対影魔剣
明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします!
「悪い……だが、俺も思い出しちまったんだよ……あんときの少女だとはな。未奈」
「……ッ!」
「まあまあ。あんとき殺しあった仲だろ。つっても、大事なのはそこじゃない」
「? どういうことよ」
「自慢じゃないが、俺の記憶力は異常だ。それなのに、これほど重大なことを忘れるのか? と思ってな」
「何が言いたいの?」
「つまりだな……何らかの介入があったんじゃないか? と思っている」
「何らかの介入? 例えば何?」
「分かりやすく言ったら『神』とか。勇者召喚でミスがあったとかな。まあ、そんなの怪しいのなんかいくらでもある」
「そう……」
まあ、内心ビビり散らかしてるが。
全部思い出したんだよ。あんときの顔も。
一応実践訓練は全部勝った。だが、何回か危ういところもあった。
才能はピカ一だ。本人次第だな。って思ってたんだが……
異世界で一皮剥けたか。もしくは人間じゃないから殺せるか。
何はともあれ、面白い情報が得られた。
「いや、これ以上詮索はしない。話したくなったら話せばいい。ああ、正義には絶対言うなよ」
「あ、う、うん……」
この時、未奈は思い出していた。あの時戦っていた少年の表情を。
相手を傷つけることに少しの躊躇いもない顔を。
女子相手には、剣を振るうことを少し躊躇していたが、それでも普通に戦っていた。
……良くも悪くも戦闘狂。それが時兎カイという人間なのだ。そのことに気が付いたため、カイに対して少しの恐怖と畏怖を抱いていた……
あの後、カイたちは荷造りを始め、アールビ―王国に行く準備を始めた。
目的は一つ。『対影神剣』のためだ。
いや、もう一つ。得意属性を知るためだ。
カイは村人の特性上得手不得手がない。鏡花も聖女の特性上得手不得手がない。
京は恐らく雷だろう。逆にそれ以外が弱いからだ。
愛は聖治癒師の性質的に他社の補助系しか使えない。得意も何もない。
問題は……
「で、お前どうすんの? いつもの理由で勇者パーティーから離れられないんだろ? どうやって得意属性調べるんだよ。専用の魔道具は王都にはないぜ?」
「……何とかして」
「んな無茶な。じゃあ、あれだ。着いて最初に調べてやるから、三日だけ休暇を貰うといい」
「え? でもあそこって、馬車でも二週間かかるのよね? 三日でどうやって……」
「おいおい、忘れたのかよ」
「?」
「今の俺は、世界最強クラスだぞ?」
…………
「京! 着いてこれてるか!」
「ギ、ギリギ、リィ!!! 速すぎんだよ、お前! 今の俺、音速は軽く超えてんだぞ!」
「いいじゃねえか。だいぶ速くなって。あれ? 未奈? 声が聞こえないが……」
「お前が速すぎて、お姫様抱っこされてる未奈が気絶したんだよ」
「あ、なんかスマン。それはそうと、もう着くぞ」
「はっ!?」
ギューンッ!!!
……
バゴオオオオオンッッ!!!
「よし、安全に着陸できた」
「どこがだよっ! 確かに早かったがッ!」
「……むにゃ……こ、ここは、どこ?」
「お、起きたか。さあ。さっさと終わらせるぞ。エルが話を通してくれてる。すぐ終わるさ」
「えっ、えっ、どういうこと? え、いや、ここどこなのよ!?」
「あ? ああ。アールビ―王国だ」
「あれからどれくらい時間が経ったの!?」
「十分くらい」
「みっじか!!」
京が雷を纏って全力で走るのと、俺が未奈をお姫様抱っこした上で右眼開眼【限界突破】して、走るのが、大体同じくらいの速さだった。
俺だいぶ強くなったな……
さ、早く測るか。
アールビ―王国・図書室
先に謁見を済ませて、図書室で測ることになった。
謁見だが……言うことなし。
特徴のない王。特徴のない謁見の間。特徴のない騎士達。
もう言うことなし。
「では、測定を始めます」
「よろしくお願いします」
「まずは、この丸い板に六属性、均等に魔法を撃ってください」
「はい!」
火弾! 水弾! 風弾! 石弾! 氷槍! 雷槍!
それぞれ六属性の初級魔法を撃っていく。
十分均等に見えるが……
「結果が出ました」
「え、もう!?」
「はい。結果、浅井未奈さん。あなたの得意属性は『氷』と判明いたしました」
「氷……それが私の属性……」
「では、私忙しいので、これで」
「あ、ありがとうございました!」
ふ~ん……氷か……
ってことは、京と相反する属性だな。
ま、それはいいか。
「じゃ、帰るぜ」
「えっ!? 来たばっかなのに!?」
「勇者が騒ぐだろ。その相手なんかめんどくさい」
「ま、まあそうね。分かったわ。で、でうやって帰ればいいの? またお姫様抱っこ?」
「あーそれでもいいが、どうせなら氷を極めてみないか?」
「え?」
翌日……
「じゃ、俺は剣取りに行くから、お前は帰って伝言よろしく」
「分かったわ。けど、〈思念伝達〉でもできるでしょう? わざわざ口頭でする意味があるの?」
「〈思念伝達〉は、脳内で考えられた言葉を高度な魔術文字に変換して転送することで念話をしている。要するに、魔術文字が解読されれば何話してるかばれるってこと」
「え、カイの使う魔法を介入できる人なんているの?」
「人はいないな。人は」
「……そういうことね。じゃ、またね」
「ああ。よろしくな」
……
さ、教えられた魔法使ってみようかな。
「ふぅ……〈氷天砕時〉!」
キン! バッキィン!!!
「うわわわわっ! っと、成功した……」
〈氷天砕時〉は、空気中に創り出した氷を蹴り出し、その瞬間に氷を自壊させ、発生した爆風で加速する魔法だ。
ちなみに、昨日はずっとカイにこれを教わっていた。
カイ的には、成功するとはつゆほども思っていなかった。
何故なら、この魔法は使用者がいまだ一人もいない、オリジナルの魔法だからだ。
氷に適性があろうとも使えるほど簡単な魔法ではない。
「早く帰らないと、正義が暴れ出しちゃう!」
その日の気温が急激に下がったのは別の話だ。
一方、カイたちは……
「なあ、魔獣が異常によって来るんだが、なんでだ?」 ズバッ!
「分かんない……〈魔物襲来〉は発動させてないんでしょ?」
「させてない。今は大罪魔剣の魔力を放出させないための〈可能性演算強化学習〉しか発動していないはずだ」
「おい、カイ。多分だが、大罪魔剣に反応してるんじゃないのか?」
「どういうことだ?」
「俺が思うに、大罪魔剣から溢れ出る神力に反応してるんだと思うぜ? まあ、あくまで推測だけど」
「なるほど」
一理ある。
魔物は魔力より神力に寄っていく習性があるからな。
大罪魔剣に寄っているってのも普通に一理ある。
「なあ、カイ。最上階までは俺たちも戦わせてくれよ。暇なんだが」
「おっと。それは悪かったな。分かった。ここから俺は傍観させてもらう」
「っしゃ! 行くぞ、愛!」
「りょーかい! 〈進化の施し〉!」
「キタキタァ!! 〈雷刀閃激〉!」
ズバババアアアッッ!!!
「え、ええ……私、光の軌跡しか見えないんだけど……カイ、どう?」
「ばっちり見えるが……魔物どもは一切見えてないっぽいな。面白い。このままずっと行かせるか」
「私は? ねえ私は? 暇なんだけど」
「って言われてもなあ……俺にずっと魔法撃っとく?」
「カイは魔法無効化体でしょ!!!」
暴食の加護強いな。魔法無効化が強い。
まあ、それはいいとして、これ、何階層あるんだ? 大罪魔剣に匹敵する神剣が三十層ぐらい、とかはない気がするが……
三十分後……
「もうそろそろ二百層か。このぐらいで終わると思うんだが……」
「先に走ってる京からなにか連絡はないの?」
「何か言いたいときは周辺の空気がばちっとするから、その時に〈思念伝達〉する……っと、ばちっときたな」
「私何も感じてない……」
『おう。どうした?』
『ああ。いかにもボス部屋っぽいところに来たから、一応待っておこうと思ってな。どうする?』
『今すぐ行く。入るんじゃねえぞ』
『了解』
「というわけで……行くぞ」
「分かった!」
…………
「ここか……いかにもな感じだな。分かった。最初は鏡花がやってみてくれ。暇なんだろ? いい実験だ」
「やってみる!」
ギイイイイ……
『!』
「へえ、騎士か。んで、右手に持ってんのは対影神剣、と……行けるか?」
「行ける! え、対影神剣で魔法斬らないよね!?」
「ああ。スペックと言っても、能力まで一緒じゃない。さすがに、魔法を喰らう能力は無いはずだ」
「じゃあ行ける!」
『!』
「来たね! 〈反抗源波〉!」
ゴオン!
「……あー」
「攻撃を反射する結界を作ったはずなんだけど、効いてない!? だったら、〈暴嵐の凶刃〉!」
『!』
ガキン!
「え、これも通らないの!? じゃあ……!?」
『!』
「っぶな……ッ! 〈烈火滅却〉! 〈激流泉禍〉! 〈嵐天怒絶〉! 〈土岩破爆〉! 〈絶氷連河〉! 〈滅雷轟破〉!」
ゴオオオオッ!! ドバアアアッ!! ビュオオオッ!! ドドドドドッ!! パキイインッ!! バチバチィッ!
「うっわ……なんつー地獄絵図だ。六属性の最上級魔法をあんな威力で撃てるやつ、こいつくらいしかいねーだろ」
「……雷だけが俺の取り柄なのに、威力あっさり負けてんだけど。めっちゃ悲しいわ」
「どの属性にも属さない魔法でよかった~。悲観することが無いし」
俺のパーティーにいるから何か落ち込んでいたようだが、魔法の威力で言えば、このパーティーで二番目に強い。
しかも俺と拮抗しているから、魔法に関してはプロフェッショナルだ。
「……どう!?」
「ま、あんだけの魔法喰らってたら無事じゃないだろ!」
「あ、京、お前……(フラグぅ!)」
『!』
「無傷!? え、どうして!?」
「……〈究明〉」
暗黒の騎士
固有スキル:騎士の心得
スキル:魔法無効化
「……うせやろ……」
「えっ。じゃあ、私どうやっても倒せなくない!?」
「そういうことになるな……」
騎士の心得は、常時ステータスが+50%だそうだ。
物理で強いくせに、魔法は無効だってよ。そりゃつええわ。
ま、俺の敵ではないかな。
「鏡花。俺がやる。引いてろ」
「あ、うん……」
さて……魔法は効かないから今回は超魔法はお休みかな。
となると……
「大罪魔剣での攻撃が主となるな。一旦身体能力強化は使わなくていいか」
『!』
「速いが……遅い」
ズバッ!
『!!』
「柔らかいな……違うな。俺の攻撃力が高すぎるのか。っていうか、お前ちゃんとやれよ。手ぇ抜いてんじゃねえ」
『……!!』
「ッ! 速くなったな!」
ガキン! バキン! ガキン!
それでも俺が有利だ。騎士は左腕を落としているし、そもそものステータス差がある。
と、その瞬間。
ゴウッ!!
「いいねいいねえ! 【騎士の心得】の特殊効果か! 自身の体力が一割を切ったら体力全快の上、自身の強化だな。面白い!」
相手が本気を出したのだ。ならば、こちらもそれ相応の力を出さなきゃな。
「右眼開眼〈限界突破〉!」
『!?』
「さあ、殺るぞ」
俺の剣戟に必死に対応する騎士。しかし、剣のスペックが俺の剣と同一でも、使用者のステータスが違いすぎる。
徐々に騎士の剣は遅れ始め……
「終わりだな」
『!?』
ズババババッ!
「これはいただくぞ」
『……』
「えーっと、カイ。もうそいつ動かないよな?」
「ああ、完全に倒した」
「え、じゃあ何で消えないんだ? 普通は消えて金が落ちるだろ?」
「多分だが……こいつそのまま復活するぞ」
「は!?」
「消えて再ポップじゃなくて、このまま復活だろうな」
「マジか。じゃあさっさと出るか?」
「まあそうだな。さっさと王都に帰ろうぜ」
目的は果たした。ここに長居する意味もないしな。さっさと帰るに尽きる。
ま、帰ったところですることも無いがな。
……じいちゃんのいる山に行ってみるかな。
…………
俺たちはダンジョンから出て、そのまま国も出ようと思ったのだが……
「……おかしいな。なにか雰囲気が違う」
「うん……ざわついてる感じがする」
「みんな怖がっている感じだね。何かあったのかな?」
「あ~。カイ。言いたいことは分かったから、その目線をこっち向けんな。情報収集だろ? 了解了解」
「よく分かってるぅ。頼むぞ」
「うぃ~」
街……というか国全体がざわついている。何かあったんだろうな。
まあ、京のことだ。すぐ調べて来るだろう。
それまで何するかな……
「ただいまっ!」
「はええな、オイ。で、どうだった?」
「あー、良くも悪くもない知らせだな」
「はい、どうぞ」
「この国に、約百万の魔獣が襲来中だってよ」
別に騎士は弱くありません。カイが強かっただけで、世界最強クラスです。
私情ですが、新作を出します!
一月四日、https://ncode.syosetu.com/n8553hz/にて、
『その音楽家は何を奏でるか』
出すことにしました!
これからも、応援よろしくお願いいたします!




