先輩のイメージ破壊
あー、お餅おいしかった。
「えーと、カイ様は000号室ですね。はい、これが鍵です」
「あーはい」
「えーと、キョウカ様が001号室で」
「はい。ありがとうございます♪」
俺思ったのがさ、先輩とエル、すっげえ仲良くなってね?
さっきも、この道の途中で、冗談言いあってたし。
……先輩のコミュ力かぁ。
「えっと、ザキポン様が……ヒイッ! 002号室ですぅぅ!」
「わかった。(先輩を独り占めできねえじゃねえかぁぁ……この女ぁぁぁぁぁ)」
「だから、すぐ脅すなよ。九素崎」
「脅してねぇっつってんだろーがぁ!」
「ヒィィ! ……すみませんでしたぁ……!」
「やっぱ脅してんじゃねーか」
「あぁ!?」
「ヒイィ……!」
なんだこの不毛なやり取りは。
最早飽きた。
「じゃあね、時兎君」
「ああ、うん。じゃあ、先輩」
「では、俺も失礼しますね。先輩」
「あ、ああ」
…………
「なんだあのカオスは」
いや、普通さ、もっとましな奴らが召喚されるだろ?
かたや美少女、かたや腐れ外道、そして俺は村人。
これをカオスと言わず、なんと言う。
しかし……
「もう、ぶっ飛ばすって決めたもんな……九素崎も……理不尽にも……」
ってかさぁ、どこのどいつが、村人が無能なんて言いやがった?
村人だけが持つ才能を活かせなかったのは、世間だろうが。
まあ、その『無能』の村人を滅ぼして大飢饉に襲われたってのは愚かな話だけどな。
ん? ってことは、この世界には今現在自動で食料を作る魔法がないのか?
まあ、おおかた、【職人】とか【商人】とかが作ってるんだろう。
エルに貰った、職業一覧と関係図を見ながら思う。
でも……なるほどぉ……
「無能って言いたくなるのもわからな……いけど、まあ納得できるかな。事実、この関係図的には結局村人の役目は載ってないからな……」
この関係図上、食料的には……まあ村人が作っていた。他の職業は、まあ趣味や副業の領域だ。村人が作った食料。それを商人が買い取る。そして街のやつらに売る。こういう流れになっている。
商人も、少しは田畑を作っていたとはいえ、食料問題を主にまかなってきたのは村人だ。
次に、資源。
鉱山資源を採っているのは【採掘師】だ。
しかし、それを手伝っていたのもまた、村人だ。
採掘の手伝い、運送、取引……採掘師はただ山を掘るだけだ。ほかのことは全部村人がやってる。
だが、この関係図だけ見ると、採掘師が一人だけやっているように見える。
……
「村人が無能? いやいや、関係図だけ見れば役目は無いが、ちゃんと役に立ってんじゃねーか。むしろ、農作物は全面村人、鉱産資源も村人の手伝いなくして街に出すことは難しいって書いてるし……もしかして、この世界のやつらって馬鹿なのか?」
村人が無能って言ったのは、戦闘面だけなのか?
まあ、戦闘面だけだったら分かる。どうあがいても初級魔法しか使えないんだからな。
ま、こっから村人の歴史を変えてやるか。そのために……
「先輩にお願いしないといけないな。多分日中は九素崎が一緒にいるだろうな……ん~じゃ、夜中の、今行くか?」
「ねえ! 時兎君、起きてる!?」
「!?」
……ビビったぁ……
今から行こうとした部屋の人が来るとは思わないじゃん?
ってか先輩……なんで、カギ閉めたのに破壊して入ってくるんですか……
「それで、時兎君。用件は二つあるんだけど、いい?」
「いいですけど」
なんだろう? 強くなることが一つというのは分かる。だったら、もう一つはなんだ?
「えっと一つ目は、村人ながらに勇者を超えるというものなんだけど。私にできることって……ある?」
「むしろ九割あなたの力」
「……んえ!? どういうこと!?」
「エルとグルナ王が言った村人の特徴覚えていますか?」
「え? えーっと、村人はどんな難しい術式でも初級魔法はすべて使える……んだっけ」
「そう。そしてこの世界の魔法は、呪文とか詠唱とかじゃなく、魔法陣ということも召喚されたときに分かってますよね?」
「う、うん。それがどうしたの?」
「そしてここに、初級魔法一覧があります」
「うん、なんで?」
「エルに貰いました」
『一応そなたに必要じゃろうからな』、って言ってグルナ王から、エルに。エルから俺に渡された。
これ、むっちゃ便利だわ。
「簡単な話。魔法陣を組み合わせて、新しい初級魔法を創る。でも、複数の魔法陣の扱いは普通の人は無理だ。しかもそれを一つの魔法陣にするなんてな。でも、村人だけは使える」
「ああ……初級魔法を組み合わせただけなら……村人は問答無用で使える……そういうこと?」
「そういうことですね」
「だったら、君だけでも作れそうなもんだけど……なぜ九割は私?」
「まあ、九割というのは大げさでしたけども。あくまで、創るのは村人の能力にはありませんからね。創ったとしても、世界に記録されてなければ、創って使うのに時間がかかる。だから、【聖女】の能力を使おうかと思って、いいですかね? アイデアは俺が出しますんで」
「うん! いいよ! 大賛成!」
「そうですか! ありがとうございます!」
よっしゃ! これは確定したな!
ま、後は九素崎の対応か。
チッ……あいつめんどいな。まじで。
「あ、それと、二つ目の用件だけどね」
「ん? ああ、そうでしたね。なんですか?」
「敬語をやめてくれる?」
「……はい?」
「だ~か~ら! 私のことを鏡花って言ってほしいの……それと、なんか敬語って堅苦しいから……」
「う~ん? いや、まあ、言いたいことは分かりま……分かるよ? でもさぁ……いいのか?」
「うん! むしろその方が九素崎と差ができていいよ!」
「……ん?」
「ん?」
今なんか、強めのワードが出なかったか?
「しかもその方が、仲良くなれて、魔法創るだけの関係じゃなくなるんじゃない?」
「? それでもいいのか?」
「いいよ!」
「いいのかよ……」
「うん!」
なんか最初はクールビューティーだったのに、イメージが破壊されてる気がするぜ。
まあ、俺的には堅苦しくない方がしゃべりやすくていいんだけどな。
「わかった。じゃあな、鏡花」
「うん。またね。カイ」
……
「ま、取り敢えず寝るか!」
もう考え疲れたわ。早く寝るか。おやすみ~
……やった……
ごく自然に、カイとの壁を取り払えた!
これで、敬語がなくなって、彼も喋りやすくなったよね!
ああ~生きているって素晴らしい。
カイく……カイは、結構ズバッという人だからなぁ……あの時に、『は? なんで、敬語やめないといけないんですか? 頭大丈夫ですか?』と、言われるかもしれなかったからねぇ……
そして、九素崎君にも、こっち仲いいアピールができる! もう、完璧ッ!
でも……
「あ~私が彼の役に立てるのかなぁ……勇者を超えるって言ってるぐらいに先を見通したり、村人が強くなる手段を考えたり……そんな人に、私ごときが役に立てるのかな」
「立てると思うよー私は」
「ッッッッ!!?? え、ええ、エルぅ!?」
「♪ そうですけど?」
「な、なんでこの部屋に!?」
「そりゃあ、私、皆さんの部屋の合鍵を持っていますからねぇ……入るのはドアからガチャっと」
「そ、そう……だとしても心臓に悪すぎるよ……」
「アハハ、ごめんごめん。でさ、話を戻すんだけど」
「う、うん」
そうだった。私の独り言を聞かれていたんだった。
うぅ……恥ずかしい……けど、こういうことは相談するのが一番だね。うん。そうしよう。
「キョウカは、彼に恋してるんでしょ?」
「ぐはあっ!」
「……あたりね。まあ、お似合いだと思うけど。何を悩んでいるの? 別に今まで通りでいいじゃない。いくら村人が勇者越えを宣言したからって、あなたに問題はないだろうし。ってか、そんなことで気後れしてるの? 情けないわね」
「う、うぅ……だってぇ……恋愛経験ゼロなんだもん……しかも、異世界っていうさ、普通では考えられないシチュエーションでしょ? これは気後れするわよ……」
「ふーん。異世界ってのは、分からないけども、ま、なるようになるんじゃない? あなたたちなら。そう思うけど、私はね。あなたも、いつも通りを見てもらうのがいいと思うよ。うん」
「う……そっか! そうする! ありがとう、相談に乗ってくれて」
「私が勝手に聞いて、喋っただけなんだけどね」
「あはは、それもそっか」
「あ、でも、王都の王子には気を付けた方がいいわ」
「王子?」
こういう世界にはやっぱりそういう人がいるのだろうか。
……気障なナンパ野郎かな? 王子と聞くと、どうしても、金髪の格好つけ野郎を思い浮かべちゃう。
「ああ、王子といっても、第一王子よ。第二王子は、イケメンで、頭もよくて、運動神経もいいんだけど……えっと、第一王子は……お察し?」
「あーーうん、なるほど? 一応察したけど、これじゃないことを願いたいわね」
おそらく……予想が違ってほしいが、デブ、あほ、我儘の三拍子が揃っているのではないか。
うーん、まあ、そういうのは元居た世界で慣れてるしぃ?(半分ストーカーのファン集団) 別に問題ないんじゃない?
「いやー多分予想通りだと思うけど、キョウカのいた世界では考えられないナンパ速度だよ」
「? どういうこと?」
「可愛い娘を見つけたら、すぐに求婚する。しかも、親の権力……といっても、第一王子っていう立場と、グルナ王がバックにいるって、脅してね。金と地位のクソ野郎だよ、まったく」
「ひ、ひどい言いようだね。まあ、分かった。気を付けておくよ」
「それでいいよ。じゃあね~私は寝るから」
「おやすみ、エル」
「うん。おやすみ、キョウカ」
……やっぱりエルと話してよかったな。
さ、私も早く寝よう!
ようやく強くなるための過程をカイが踏めそうですね。