アトリの木
アトリは森に住んでいた。
アトリにはお気に入りの木があって、そこにとまるのが好きだった。
春には葉をつけて、夏になったら花が咲いて、秋になったら実がなって、冬になれば葉はなくなるけれど、アトリはそんな木が大好きだった。
何度か冬を繰り返して、アトリは大好きな木がどんどん減っていること、そして代わりに見たこともない四角い大きなものがたくさん増えていることに気がついた。その場所には自分より大きな黒い鳥がいたので、アトリはその鳥に聞いてみることにした。
「ねぇ、これは一体何なの?」
「これ?あぁ、これは木だよ」
黒い鳥は当たり前のように答えた。アトリは驚いた。
「木?こんなものが木なの?」
四角いものはアトリの知っている木とは違って、花は咲かないし実もなることは無い。それなのにどうして木なんだろうかとアトリは不思議に思った。
「お前の言っている木というのは、葉があって花が咲く木のことなんだろう?でも、オレたちにとってはこれが木なのさ」
黒い鳥は少し寂しそうな表情になった。
「オレも昔はお前と同じような木に住んでいたさ。だけど、はっぱのある木はどんどん減っていって四角い木がどんどん増えていくから、みんながみんな葉っぱのある木に住むことが出来なくなった。だからオレたちはこの木に住むことにしたんだ」
黒い鳥は、四角い木がつくる実のある場所までアトリを連れていってくれた。実はおかしな皮に覆われていて、アトリはそれをクチバシで突いたりひっぱったりしてみたが、小さなアトリの力ではどうしようもなかった。黒い鳥がアトリの代わりに皮を裂いてくれたが、裂かれた場所から酷い臭いがした。
「この木で暮らすのも楽じゃないだろ?オレたちは何とかやっていけるが、多分お前には無理だろうな」
黒い鳥がそう言うと、アトリはだんだん悲しくなってきた。
「どうして四角い木は増えていくんだろう?どうしてボクの大好きな木は減っていくんだろう?」
「さぁな。どこにどんな木が生えるかなんて、オレたちには決められない。だからこの場所にどんな木が生えていようと、オレたちはその木で生きていくしかないんだ」
黒い鳥は「じゃあな」と言って、飛んでいってしまった。取り残されたアトリは少し怖くなった。
―もし、ボクの大好きな木が全部なくなってしまったらどうしよう?
この四角い木の中でボクは生きられるんだろうか?