。
アルモニーの始まりの話や、アルモニーを護るとされる神々の話。
そこで気になったのが、かつて災いと戦いが絶えなかったアルモニーを沈めるべく天界から神が降りてきた泉の話。
「あ、あのっ!」
考えにふけっていると話しかけてくる影が一つ。
黒いロングヘアーにケモ耳、綺麗な緑眼の、16、7歳の女の子。
(ケモ耳…獣人?)
「俺に何か用か?」
「えと、その本…貸してもらえたりしませんか…?」
本をたくさん独占しすぎたらしい。
確かに迷惑だったろうと、反省しながら誰でも持っていってくれて構わないと言う。
「独占してしまってすまない…」
「いえっ!こちらこそ、邪魔しちゃってすみません…ありがとうございました!」
本を一冊大事そうに抱えてパタパタと走り去っていく女の子。
俺はまた意識を本に戻し、泉のことがもっと書かれていないかとペラペラとページをめくる。
が、何も書いてはいなかったので、他の本を手に取り読みながら、泉のことを気にしていた。
(泉は王都の近くか……行ってみようかな)
持っていた本を全て読み終わり、本棚に戻したらちょうど昼ごろだと気づき、図書館を出た。
何か食べるものはないかと歩いていると美味しそうなホットドッグの店を見つけ、思わず買ってしまった。
「うまいなぁ、ホットドッグ…」
(未だかつて、この世界に転生してからこんなにも前世らしい食べ物を食べただろうか…)
感傷に浸りながら足は王都の外へ向き、どんどん歩いていった。
もちろん、あの泉にお目にかかるためだ。
アルモニーは、富裕層と一般層の差はそこまで激しくない。
正当な税を取り、支払い、正当な用途で使われている。
だから、国民の幸福度も高い。
だがあくまで富裕層と一般層の違い。
富裕層と貧困層の差は余りにも激しかった。
王都だけ見ればただのいい国だと思う。
だがそこから一歩出てみれば、道に人が行き倒れ、道も一度整備されたきりで、ところどころ塗装やらが剥げている。
「ほんとにここに泉があるのか、?
もうちょっと整備されていてもいいのでは…」
神が降りてきた、それだけで付加価値がつく。
観光客などにもアピールできるだろう。
なのにあまり観光客らしき人がいない。
(なぜだろう、と考えても分かりきったことか。)
ドンッと何かが体にぶつかる。
咄嗟に鞄と財布を強く掴む。
「チッ」
(ああいうのがいるから人が寄り付かんのだろうなぁ。にしても、これはひどい……)
目の前に広がるそれはそれは大きな泉は、濁り汚れ、到底神聖な泉とは思えない有様だった。
「これも観光客が寄りつかない理由かな…」
「あれ?この泉を見にくる人なんて珍しいですね…観光客の方ですか?」
「あぁ、そうなんですよ、図書館でこの泉を知って。」
「そうなんですか!て、あれさっき図書館でお会いしました…よね?」
そこに立っていたのは確かに、先ほど図書館で出会った黒髪に緑眼にケモ耳の女の子。
「ほんとですね!ここら辺にお住まいで?」
「そうなんですよ、あよかったら私の村に来ますか?めっちゃ近いんです!ここで会ったのも何かの縁でしょうし!」
「………………いいんですか?では、お言葉に甘えさせていただいて。」
にこりと笑みを浮かべて、大人しくケモ耳女子についていくことにした。
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