受け継がれていくものは
紅葉鮮やかな秋
あたしは寝ぼけた頭でスマホの電源を入れる。
表示された時刻を見て「げっ!」と声をあげた。
「13時超えてんじゃん……」
「まぁ、昨日は帰って来るのも遅かったし……」
のそのそと起き上がって、洗面台に向かう。
歯を磨きながら昨日のことを思い出す。
昨日はバイトのメンバーとの飲み会があり、
恋愛や休日のことなどお酒の酔いもあって、
大いに盛り上がった。
帰宅したのは午前2時を過ぎており、
歯磨きのあとで倒れるように夢の中へと落ちた。
「まぁまぁ、今日は大学もバイトもないしね……」
あたしは洗顔と着替えを済ませると、
冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出して一口飲む。
「課題の続きやらなくちゃなー」
「その前に夕飯の買い物行ってきよー」
軽くメイクを済ませると、財布とスマホ、鍵を
エコバッグに詰め込んで近くのスーパーへと向かった。
スーパー店内
あたしは買い物かご片手に青果売場に立っている。
「茄子が安売り……メインはこれにしよ」
「そういえば、実家でもよく茄子食べてたなー」
「知り合いの農家の人がどっさりくれるからなー」
あたしは値引きの茄子の袋をかごに入れる。
「その横にはピーマン……茄子とピーマンってあうよね」
「それにこの時期にはピッタリだし」
ピーマンの袋をかごに入れる。
「彩りに赤がほしいなー」
「パプリカ……は高いし……人参かな」
「お味噌汁にも絶対使うし人参にしよう」
人参の袋をかごに入れる。
「味付けは……あっ、そういえば味噌炒めの
商品ポスターが飲食店の扉に貼ってあったな……」
「あれは茄子と辛味噌だったけどもっと簡単に……」
「よし! さば味噌煮缶だ!」
「缶詰はもとから味付けされてるもんね」
缶詰のコーナーに向かって足を止める。
「ん~~ っても種類が多いな……」
「高いのはなしで……
けど余計な添加物もなしにしたい……」
すこし時間をかけて一つを選んでかごに入れる。
かごの中の商品を確認してセルフレジで会計を済ませる。
ポイントカードでポイントもしっかり獲得して
いい気分で自宅に帰った。
その後あたしは課題に集中した。
午後19時を過ぎ、きりの良いところまで
課題を進めると立ち上がってキッチンへと向う。
手を洗ってから、冷蔵庫から食材を取り出すと
「よし!」と気合をいれて料理を始める。
「まずは茄子を半分に切って、その後横に切る」
「人参も半分に切って、それを更に半分に切る」
「その後に横に切って一口大にする」
「ピーマンも半分に切って種を取り出す」
「その後に横に細切りにしていく」
野菜を切り終えるとフライパンに油をひいていく。
ちなみにあたしが使うのはオリーブオイルだ。
「フライパンを温めて油を馴染ませたら、
一番火が通りにくい人参を炒めていく」
「ある程度火が通ったら茄子と
ピーマンをいれて炒めていく」
「そしてさば味噌煮をほぐしながら加える」
「煮汁も栄養があるから同時にいれる。
もったいないしね。廃棄はなくさないと」
「さば味噌煮を野菜と絡めて炒めたら完成!」
あたしはご飯とお味噌汁をテーブルに並べて、
夕飯の準備を整える。
「いただきます!」
きちんと手を合わせて感謝を口にすると、
缶チューハイを「プシュッ」と空けて一口飲む。
「ふぅ〜 今日も一日お疲れ様でした」
「って、起きたの昼だけどね ふふっ」
自虐的な笑みを浮かべて箸を手に取ると、
茄子に箸を伸ばして頂く。
「ん〜〜 柔らかくも弾力があって心地良い歯ごたえ。
さば味噌煮もしっかり絡まってる」
「やっぱり缶詰は偉大だねー。
そのままでもおつまみになるし、料理にも使える」
「それに茄子とピーマンってほんと相性バッチリ」
「さば味噌煮の濃さとコクでご飯を求めずにはいられない」
ご飯を一口食べるとそれが大正解だと確信する。
「ふふっ……ふふふ……」
「味噌と米……この良さを本当に味わえるのは
日本人だからだよねー」
味噌汁を飲み、うんうんと頷く。
「それにしても、この料理はご飯にもお酒にも
バッチリあってるよねー」
「野菜を缶詰で炒めただけの
いかにも学生の料理って感じなのに……」
「まぁ、あたしは学生だけどねー」
「これ、大学やバイトのみんなにも教えてあげようかな……
お酒好きも多いから喜ぶと思うなー」
「あっ そうだ! 実家にも教えてあげよう」
あたしはスマホのカメラで写真を撮り、
LINEで簡単な作り方と画像を送信した。
しばらくして、お礼と明日作るとの返信があった。
そしてあたしは一つの発見を得た。
___ご飯にあう料理は酒にもあう___
あたしが料理研究家としての
一歩を踏み出した日でもあった……
それから十数年後……
あたしが料理研究家として考えだした料理を
愛する我が子と一緒に作って笑い合って食べて、
また次の世代に受け継がれていくことを
この時のあたしは知る由もなかった……