第二十話 無事に産めるため⑤
引っ張り合っている最中、隆矢のスーツの布地が破れる音までも聞こえる。雅子はどうしようもなく、さっき隆矢の言葉を繰り返すしかできない。
「隆矢、落ち着いて。子供を殴ってはいけないんだよ!」
この言葉が出ると、隆矢を引っ張る教師たちは言葉を失った。この言葉はまったく説得力ないじゃないか!
先生たちは隆矢を引き止めることができず、雅子は仕方なく光野を探した。
「光野、黒田を連れて先に出て行って。私たちは先生たちと協議する。」
「正彦!逃げるつもりか!」
「黒田叔父、私と正彦は本当にカップル関係じゃないんです。」
「彼をかばなくていい!今日は学則を守らず、明日は法を犯せるんだ!」
事実は、子供をしつける際には、お金持ちと庶民の違いはない。怒ったお父さんたちはみんな同じだ。
そして、教員室での追いかけっこのシーンが再び繰り広げた。
直人は正彦が叩かれるのを見てニャニャ笑った。いつもせっかく帰る母親の時間を占有したから、ざまーみろ。直人は15年前に戻る価値を感じた。
しかし、光野が正彦を引っ張りながら一緒に逃げて、混乱の中で一撃を受けたのを見て、直人は再び我慢できなかった。
彼は再び教員室のドアを蹴り開けた。
「また来た?」
「君を連れて行くよ!ロマンチックだろう。何を逃げてんだよ、正彦を叩かせろよ、彼の息子だろ、殺さないから。」
「俺はあんたの父親と言ったじゃないか!俺が死んだらあんたも生まれないぞ!」
正彦は直人の言葉を聞いて目を見開いた。ふざけているうちに、正彦の肩に一撃が入り、うめき声を上げ、文句を言うのをやめた。
「黒田のおじさん!」
光野が正彦が痛がるのを見て、声を大にして言った。
教員室の中は一瞬静まった。
直人も言葉を発する勇気もなかった。彼は光野の口調には怒りが感じた。直人は母親が普段温和で、ほとんど怒ることはないが、限界を越えた時、その怒りは恐ろしいことだっとよく知っている。
「黒田のおじさん、誤解です、私たちは…」
光野は元々、「僕たちは恋人関係じゃない」と言いたかった。
だが、言葉が出る前に、低血糖の症状が悪化し、正彦と一緒に走り回っていたこともあり、若さだけで支えられていた体がついに限界に達した。吐き気が再び襲った。
「...げふ」
光野は口を押さえ、身をかがめた。
教員室は空気までも固くになった。
「タン…」
隆矢のほうきが床に落ち、静かな教員室で、その音は響き渡ている。
直人は震えながら、信じられなく光野の腹部を見ている。
「叩いちゃだめ、叩いたら命を…落とす?」